8.ARK827.04/転機

「どういうこと?」


 図書館のオートショップの前で、ゾフィーは問い返した。夕方の光りが、斜めに赤く、窓から差し込んでいる。

 その顔から、脂汗がだらだらと流れる。彼女が汗かきだということは彼も知っていた。感情の流れに、彼女の身体はとても正確だ。


「言った通り」

「言った通りって…… それじゃ曖昧だわ、判らないわよ!」


 するとテルミンは、黙ってぽん、と彼女の肩に手を置いた。やめてよ、と彼女はその手を払った。


「変よ」


 彼女は自分の感情を確かめる様な口調でつぶやく。そしてその自分で発した言葉そのものにうなづく。


「そうよ、変だわ」

「何が変?」

「それとも、あたしがずっとあなたという人の本性を知らなかったって言うの?」

「……ゾフィー……」


 テルミンは目を伏せる。彼女の一途な感情は、とても彼にとって心地よかった。自分にもやや違った意味でそれは存在する。だが方向性を何処か違えてしまったことを、彼は知っている。


「君にも、ずっとそのままで居て欲しかったけど」

「だからそれは、どういう意味なのよ!」

「知りたい?」

「知りたいわよ」


 彼女は好奇心が旺盛だ。でなければ、中央放送局に勤めることはなかったろう。自分も同じだ。好奇心が猫をも殺すことを知っていても、それでもあの男がつきつける「何か」に興味を持って、そして、逃れられない道へと足を突っ込んでしまった。

 彼のなけなしの良心は、彼女を引き込んではいけない、と感じている。だがその一方で、テルミンはゾフィーがその持ち前の好奇心に勝てないことをも知っているのだ。


「だったらおいで。君はそれで、もっと大きなことができる様にになれる」

「どうしても、ここでは言えないのね」 


 うん、とテルミンはうなづいた。


「じゃあ行きましょう。行けばいいのね。それで何をあなたがあたしにこれから望んでいるのか、知ることができるって訳ね」

「少なくとも、君は、ここの書庫に出入りが自由になれる人間になれるさ」


 ふうん、とうなづき、ゾフィーは唇を噛み、口をつぐんだ。


   *


 その人物の存在を、一般市民が知る様になったのはいつからだろう。


「あなたはこの人物をいつから見たことがありますか?」


 例えばそうやって、首府の繁華街、水晶街を歩く人々に街頭インタビウをしたとしよう。するとその人は答えるだろう。


「……あれ? そういえば、いつの間にか見る様になっていたね」

「少なくとも去年の終わりにはもういなかったかなあ」

「いや去年の夏には居たよ」

「いやもっと前から居なかったかい?」


 等々。

 結局、誰もその人物をいつから目にする様になったのか、正確に答えることができないのである。

 正確に答えられるのは、たった三人だけである。すなわち、当事者と、その直接の上司と、その直接SPの佐官。

 ヘラ・ヒドゥンと呼ばれている現在の首相の側近は、その位すんなりと市民の目に入っていった。

 側近の出現だけではなく、様々な交代劇が、政府の中では密やかに行われていた。

 始まりは、グルシン通信相の解任だった、ということすら、人々は気付いていないだろう。

 その程市民は政治の動きに鈍感だった。

 政府が帝都政府と協力する様な動きには敏感すぎる程敏感なのに、その内閣の人事が少しづつ動いていることには、奇妙な程に無関心だった。


「結局は、権力がゲオルギイ首相の一手に集中していることを、一番良く知っているのは市民だからさ」


 帝都からの派遣員は、寝物語に首相の側近のSP佐官につぶやいた。

 テルミンはそんな言葉が果たして耳に入っているのか、いないのか、返事は無い。ただ開いた口からは、声にならない声が時々弱々しく漏れるばかりだった。


「しかし君は、予想以上に上手くやっているな」


 冷静な声の持ち主は、その声とは裏腹に、強く、時には荒々しい程の力で彼を抱きすくめる。そんな行為に、目を伏せ、眉を寄せ、端から見れば彼の表情は、苦痛に耐えている様にしか見えないかもしれない。

 実際、彼にとって、それは快楽が欲しいがための行為ではなかった。

 むしろ逆だった。

 強く吸われることも、激しく抱きしめられることも、無理矢理高められることも、自分の中を侵犯されることも。

 何をやってるんだ、と彼の中で叫ぶ者もある。だが、どうしても彼はそうせずにはいられなかったのだ。

 そして無理矢理テルミンは、相手の問いに答えようとする。ちゃんと答えれば、この相手は、もっと自分を追求しようとするだろう。彼はそれを望んでいた。


「……こ……ないだの…… 奴、のこと、聞いた?」

「真っ先に聞いたよ。何って君は、いい手際なのだろうね」


 そう言ってスノウは彼の手に口づける。


「……手だけじゃ、ないだろう?」


 彼はうっすらと目を開いて、相手と視線を合わせた。見透かされそうな目に敢えてじっと視線を合わせた。この目に比べれば、他の政治家達なんて大したことは無い。

 ああそうだね、とスノウは笑い、彼の首を抱えると、強く口付けた。何度も、何度も、自分の中で、息と体液の絡まる音が響いている。ひどく熱い。


「この口が、あんな短い期間に、どれだけの政治屋を突き落としてきたのだろうね」


 もっと言ってほしい、とテルミンは思った。


「全くもって見事だね。私が待っていただけあるよ」


 相手の誉め言葉は、自分にとっては刃に等しい。

 その意味が時々よく判らない時もあったが、それでも、自分の耳のフィルターを通した途端、それは非難となって彼の中に突き刺さる。

 だが彼はそれが欲しかった。

 矛盾しているのは判る。それでも。


 だって。


 彼の中で叫ぶ者がある。


 俺は糾弾されるべきことをしてるんだ。俺を責めないこんな世界は何かが狂ってるんだ。狂っているはずなんだ。


 だが彼は糾弾される訳にはいかないのだ。ヘラを表に立たせてしまった以上。


 ヘラ付きのSPとしての毎日の職務に加え、彼はまだ、首相官邸のアンハルト大佐の副官でもあった。

 ヘラが毎日をふらふらしていた時ならまだしも、側近としての職務を首相から与えられ、そのSPとして公務に付き合っている現在、テルミンには休む暇は無かった。

 だがそれはテルミンにとって好都合だった。陥れる対象に接近する機会は増える上、何かを深く考える時間は無くなっていたからである。

 一つ行動を決めた時、思考は逆に邪魔になる時がある。テルミンは自分自身を激務の中に置き、寸暇を惜しんで首相の古く、有能な人材を一人一人陥れて行ったのだ。


「……ストロヘイム教育相は純粋な性的ゴシップ、マルヴィン厚生相は生命保険会社との癒着、バーテル辺境開発長官は……」


 一息ついた後、うつぶせになり、シーツの中に顔を埋める彼の背に、陥れて行った相手の名を、ゆっくりとスノウは口にする。目を伏せて、テルミンはそれを聞きながら、次第に自分にも睡魔が訪れるのを知る。

 そして今日も、と彼はその時初めて安心するのだ。自分はあのことを考えずに済んだ、と。



「それにしても」


 ゲオルギイ首相は、視察帰りの車の後部座席に乗り込むと、隣に座ったヘラに向かって話しかける。テルミンは前の座席、運転手の左に座って、何も聞いていないふりをしていた。

 実際、普通なら聞こえない。だがヘラの服のポケットには、盗聴の端末が貼り付けられている。それはヘラも承知の上だった。テルミンは耳に小さな受信機を入れ、リラックスしているふりをしながら、会話を聞いていた。


「お前がいきなり私に切り出した時には驚いたが、やはり使ってみて良かったな」

「そうか?」


 ぞんざいな口調は変わらない。ゲオルギイもプライヴェートの時には、その方が良い、とヘラに言っているらしかった。


「しかしこれだけは残念だな」

「よしてくれ」


 その口調から、テルミンはゲオルギイがヘラの髪に触れたことを察知する。今現在、ヘラの髪は短かった。印象を変えるため、というのが一番の理由だったが、言い出したのはヘラだった。正直言って、テルミンすら、その長い巻き毛はヘラによく似合っていて、切るなぞもったいないと思っていたのだ。

 現在、真っ直ぐに矯正され、短くなった髪は、耳元くらいしかない。それはそれで似合ってはいたが、確かにヘラの言う通り、印象は思い切り変わったのは事実だった。


「お前は思っていた以上に手際もいいし、案外人受けもする。そうだな、長い髪はもったいないが、あの姿には、気後れする者もいるだろう」

「そういうものか?」

「少なくとも私は、お前を最初に見た時はそうだった」 

「あの状況で、よくそんな悠長なことを考えたな」

「あの状況?」

「俺が、逮捕された時だろう?」

「いや違う」


 え? とテルミンは思わず片眉を上げた。


「違うのか?」


 さすがにヘラもそれには驚いている様だった。声が高い。


「違う。私がお前を最初に見たのは、第35連隊が、あの騒乱を鎮めた時の報告の際だ」

「いつだった……」

「あれは、水晶街の時だ。その時お前はあの長い髪を後ろで束ねて、軍服をあの中で一番汚れさせ破れさせて、ひどい格好で、私の前に立ったじゃないか」

「そんな昔のこと、覚えちゃいない」

「薄情な奴だな、いつものことだが。まあそれはいい。そこでお前を引き抜こうとしたのだがな。官邸警護の方に。元々お前は生粋の士官学校出身じゃあないだろう。引き抜かれたばかりだったしな。ところが書類を揃えている途中に、あの騒ぎだ」

「……」


 ヘラは押し黙る。そしてテルミンは耳に神経を一層集中させる。俺は、それは知らない。ヘラ/アルンヘルムの経歴は、一応書庫のデータから引き出したつもりだった。だがそれは何処かで書き換えられている可能性もあるのだ。


「お前もあの男も、災難だった、という訳だな」


 なおもヘラは黙ったままだった。そしてテルミンの中に、赤信号が点滅する。非常ベルが鳴り響く。駄目だ。これ以上言わないでくれ。

 しかし無論、話している側にそんな思いが通じる訳はない。


「辺境武装地帯の強者が、こんな華奢な兵士だったなんて、誰も思わなかっただろう」

「見かけで戦争はするもんじゃない」

「そうだろうそうだろう。お前の場合は、その見かけ自体も武器になったかもしれん」

「俺はそんなことはしなかった」

「まあいい信じよう。ともかく、激増するテロ対策のために、軍部は、お前らを辺境武装地帯から引き抜いたんだ」


 辺境武装地帯。テルミンはその聞き慣れぬ単語の意味を大急ぎで引き出す。

 それは文字通り、「武装地帯」だった。確かにこのレーゲンボーゲンは単一の政治形態を持つ惑星だったが、そんな惑星の宿命と言えるものに、辺境地における独立勢力、というものがあった。首府から遠く離れたそこでは、毎日の様に戦闘状態が続いている。

 話の内容からテルミンが察するには、ヘラはそこに居た兵士だ、ということだ。そこから第35連隊に引き抜かれたのだ、と。


「俺はあそこで結構楽しんでいたのに、軍の上層部は、勝手にに俺達を引きずり出したんだ」

「そうだな。そして当然の様にお前らは連隊では目障りな存在だったのだろう。当初からそこに居た、士官学校出の連中には」

「奴らは馬鹿さ」

「そう思うのか?」

「馬鹿だろ。だけど人を陥れることに関してだけはひどく上手でさ。俺もあいつも、あの時あの瞬間まで、連中が、クーデターを起こすなんて考えてもいなかった。俺達が知っているのは、『成功する戦闘』だ。誰がどう考えても失敗する計画なんて、俺には予想もつかなかったのさ」


 自嘲気味にヘラは話す。一瞬頭から血が引いて、テルミンは目の前が真っ暗になるのを感じる。だがすぐに彼は気を取り直した。聞かなくてはならないことはあるのだ。そしてヘラは、それを自分に聞かれても構わないと思っているのだから。


「そんな計画があったと知っていたら、俺は連中を上層部に引き出す前に殺ってたさ」

「自信があるんだな」

「俺達は、その位の量を向こうで二人でいつも相手にしてきた。そして負けたことはない。死にたくなかったから」

「それで、私の要求を聞いたのだな」

「そうさ」


 そしてしばらく、二人の間に無言の状態が続いた。それを終わらせたのは、やはりゲオルギイ首相の方だった。


「何が欲しいのだ? ヘラ」

「別に」

「そんな訳は無いだろう」

「あんたは俺にこの新しい籍をくれた。今はそれで充分さ」


 はははは、とゲオルギイは笑った。そして、こう付け足した。


「嘘が上手くなったな、ヘラ」


 ヘラからの返事は無かった。返事の代わりに、一つの問いが、その口から静かに流れ出た。


「ゲオルギイ、家族を首府に呼ぶ気は、無いのか?」

「無いな」


 ゲオルギイはきっぱりと言った。


「俺はてっきり、あんたは家族がいないつまらなさから俺に手を出したと思ってた」

「そう見えたか? だがそれではまだ人を見る目は無いな」


 テルミンは会話を聞くうちに、嫌な予感がしていた。嫌な風向きになってきた様な気がして仕方がない。


「私は元々、こういう人間だったのだよ」

「ふうん? 何それは、俺の様な、綺麗な男が好きだ、って意味?」

「ずいぶんとあからさまに言うな。そうだ。私はあれと結婚し、子供を作った。だがそれは義務でしかなかった」

「へえ。お偉い家の方々は大変だ」

「だが義務は果たした。妻には充分な生活を与えた。あれが愛人を何人持とうと勝手だ。お前と違って、あれはひどく貪欲な女だった。きっと愛人の何人かは居るだろう。うちの娘はあれの娘だ。私の娘ではない。その代わり私の生活には干渉はしてこない」

「便利だね」

「しかしそうやって義務で作った一人息子なのに、今は何処に居るともしれん」

「……」

「生きているか死んでしまっているかすらわからん」

「似てるのか? あんたに」

「小さい頃は似ている似ていると周りには言われたがな。だが今現在の私の目の裏に浮かぶのは、あれの金色の頭くらいなもんだ。あれは確か中等学校を卒業したあたり…… 大学か? 家を飛び出しとる。似てる似てるなんて言われても、自分を鏡で見て、思い出せるのはあれのおさまりの悪い金色の頭くらいしか出てこん。どんな顔をしていたのか、……気がついたら、思い出せん」

「あんたは不幸な人だ」


 そこに本がある、と言うのと同じ口調でヘラは即座に言った。もしかしたら、ゲオルギイ首相を指さしながら言っているかもしれない。


「ほう。お前の口からその言葉が出るとは思わなかったな。それとも実はお前は私のことを少しでも好いていたというのか?」

「そんなこと。あんたは信じていないし、俺も感じていないだろ。これはどうしようもない事実だ」

「はっきり言うな」


 そしてまたははは、とゲオルギイは笑う。テルミンはやや困惑している自分に気付いていた。ゲオルギイ首相の感情も…… だが、ヘラが何を考えているのか、それすら判らなくなってきた。

 もっとも、ヘラが自分に本心など明かしたことが無いのも確かなのだ。


「お前が何を考えて、仕事が欲しい、なんて言い出したのかは私は知らん」


 笑い終えるとゲオルギイは真面目な口調に戻った。


「言ったじゃないか。退屈だって。それにあんたもいちいち戻ってくる手間も省ける。効率的だろう」

「それはそれでうなづけるところがお前らしいがな。まあいい。お前がどんな思惑を持っていようが、私は別に構わん。好きにしろ」

「……」

「何をするにしても、だ」

「ふうん」


 ぞく、とテルミンは背筋に悪寒が走るのを感じていた。無論彼はこの首相をあなどっていた訳ではない。伊達に自分達が少年の頃から首相という役をこなしている訳ではないのだ。

 しかし、ヘラに関しては別だと思っていた。テルミンは自分の見通しの甘さに密かに歯ぎしりをした。

 そしてその一方で、こんな意味深な会話を繰り広げながらも、平然とした口調と、おそらく表情も崩していないだろうヘラの態度に、改めて一種の快感を覚えた。


   *


 そして忙しい公務の間を、本当に縫う様にして彼は、ゲオルギイの家庭に関して、もう少し突っ込んだ調査をしてみた。ただし時間が無いことから、それはさすがに自分でする訳にはいかなかった。


「……はい、これだけの資料を収集すればいいのですね」

「ああ。俺の名を出せば、中央図書館の司書は通してくれる」

「判りました」


 テルミンの部下の一人は、言われるままに、幾つかの調査対象を手にし、図書館へと向かうことが多くなった。テルミンは重要度Bくらいまでの調査をこうやって下請けに出す様になっていた。

 ただ、その場合、部下の人選には気を配った。できるだけ情報の内容には興味を持たず、なおかつ収集の速い者。ちょうど良く、テンペウ少尉という士官が、それに相当した。彼女は内容について一言も触れたことは無かった。

 もっとも、内容について詮索したところで、彼のすることの真意は掴めないだろう。下請けに出すのは、見事なまでにばらばらの情報でしかない。

 情報は、情報だ。それはあくまで独立したものでしかない。それが意味を持つのは、それを手にした人間に、何らかの目的がある時だけなのだ。

 テンペウ少尉は、彼よりやや若い、黒い真っ直ぐな髪を短く切りそろえた女性で、口元をいつもくっと引き締めている様な、硬質で、変化の無い表情をしていた。


「少佐」


 ところがある日、彼女は資料を手渡しながら彼に声をかけた。返事と報告以外の声を耳にしたことが無い様な気がしたので、溜まっていたデスクワークにいそしんでいた彼は、はっと顔を上げた。しかし彼女は相変わらずの無表情だった。


「実は先程、図書館から出た時に、アンハルト大佐に資料の中身を訊ねられました」

「それで君は、答えたのか?」

「はい」


 彼女は短く答えた。それは仕方の無いことだ。アンハルト大佐は、彼の上官でもある。別に聞かれて困る程の情報ではない。確かにその中に「首相の家族」の情報もあるのだが、それは彼の職務上、調べた所でおかしくはないことだった。むしろ今頃調べるなど遅い、と言われてもおかしくないことだった。


「何か他に、聞かれたか?」

「いいえ」


 彼女はまた短く答える。そして失礼します、と言ってテルミンの前から立ち去った。

 無論テルミンも、家族構成くらいは知っていた。首府郊外の都市、エレに首相の実家はある。そして両親・妻・息子がそこに居るはずだった。

 しかしそれ以上のことは公には流されることはなかった。すなわちそれは、首相自身が、家族をマスコミの矢面に立たせたくない、という姿勢の現れでもある。

 そしておそらく、その失踪した息子に関しては、首相がその情報を押さえさせたのだろう。この公式な記録にも、そのことは記されていない。

 彼はとりあえずその情報を取り置いた。情報は使いようによって、武器にも盾にもなる。

 そしてその一方で、別の資料に目を通す。それは辺境武装地帯における部隊構成員に関するものだった。

 正直、この資料を手にするのは彼にとってひどく憂鬱なものがあった。彼は決して、ヘラ以外のもう一人について、考えない訳ではなかったのだ。

 25人の逮捕者の中で、23人しか処刑されていない、というなら、残るは二人に決まっているではないか。一人はヘラだ。それは本人という大きなヒントがあるから、該当する人物を探すことはそう難しいことではなかった。だがもう一人については、特定どころか、何のヒントも無かったのだ。ヘラに聞けば一番早いのだろうが、テルミンは、それだけはためらった。

 そもそも何故「もう一人」が存在するのか。ヘラは判る。会話の調子からして、ゲオルギイ首相にとって、ヘラは元々目をつけていた兵士なのだ。たまたまタイミングが悪くて、官邸警備に引き抜く前に、下手な事件に巻き込まれてしまっただけなのだ。ただ、それを逆手にとって、身の安全と引き替えにその身体を要求したのはさすがと言えようが…… 

 ではもう一人は。テルミンはそれを考えるとひどく憂鬱になる自分に気付く。気付くから、そのことは強いて考えないようにしてきた。

 だが、あの会話は、否応無しに、彼に「もう一人」の人物を割り出させるきっかけとなってしまった。自分をごまかしている理由が無くなってしまったのである。

 彼は最新の構成員資料を端末に掛けた。日付を見る。ごく最近のものに更新されていた。あの水晶街の騒乱の年に転籍となった兵士のリストを取り出した。そして思ったより少ないことに、彼は安堵する。

 確かに抹消される籍は多い。しかしその籍が消える原因は、ことごとく「戦死」だった。「転籍」はそう多く無い。

「辺境」はテルミンにとっては、想像のしにくい場所だった。そもそも彼の頭には「辺境」はむしろ全星域の中のこのレーゲンボーゲン自体のことしかなかったのだ。だがその中にまた、辺境がある。その向こうで、異なる何かを掲げて戦っている何かが、いつも存在するというのは。

 戦争がなければ、騒乱がある。

 あちこちで、騒乱は起きているのだ。結局それは首府だけではない。首府に起きていることは、この惑星上のあちこちで起きていることなのだ。

 彼は考える。これを何かに利用できないか?

 そして利用するならするで、更に大量の情報が必要となるだろう。…… 足りないな。彼は内心つぶやく。情報を一手に扱う権限が欲しかった。しかし無論そんなものは自分には無い。自分が現在出来るのは、入手できうる情報を最大限に利用して、出来るだけ良い効果を上げることだけだった。

 そして「仮想敵」としての帝都政府。

 このあたりを利用できないだろうか?

 考えながら、それでも目はリストを追っていた。そしてその中に、同年同日に転籍した者の名を見つけた。予想通り、その一つはアルンヘルムだった。そしてもう一人は、S・ザクセンとあった。

 彼は判明したその名前を、今度は第35連隊の当時の名簿に照らし合わせた。その作業は簡単なはず、だったのだ。

 だが。

 おかしい、と彼は思った。何処をどう検索しても、S・ザクセンの資料に関して、端末は「存在しません」を彼に伝えてくるのだ。

 そんな訳は、無いだろう?

 彼は思わぬ展開に眉を寄せた。アルンヘルム/ヘラに関する資料は、そのまま残してあったというのに、ザクセンに関する資料が無い。

 ……まさか。

 彼はふと思い立って、あのスノウから受け取った資料の一枚を取り出した。そこには、第35連隊の全在籍数と、その中の25人の名前が明記されていたのだ。

 彼は、アルンヘルム/ヘラを見つけた時に、その後のメンバーについて検索していなかったことを後悔した。無論その時の目的は、ヘラを過去の資料から探すことだったから、行動自体間違いではない。

 紙の上に、ザクセンの名はあった。連隊人数48人という数字も、その中の25人が参加した、ということもきちんと記入されている。

 そしてもう一度、当時の連隊の総人数を上げてみる。彼はちっ、と舌打ちをした。

 47人。

 ザクセンという一人の人物は、登録を抹消されている。

 更に思い立ち、彼は首府の役所の端末につなぎ、一般にも解放されている住民リストから水晶街の年に転籍したきたS・ザクセンを検索した。首府勤務の軍人は、転籍の際に、戸籍を移動させるのが決まりだった。

 S・ザクセンという名前は結構ありふれたものだったらしく、彼はその並んだ名前と住所と生年月日の量に一瞬眩暈がした。しかし気を取り直して彼はその中から、なるべくヘラと近い年齢のものを抜き出した。それでも五人ほど、そこには残った。

 だがその五人は、皆きちんとした住所が存在している。死亡届けは出されていない。

 消されたな、と彼は確信した。ヘラがそうである様に。

 しかしヘラの場合、アルンヘルムとしての記録は、残されたままだった。その違いは何だろう、と彼は考える。

 ヘラの抹消の仕方に、漏れがあるというのだろうか。だとしたら、この「もう一人」ザクセンは、「公的に」抹消されたとでも。

 だとしたら、説明がつくのだ。

 そして「公的に」IDの全てを剥奪される者。それは一つしかない。流刑者だ。決して戻らない、刑期の無い囚人。今すぐ処刑される訳ではなくとも、「いつか・確実に」死を期待される流刑者。


 S・ザクセンは、流刑惑星ライへ送られたのだ。


 自分の中で出た結論が、重くのしかかるのを彼は感じる。ヘラの様な、露骨なまでの例外ではなく、これは「罪一等減じ」の手続きをしている。では何故。

 しかしそんなことは、裏付けを取る前から自分が気付いていたことを、テルミンは知っていた。

 ヘラはあの時、一体何処を見ていたのか。決して好いてはいないゲオルギイに抱かれながら、あの目は一体、誰を探していたのだろう?

 テルミンは唇を噛む。


 ……流刑者を、戻す様に画策すべきだろうか? 


 彼は自問する。そして即座に彼は首を横に振る。


 NOだ。断じてNOなのだ。


 そしていくつも理由を考える。だってそうだろう、この計画にはヘラが必要なのだ。日々その考えはテルミンの中で大きくなる。ヘラは覚悟を据えて表舞台に出る様になってから、その存在感を増していた。自分の中だけではなく、ゲオルギイをとりまく者達の中でも、何か一線を画するものを感じさせる雰囲気すら漂わせはじめていた。

 元々、首相にすら同等の口をきくことに何のためらいも無いヘラだった。どんな部門の大臣クラスの人間にも気圧されることなく、あの綺麗な顔で、時には微笑をたたえながら、職務を鮮やかにこなしていく姿は、直接ヘラと言葉を交わす閣僚だけでなく、その部下に至るまで、ひどく印象的なものに映るようだった。

 特に。テルミンは知っていた。首相の公式発表をヘラが代理人として読み上げることがある。すると、その場の雰囲気ががらりと変わるのだ。マイクを通して草稿を読み上げるその姿に声に、視線が耳が、集中するのだ。

 ヘラの声は決して大きくもなく、また言い回しも「演説の名手」特有のはっきりした口調ではない。だがマイクを通した時、その声質そのものが、何か奇妙な威力を発揮するのだ。

 それが何故なのか、テルミンにも判らない。ただゾフィーから、そういう人間は居るものだ、と聞いたことはあった。それは訓練で得られるものじゃないのよ、と。それは天性のものなのよ、と。

 決して大きくもはっきりもしないその声に、人々は集中する。いや、大きくもはっきりもしないからこそ、集中するのか。内容を聞き取ろうとするのか。いずれにせよ、そうまでしてその声を聞き取りたい、という気持ちにさせるものなのだ、とテルミンは気付いていた。

 だからテルミンは、ヘラを通して、首相自身のニュース出演回数を増やす様に進言していた。首相を映す機会が増えれば、ヘラがその視界に入る機会も多くなる。そして「代行」の発表。次第にヘラという新しい名前の人間が、人々の目に耳に焼き付き初めていたのだ。

 計画の骨子はひどく単純なものだった。ヘラという人間を前に出し、邪魔者は消す。どう言いつくろったって、贅肉をそぎ落としてしまえば、それに尽きるのだ。自分にもヘラにも、主義主張があってそうする訳ではない。もしこれから掲げるとしても、それは方便でしかないことを、テルミンは知っている。

 そして邪魔者は順調に消えつつある。ヘラ自身の押し出しも順調だった。それ故、ザクセンを探す訳にはいかない。


 だがしかし、テルミンは一つ、重要なことを自分が忘れていることには気付いていなかった。



 とある知らせが首府に入ったのは、827年の年が明けてすぐだった。


「何てことだ……」


 無論その知らせは、首相官邸にももたらされた。それをゲオルギイ首相に告げたのは、この官邸警備における最高責任者たるアンハルト大佐だった。


「残念ながら、本当です。昨年10月に、ライにおける収容所の政治犯が、脱走し、アルクへと向かったそうです」

「何故それが、今になって発覚する? この2ヶ月というもの、収容所の兵士はどうしていたんだ?」

「説明致します」


 アンハルト大佐は、側近のヘラも居るその執務室で、穏やかな声で説明を始めた。


「事が起こったのは、10月です。これは間違いありません。発覚のきっかけとなったのは、輸送船の運ぶ鉱産資源の量が極端に少ないことから始まっています。ただし、この時の船長・タルヒン少佐はこの生産量の少なさを、ライの気候不順による生産不足、と説明しており、それ以上は申しておりません。しかも彼はこの年末で定年となり、退職しております。しかしパンコンガン鉱石に関しては、きちんと採取しておりましたところから、大問題にはならなかったということです」

「なるほど。パンコンガン鉱石だけはきちんと確保していたのだな。それは正しい行動だ」

「続けさせていただきます。しかしこの発言はが嘘であることは、やがて発覚致しました。理由は、航行ルートの変更。天候やら何やらで、確かに船が規定のルートを外れることはあります。ですが、この時の外れ方は燃料不足であるとか、エンジントラブルであるとか、そんな理由では説明が付かないものでした。人為的にルートは逸らさせています」

「それが発覚したのは何故か?」

「船長の交代です」

「つまり、船員全てが口裏を合わせていたと言うのか? アンハルト大佐」

「そうです。発覚により即刻当軍警は当時の船員を拘束、事情聴取を致しました。結果、この事態が正式に判明したということです」

「向こうの看守である兵士達は」

「それも軍警の手により、秘密裡にアルクへと連行致しました。同様に、拘束・尋問の結果、事態は一昨年の8月から進行していたということです」

「何ということだ!」


 ゲオルギイ首相は拳で机を叩いた。しかし厚い天板の机は、それくらいでは音を響かせることも無い。


「ライの方へも、軍警が残存物の調査へ向かった様ですが、脱走者達は惑星を離れる際、彼らの個別認識が確認できる様な書類やデータをことごとく焼却・廃棄した模様です」

「だろうな」


 ぽつん、と側で控えていたヘラはつぶやいた。


「以上の事項は、発覚から今まで箝口令を敷いてきました。そして全ての調査が終了したことから、本日の報告となったものと」


 控えているヘラのさらに奥手に、テルミンはSPとして待機していた。彼はこの報告の前から、別ルートで事態を把握していた。何処の部署にも、おしゃべりな者は居るのだ。

 だが事件が起きたことと、起きたと「認定された」ことは意味が違う。


「それで? その脱走囚達の行方は掴めたのかね?」

「いえ、まだ……」


 アンハルト大佐は言葉をにごす。


「最初に彼らを降ろした船員達の証言により、その地がディーヨンであることは判明致しておりますが」

「ディーヨンか……」


 ゲオルギイは口ごもる。


「よりによって、面倒な所に降ろしてくれたもんだ」


 ディーヨン。テルミンはその単語を耳に入れた時、真っ先に浮かんだのは、「辺境」の文字だった。彼はあれからこの惑星の中における「辺境」について詳しく調べてみた。ディーヨンは、赤道近く、この首府のある大陸の端に近い、森林の多い地区だった。

 そして辺境であるということは。


「反政府運動と手を組むということは、大いにあり得るということだな」

「は」


 アンハルト大佐は短く肯定する。首相は眉を強く寄せ、その間に深い皺を形作る。


「困ったものだな…… しかし彼らは自発的に彼らを逃がしたというのか?」

「無論その様なことは決して申しません。脅されたの一点張りです」

「では無用な拘束・逮捕は避けてくれ」

「しかし」

「君達には泳がせるという方法は無いのか?」

「あります。ですが…… 」

「それにより下手にこの期間大人しくしていた奴らに火をつけられたらたまったものではない。ただでさえ、また今度は内務省長官が、機密漏洩で辞職したばかりだ……」


 ゲオルギイはそう言ってふっ、と息をつく。そしてもういい、とアンハルト大佐を下がらせた。


「グルシンにストロヘイム。マルヴィンにバーテル…… そして今度はシャノンか」


 大佐が去った後の執務室で、首相はここ1年のうちに失脚していった高官達の名前を読み上げた。


「皆何をやっているというんだ。あの頃は皆、そんな単純な理由に心を動かされる者じゃ無かったはずなのに」


 この五人は、特に首相の古い盟友であったことをテルミンはよく知っていた。だからこそ、彼はそこから突き崩して行ったのだ。

 確かにこの五人は、かつてゲオルギイが首相になった時――― いや、なる前からの盟友であり、ゲオルギイの首相としての理想を体現するために必要な手足であったことは事実である。

 だが、手足がいつまでたってもゲオルギイのものであると錯覚していたのが、首相の敗因だった。失脚したのは、確かにその五人だったが、それにより大きな痛手を負うのは、他でもない、ゲオルギイ首相自身だったのだ。


「ヘラ、お前はどうだ?」


 不意に首相は側近の愛人に問いかける。しない、と短くヘラは答えた。


「そんなことはなかろう?」

「するのなら、もっと徹底的にする。俺は」


 テルミンはぎょっとして思わずヘラの方へ顔を向けた。


「なる程な。小手先のことでは無い、というのか」

「そんなことであんたがどうにかなるというのなら、俺はずっと昔にそうしている。だが今俺はこうしている」


 聞きようによっては、「だからこれからもしない」とも取れるし、「これからチャンスがあったらする」ということかもしれない。ヘラはそのあたりを曖昧にし、口にしない。

 だがそれ以上に、首相の次の言葉は、テルミンを驚かせるものだった。


「できるものなら、すればいい」

「本気か?」

「本気だ。私がその昔、政権を取った様に。それができるというのならな」


 ヘラはそれにはくす、と笑いを浮かべただけで何も言わなかった。しかし聞いているテルミンの方は、心臓が止まるかと思われたくらいだった。



「アンハルト大佐」


 テルミンは少々出ていろ、との命令を受けると、自分の直接の上官を小走りに追いかけた。まだ間に合うはずだった。


「テルミン少佐。どうしたんだい?」


 大佐は扉に手をかける所だった。そして振り向いた拍子に、そのノブは音を立てて外れた。


「……またやってしまったな」

「……大佐……」


 テルミンは一つため息をつく。大佐は抜けてしまったノブを手で玩びながら、テルミン問いかけた。


「で、何の用だい?」


「は…… あの、脱走囚のことですが……」

「ああ、それはもう、内務省の管轄に回る」

「では、その最初に送られた時の流刑者のリストというのは、内務省の管轄ということでしょうか」

「興味があるのかい? テルミン少佐」


 穏やかな声で、アンハルト大佐は問いかける。テルミンは危険信号がその中から出ていることを感じる。


「実は、友人の探している人物が、もしかしてその中に居るかもしれないので……」

「それは本当か?」


 大佐は急にテルミンの方へと身体ごと向き直る。


「では君が最近中央図書館の書庫から情報を何かと引き出していたのは」


 やはり何らかの疑いを持っていたな。テルミンの疑惑は確信に変わった。


「ええ。友人がずいぶんと長い間探していると言ったので…… すみません、私用にあの様な情報を何かと」

「……いや、それはもしや、あの時君が会っていた女性かい?」

「はい」


 それは事実だ。水晶街で見失ったバーミリオンを探しているのは彼女であり、バーミリオンが政治犯として流刑にされた可能性も当然あるのだ。

 事実から出る言葉は重い。少なくとも人が良く見えるアンハルト大佐は、それを信じた様にテルミンの目には映る。


「それでは残念だな。確かにあれは、内務省の管轄だ」

「そうでしょうね……」


 彼は露骨に深いため息をつく。


「彼女にはそう言っておくしかないですね。我々ではどうしようもないと」

「そうだよ。君もあまり色んなことに頭を突っ込むと、いきなり上から刃が降りてくる、なんてことも考えられるから、気をつけたまえ」

「……そうですね」


 もう何度も、その刃を他人には振り下ろしているのだけど。

 それでは、と手を上げて、どうしようかな、という様にノブを持って、アンハルト大佐は官邸の事務室へと入っていった。テルミンは何となく口の端を歪めると、その脇を爪で引っ掻いた。


「痛」


 ふと見ると、爪の間に血が混じっている。出っ張り掛けた黒子か、できかけたかさぶたをやぶってしまったに違いない。

 さてどうするべきか。

 ゲオルギイを使える部分は、使うべきなのだろう、と彼は思う。内務省だろうが何だろうが、命令一つで動かせるのは首相一人だ。

 流刑者リストを、電波に載せるという手がある。それを進言させたら。

 しかし。

 テルミンは血のついた指を別の指でさすりながら思う。ヘラがそれをさせるだろうか。

 どうしたものだろう、と考えながら、廊下の壁に背をもたれさせ、思案に暮れていると、扉からヘラが顔を出した。


「何やってる? 出るぞ」


 はい、と彼は反射的に答えていた。


   *


「内務省か」

「あんたなら、それは可能じゃないか?」


 テルミンは官邸内の裏通路をたどって、毎晩の様に派遣員の部屋へと通っていた。

 その逆ということはまず、無い。行くのは自分であり、くたくたに疲れた身体をそこで休め、夜明け前に自室へと戻っていくのが普通だった。


「まあ理由は幾らでも点けられるな。この惑星における囚人が、帝都政府の直轄地にまで逃走する可能性だってある訳だ」

「……だろう?」

「君が、そうしたいというなら、頼んでみよう。しかしテルミン、時期としては、そろそろ事に決め手が欲しいものだね」

「決め手」

「そう、決め手さ」


 スノウは彼のあごに指をかける。テルミンはその指がそのまま耳の裏へと回るのを感じながら、決め手について考えていた。それが何であるのか、彼は知っている。そのためにこの目の前の男は自分に有効なものを与えてくれるだろう。どんな思惑があるにしろ。

 後はそれをどう効果的に演出するか、だ。


「……そうだね、そろそろ、かも」


 そして彼は意識を手放した。


   *


「独占取材の申し込みがありました」


 朝、一日の予定を官邸の皆の前で読み上げることから、ゲオルギイ首相の一日は始まる。

 さすがにヘラも、プライヴェートな場以外ではゲオルギイ首相にもきちんと敬語を使う。必要とあれば、それは別にできない訳ではない。


「独占取材? それは何処からだ」

「中央放送局です」

「またか」


 ゲオルギイ首相は、ややうんざり、という顔になった。

 実際、ここしばらくというもの、この中央放送局は、首相の近辺をクローズアップしていた。それまでは報道屋の目も、閣僚それぞれに分散されていた。だが閣僚の中でも特に有力な五人が失墜してからというもの、権力だけでなく、視線もが首相に集中していた。

 ゲオルギイは首相になってしばらくは権力集中型をとってきたが、ここ数年というもの、その五人にそれを分散する形を取っていた。

 一人や二人でなく、五人というその数がバランスが良かったのか、内閣の運営は可も無く不可もなく、時々起きる各地の暴動も押さえ、何とかやってきたのだと言える。

 だが、その五人がいない現在、首相は数年ぶりの権力の重さにやや疲れていたとも言える。少なくともテルミンにはそう見えた。


「断りましょうか」


 ヘラはそれでも一応確認のために訊ねる。そうしてくれ、と首相はこめかみを押さえながら答えた。どうやら軽い頭痛がするらしい。


「それではその様に。次に、アンペル新宙港の視察が入っています」

「ああ、それか」

「ご気分がすぐれなさそうですが」

「いや、これ位は大したことはない。ヒドゥン、ドクトル・ビルクレに後で頭痛薬をもらってくれ」

「はい」

「それは午後までかかるのか?」

「アンペル宙港はまだ今のところ一般には解放されていませんので、道路の整備状況などまだまだ不十分なところもあります。今回はそれも踏まえて……」

「わかったわかった。午後までかかるのだな」


 はい、とヘラは答えた。


「夜には、クリンゲル財団の夕食会がありますので、それまでには」


 一日中車に乗りっ放しだな、とゲオルギイは苦笑いをした。そしてテルミンは内心で、同じ表情を作った。好都合だ、と。



 アンペルまで行くには、途中まで高速道路を通るのだが、途中からは一般道に入らなくてはならない。

 とはいえ、位置が位置なので、一般道とは言え、通りかかる地上車の数もそう多くは無い。だがものものしくなるのを首相は嫌い、視察に向かう車に付き従う警備の兵士も、軍の車を使用していた訳ではなかった。

 そしてやや車間距離を離す。いくらものものしいのは嫌だと言ったところで、首相の地上車が外見が全く一般のそれと同じということはない。一台で走る姿は、何処の金持ちが、という程度には目立つ。黒光りのするボディ、後部座席の見えないシェードのウインドウ、機能性を無視した大きな車体。

 そんな車におまけの様に小型車がくっついていたら、それはそれで通りを行く者から目を引いてしまうだろう。

 そしてどうやら、目を引いてしまった者が居たらしい。運転手のヴェスタはちら、とバックミラーを見ると、隣に座っているテルミンに話しかけた。


「少佐、ずっとこの車を追っている車があります」


 テルミンは黙って、車内のモニターに目を移した。言われる通り、背後から追ってくる車がある。しかも一台ではない。


「どうします?」

「放っておけ。あれは確か、今朝独占取材を申し込んできた、中央放送局の奴だ」


 ついてきたな、とテルミンは中に乗っているゾフィーの姿を認めながら思う。そうだ、ついておいで。そして君はその目で、見るんだ。


「し、しかしそうでない方は……」


 運転は上手いが、その上手さが普通以上の臆病さから来ているこの運転手は、語尾が消えそうな声でそう言った。ちょっと待て、とテルミンはモニター画面で、ゾフィーの後ろからやって来ている別の車をクローズアップした。


「! しまった、ヴェスタ、スピードを上げてくれ!」


 予定されていた言葉をテルミンは叫ぶ。運転手は言われた通りに、アクセルを強く踏む。テルミンは端末を掴むと、同方向二車線の斜め後ろについている警備の車に向かい、声を張り上げた。


「後方二台目の車に気を付けろ!」


 何ごとですか、と背後からの雑音混じりの声が飛び込んでくる。

 目の前には、真っ直ぐ、長い道が延々続いている。道の脇には人の手が入らない大地が広がっている。

 その大地の土質は、農耕には適さない。そして季節によって強風が延々吹き続くその気候は、住宅地にもできなかった。

 ただただ道ばかりが延々と、次の町へのつなぎという目的だけで、続いている。目的も無く走っていたら、確実に眠気を誘いそうな…… 

 しかし、どうやら眠気どころではないらしい。


「後方二台目、の座席の中に、銃の姿が見えた」


 端末の向こう側で、一瞬動揺する動きが感じられる。外装はともかく、中身はこちら同様、いやそれ以上に機材を積み込んだ車だ。すぐにそれを操作する音が入ってくる。


『……確かに、反応がありました』

「乗員は何人だ?」

『三人です』


 三人か、とテルミンは思った。

 スノウがどういう人選をして、どう命じたのかは判らない。彼はあの派遣員を100パーセント信用している訳ではないから、この折りに、と自分が消される可能性も感じていた。

 そして閉ざされた後部座席へと声を通す。


「すみませんが、明けさせていただきます」

「何があったのかね」


 首相はたちどころに、首相の顔にと変わった。切り替えは早い。さすがだ、とテルミンは思う。


「後方からつけて来る車が、何やら怪しい行動をとっております。多少スピードを上げて振り切るつもりですので、その用意を……」


 そうか、とゲオルギイは言うと、後部座席専用のモニターのスイッチを入れた。先程テルミンが見ていたものと同じ光景が、そこには映し出される。


「二台目です。一台目は、今朝の中央放送局のスタッフでしょう」

「しつこいな」

「仕方ないさ」


 ヘラはつぶやく。


「それが仕事なんだから」


 加速していくスピードに、窓の景色は違った色を見せ始める。端末からは、雑音混じりで、警備車が、ずっと報告を続けていた。

 と。

 その時、唐突にその報告が途切れた。報告だけではない。雑音も、全てが一度に途切れた。

 はっ、と息を詰めて、ヘラは顔を上げ、テルミンを見た。

 モニターに映っていたのは、短い草ばかりが生える、砂混じりのやせた土地の中へと転がり始める、見覚えのある地上車の姿だった。

 そして、その後がまに座ろうとでもいう様に、それまで後ろに控えていた車が、ぐっ、と車線を越えて彼らの斜め右へと近づいてきた。その勢いは、後ろから一台目の車をも抜いてしまう。

 ゾフィーの車は、一瞬その勢いに左に退く。だがそれでも決してスピードを落とすことは無かった。

 そうだ、ついてこい。テルミンは思う。見るんだ。

 がん、と車体に妙な震動が響く。モニターの中では、車の屋根を開け、長い銃を持った男が、こちらに照準を合わせている。


「左に行け、ヴェスタ!」


 テルミンは運転手に向かって叫んだ。車の何処かに銃弾がかすめた。ある程度までは、この車体は銃弾を弾くことは知っている。だが程度がある。スノウの「手加減」を期待してはいけないのだ。 


「!」


 次の衝撃。運転手は声にならない声を上げた。


「どうしたヴェスタ?」

「タイヤをやられました、少佐」


 すぐに空気が抜ける訳ではないのは彼も知っていた。だが、時間の問題だった。高速で走っているから、一つの車輪のトラブルも、そのままスリップにつながる。

 運転手のヴェスタは何よりまず、交通事故で乗客を死なせる訳にはいかないから、抵抗の大きい地面へとハンドルを動かして行った。


「走行すること自体が危険です。一度止めてタイヤを交換しないことには…… 銃は持てますか?」


 テルミンは後部の二人に訊ねた。ヘラはもちろん、とばかりにうなづき、上着を脱ぎ、シャツの袖を幾重にも折り曲げた。そして座席の後ろのトランクを開けると、小型の機関銃を取り出し、弾薬の状態を確かめた。ひどく目が生き生きしている、とテルミンは思った。


「首相閣下」


 お持ち下さい、とテルミンは中から中型の銃を取り出すと、首相に手渡した。この首相には、軍隊経験はない。根っからの文民の出なのだ。

 遮るもの何もない平野の真ん中で、車は止まった。運転手はタイヤを交換します、と扉を開けると、自分の足元の工具箱を掴み、外に出た。彼らもまた、引き続いて外に出た。

 敵が一方からなら、中に居るよりは、外に出て車そのものを盾にする方が衝撃を受ける確率は少ない。テルミンもまた、狙撃用の長い銃と、連射が可能な通常の短銃を両方手にすると、同じ側から外に出た。

 音が、近づいてくる。テルミンとヘラは銃がいつでも撃てる様に、用意をする。近づくエンジンの音。そしてその音に混じって、キューンと耳を右から左に突き抜ける様な鋭い音が流れた。


「ああっ!」


 声と同時に、血が飛んだ。あああああ、とうめきながら、ヴェスタは予備のタイヤを取るために伸ばしていた手に思わず触れる。触れた手がすぐに赤く染まる。

 テルミンはそれを見ると、無言で向こう側にと銃を撃った。目的は、まず、こちら同様、向こうの足を止めること。

 彼は士官学校時代、実技の点はそう良くは無かった。自分の力というものをよく知っているテルミンは、銃に関しては、一発必中などという事態は避けることにしていた。彼が撃ったのは、炸裂弾だった。

 キキュキュイ、と激しい音を立てると、追ってきた車は、大きく左に曲がり、倒れそうなくらいにバランスを崩した。

 何とか持ち直したが、パンクどころではなく、車輪一つが、急停車の衝撃で外れた。

 これで五分五分だ、とテルミンは思った。この様子を、ゾフィーは見ているだろうか。

 見ていなくては困る、と彼はそれでも頭の半分で思う。そのために彼女を呼び出したのだから。協力してほしい、と彼はゾフィーに向かって言ったのだ。その頼みのあまりの曖昧さに、彼女は苛立ち、彼を追求した。

 できれば。彼は思う。できれば彼女には何も知らないまま行動して欲しかった、と。だがそれは無理だった。この先彼の考える通りに物事を進めるためには、中央放送局の人間、という彼女の存在は重要だった。

 稀代の犯罪人になるかもしれない、と彼はゾフィーにほのめかした。だが成功したら、君はおそらく歴史の目撃者になれる、そして局の中でも一歩抜けた存在になれる、と。

 冗談はよして、と彼女は当初、苦笑した。だが彼の態度に、それが冗談ではないことが、彼女には判ったらしい。そして自分がとんでもない男と出会ってしまったことをも。

 無論彼女には選択の自由をテルミンは与えた。だがその一方で、彼女がこちら側に飛び込んでくるだろう、と彼は予想していた。

 彼女にとって、決してゲオルギイ首相は身近な存在ではない。彼女はこの星域の放送人達が「そうでありたい」と思うように、政治に対して確固たる態度というものを持たない。いや、むしろそれはこの仕事をする上で邪魔だ、と考えているふしがある。彼女の必要とするのは、事実である。事実を、それを利用する人間の都合の良いように解釈された「真実」ではない。

 彼女は未来に起こるだろう「事実」を選ぶだろう、とテルミンは予想していた。そしてそれは当たっていた。

 足を止められた二台の車の間に、土砂降りの雨の様な音を立てて、銃弾が飛び交う。テルミンは、車内から飛び出して正解だ、と思った。フロントガラスは丸く穴が明き、そこから放射状の傷が末広がりに長く伸びている。

 時々果敢にも銃を撃とうとする首相に向かい、テルミンは首を横に振った。


「閣下の銃弾は、至近距離に来た時にご自分をお守りするためのものです。ここは我々に任せて……」


 その間にも、腕を撃たれた運転手はだらだらと血を白茶けた地面に吸わせていた。

 ヘラは自分のシャツの裾を引きちぎると、手慣れた調子で、応急の血止めをした。彼の撃った弾丸も、向こう側の車体を既に蜂の巣にしている。だがこちら同様、車そのものを盾にしているため、それ以上では無い。


「だけど長い間このままだと、腕そのものが駄目になる」


 そうは言われても、この状態がどの位続くのか、テルミンには予想がつかなかった。いや、最後は判っている。それがあの男の提示した「決め手」なのだから。

 ふと、その場が奇妙に静まり返った。テルミンは耳を澄ます。ばらばらばら、と音が上空から聞こえてくる。


「……ヘリだ」


 ヘラは空を仰ぐ。警護の車の反応が途切れたことを察知したのか、それとも―――

 いずれにせよ、援護が来たのは確かなのだ。時間が、無い。

 そこへヘラが不意に大声を立てた。


「見てみろよゲオルギイ、ヘリだ!」


 その声は、この広い、ただ広いばかりの大地の上にも大きく広がった。そして大きく、腕を空へと伸ばす。


「見てみろよ」


 ヘラの腕は、真っ直ぐ、ヘリの来るだろう方向を空を指す。

 ところが。

 テルミンは目を疑った。

 その時、首相の身体は、ふらり、とその腕の指す方向へと、ゆっくり立ち上がった。

 あ。

 彼は思わず声を立てていた。

 ぱす、とひどく鈍い音が、同時に耳に飛び込んだ。

ゆらり。

 何があったのか判らない、という表情を、そのままに。

 ゆっくりと、ゲオルギイ首相はその場に、前のめりに、崩れ落ちた。

 テルミンは一瞬それがどういうことか判らなかった。そして不覚にも、立ち上がろうとして、ヘラに頭を思い切り地面に押し付けられた。


「何やってるんだ! 二の舞になりたいか!」


 ああそうか、とテルミンは自分が余りにも馬鹿な行動をしそうになったのに気付く。


「あーっ!!!!」


 遠くで、高い声が響きわたる。聞き覚えのある声。ゾフィーだ。彼女はあの局用の端末を、取り落とし、そのまま地面にしゃがみ込んでいた。


「……何であの女、こんなとこに居るんだ?」


 平然と、ヘラはそう言いながら、車の扉をそっと開けた。


「運転、できるよな、テルミン」

「あ? ああ。だけど……」


 窓ガラスは割れている。しかもタイヤは一つ欠けたままだ。


「あれだけの距離を、動ければいい。乗れ、テルミン」


 ヘラはそう言って、開けた扉から、姿勢を低くして乗り込んだ。

 ガラスの破片があちこちに飛び散っていて、腰かけるのすら危険な程だった。だが何とか二人は乗り込んだ。どうするのですか、と運転手は泣きそうな声で、額に脂汗を浮かべながら訊ねた。


「いいか、そこにじっとしていろよ」


 ヘラは答えず、ただそれだけを強く言った。

 その声に気圧されたか、運転手はそれ以上のことを言わずに、それよりも、と首相の倒れた身体を、傷ついていない方の手で懸命にうつぶせから仰向けに変えていた。


「真っ直ぐ、走ればいい。それだけだ」


 ヘラの声は、ひどく生き生きしていた。

 血が騒ぐ、とはこういうことを言うのだろう、とテルミンは納得した。

 今までになく、ヘラの表情は、凶悪なまでに、綺麗だった。その大きな目が、相手に向かって機関銃を撃つ時、こう動けばいい、と指示を出す時、そして。


「行け!」


 鋭い号令がかかる。手が自動的に動くのを彼は感じた。

 アクセルを踏む。バランスが悪い。だが何とか動く。ひどい音だ。ガガガガガガガガガガガガカ。

 向こう側が気付いて、銃弾を撃ち込んでくる。

 伏せろ、という声にテルミンはその通りにする。

 前なぞ見る必要はなかった。ぶつけることが必要なのだから。ただぶつかった時に、飛ばされるのは御免だ。テルミンはシートにしがみついた。

 一瞬の衝撃。

 背に奇妙な衝撃が走る。

 だがヘラはそのままフロントガラスを蹴破ると、向こうの車体に飛び移り、片方の足を天井にがっ、と乗せると、そのまま一気に銃の引き金を引いた。

 直接銃弾を頭の上から浴びる羽目になるとは思わなかったらしい、予期せぬことに対する驚きが、痛みが、その場を叫び声の渦に巻き込んだ。

 く、とさすがにテルミンも、唇を噛んだ。

 そして銃声が止んだと同時に、ヘラは彼の方を振り向き、こう言った。


「どうする?」


 その問いには、二つの意味があることに彼は気付いた。


「裏を聞くのか?」


 そして、


「生かしておくのか?」


「待ってくれ」


 テルミンは扉を開けると、地面に転がっている三人の暗殺者の姿を見て、一瞬うっ、と息を呑んだ。

 しかし足音が背後から聞こえる。あの気の強い、好奇心の強い彼女はすぐにやってくるだろう。テルミンは内心の動揺を押し殺すと、近づき、生存を確認する。「生かしておくのか」と聞いたにも関わらず、既に二人は息が無かった。かろうじて一人が息があったので、彼は問いかける。


「お前らを雇ったのは誰だ? 首相暗殺を命じたのは」

「しゅ、しょう? そんなの知らない…… 俺はただ、現金輸送車が……」


 ぶつぶつ、と言いながら、そのままその一人も、仲間の後を追って行った。


「正当防衛だよな」


とヘラは平然とした顔で言う。

 短く、真っ直ぐな髪が、乱れて白い顔にまとわりついている。

 その姿がひどく綺麗だ、とこんな場合だというのに、テルミンは感じていた。

 ちら、と視線を移すと、ゾフィーがその場に立ちすくんだまま、それでも手には、あの放送用端末を手にしていた。

 ヘラはそれに気が付いたのか付かないのか、彼女の前を通り抜けると、そのまま機関銃をふらりと右手に持ったまま、ゆっくりとゲオルギイが倒れている場所へと歩みを進めて行った。

 ゾフィーはその様子をずっと追っている。目が離せない、とでも言うように。テルミンもその後を追った。

 そして既に目が閉ざされているゲオルギイのそばにひざを付くと、ヘラは目を伏せた。テルミンもまた、立ったまま、顔を大地に向け、少しの間、黙祷を捧げた。

 ばらばらばら、と救助のためのヘリが近づいてくる。

 その音が次第に大きくなってくるのを聞きながら、彼はひどく胸の中が平静になっていくのを感じた。

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