第24話聖グローザム王国への旅路

 サークライがとんでもない依頼をして来た。

俺に聖グローザム王国へ行って探し物をして来い、と言う。


「これは冒険者としての君への依頼だね。ある女性の家族の消息を探って欲しい。彼女の名は『マーサ=キャラダイン』。聖王国ではとても有名人だ。行けばすぐに情報が手に入るだろう。」

「なぜ俺なんですか? 探れる人材なら魔王国にいくらでも…」

「聖王国に亜人や獣人は奴隷しかいない。そのまま侵入するととても危険なんだよ。変装しても何かしらの術か技術ですぐに発見されてしまう。そこで優れた冒険者であり人間でもある君、という訳だ。君なら聖王国民に紛れても危険はなかろう。」


この依頼が六人目の妹の手掛かりに繋がると言うのなら行かない訳にはいかないだろう。


「ただし。君の生命を守る事が最優先だ。その事は忘れずに。何かあっても誰も助けに行けないからね。」


わかってる。

家族というものが少しはわかって来たんだ。簡単には死ねない。

俺はその依頼を受けた。





 学院祭が終わり、平穏な日々に戻る。

 俺はサークライから特別の依頼を受けたという事で学院の授業をしばらく免除された。リィカとレンを連れて行く訳にいかないので、委員長のパーティーに合同クエという事にして二人の面倒を頼んだ。


「まーかせて! ユートきゅん!」


 頼りになる子だ委員長。戻ったら何かまた作ってあげよう。

リィカもレンもみんなと仲良くするんだぞ。リィカも出来るだけ龍化すんなよ。みんなが驚くからな。

ん?どうした?元気ないな二人とも。 リィカがぽふんとしがみついて来る。レンも恐る恐る抱きつく。俺は二人の頭を優しく撫でる。なんだ寂しいのか?俺も寂しいよ。今夜みんなで一緒のベッドに寝るか?


「「それは嫌‼︎」」


とほほ。仕方ない、今夜は夏期休暇で会いに行ったお姉さんと妹達の話をしてやるか。二人とも聞きたがってたからな。






 魔王国の西の端、タンザという町が数少ない聖王国との交易地だ。そこから荷運びの馬車が出ている。

俺は人間の姿に戻って荷運びのメンバーに混ざっていた。この馬車は人間だけの構成になっている。護衛に魔王国の冒険者パーティーが何組か付くが彼らは聖王国の門の前までが仕事で中に入らず魔王国まで戻る。

聖王国の亜人嫌いがよくわかる。


 ここは聖王国の東端の街マービン。若干の緊張と共に聖王国の内部に入る。が、想像と違っていた。街の雰囲気は華やかだ。様々な商品を売るショップや活気のある露店。おばちゃんの呼び込みの声。人々も明るく笑顔だ。

 俺は荷出しの作業をそのまま終え、食事をするという荷出しメンバーにくっ付いてこの街の食堂へと入る。 人気の店らしく活気に溢れてる。てか昼から酒飲んでる奴もいるようだ。なんだか浮かれてるのか?お祭り騒ぎな空気だな。耳を澄まして聴いてみる。


「また勇者アベリアが活躍したらしいじゃねえか⁉︎」

「魔王国の東のエルフの里を攻略したそうだぜ。」

「こないだは魔王国の迷宮を潰したっていうしさすが勇者様だな!」

「ああ!今度こそ勇者アベリアが魔王を討ち倒すぜ!」


勇者アベリアの話題で持ち切りだ。勇者の数々の嫌がらせが大活躍レベルで賞賛されている。所変わればというやつか。


 俺は荷出し組と別れて聖王国の王都グローザムへの移動経路を探る。交換屋に行ってこの国の通貨を入手。

買い物がてら露店のおばちゃんに色々聞いてみる。


「ターミナルから乗合バスが出てるよ。そこを右に曲がってすぐだよ。」

「どうもありがとう。そういやおばちゃん、勇者様って何?俺、外の村で育ったからあまり知らないんだ。」

「あんた外にいた人間かい。…そりゃあ亜人どもに迫害されて辛かったろうねえ。ここはパラダイスだよ。ようこそ聖王国へ。」


心底同情されてしまう。 良かれと思って言ってるんだろうがもやもやする。

 なぜなら商人の側や店舗の裏に何人か首輪をした獣人や亜人の奴隷が働いている。が住人は決して目を合わせようとしない。声をかける者もいない。いないものとして扱っているようだ。


 勇者様というのはこの国のグローザム聖教会が承認するこの国最大の戦力。幼い頃から聖教会で教育を受け聖王国の為に働き聖王国の為に死んでいく、そのかわり国民から絶大な賛美を浴びる。そういう運命だそうだ。

 今代の勇者アベリアも産まれた時から神子と崇められ聖教会で大切に育てられたエリートで12歳ながら歴代最強との噂が上がっている。

その活躍に全国民が心を躍らせると言う。


「お小さいのに…先代の汚名を返上しようと健気でねえ…」


先代の汚名?


「…先代勇者マーサはこの聖王国を裏切って魔王と手を結んだ。結果として魔王の総攻撃を許しこの国は魔王に壊滅的な打撃を受け、領土の半分以上を失ったのさ。20年以上前の事さ…」

「勇者マーサ…?」

「マーサ=キャラダイン。稀代の極悪人、この国最大の犯罪者さ。」


忌々しそうにおばちゃんは言う。

マーサ=キャラダイン。先代勇者。なるほど有名人だ。彼女の家族の消息を辿るって…どうすりゃいいんだ?


「彼女…マーサとその家族はどうなったんだい?」

「知らないねぇ。本人は魔王国でふんぞり返っているんだろうさ。実家はお貴族様だったらしいがとっくにお取り潰しさ。ご両親は処刑、血縁に至るまでお家断絶だったって言うよ。」


…酷い。裏切りの憎しみ・恨み辛みが身内にぶつけられたのか。


 暗澹たる気持ちで俺は王都グローザム行きの乗り合いバスに乗った。バスは大きなボンネットバスのような車体の前方にサイのような魔獣を繋げた【魔獣車】だ。この国ではこのサイを手名付ける魔術が存在するらしい。これが相当なスピードを出す。馬並みの脚を誇る。

 本来2時間ほどの旅程で王都グローザムに到着するはずなのだが王都手前で街道が封鎖された。何かトラブルがあったらしい。結構な長時間その場に待たされる。やがて前方から見張りの兵士が乗客確認にやって来た。乗客全員軽いボディチェックをされる。バスの運転手と兵士の会話によるとどうやら王都で爆破事件があったらしい。


「なんだよまた反教会テロかよ。飽きねえな奴隷解放軍も。」

「さっさと潰しちまえばいいのによぉ。」


王都では定期的に爆破テロが起きているらしい。

奴隷解放軍か。この国の亜人も抵抗はしているのか。隣りの国には自由があるんだ黙ってはいられないだろう。


 夕方近くになってようやく王都グローザムに到着する。

 手頃な宿を探す。出来るだけ裏通りで。柄が悪いとなお良い。奴隷がちらほら見受けられる通り。そこに宿を取る。荷物は全て【ボックス】に詰めてあるので盗難の心配はない。 宿の主人にこの王都の歴史がわかる名所とか施設はないか聞いてみる。無言でカウンターにある観光マップを指差す。マップを手に取ると銅貨5枚を要求される。ぼったくりだ。おそらくこれは無料配布のマップだろうに。


 マップには王宮、聖教会、貴族の屋敷、博物館、図書館の記載があった。そしてご丁寧に…裏切り者マーサ邸跡地も観光スポットとして記載されていた。まずはそこへ向かってみよう。


 マーサ邸跡地は今は緑地公園として使われているらしい。建物は打ち壊され跡形もない。俺はベンチに座って果実水のドリンクを飲みながら…風魔法で範囲探知をかける。探知には幾つかの地下構造物が引っかかった。

 深夜、改めてマーサ邸跡地にやって来た俺はエルフの姿になる。さらに精度が上がる範囲探知で細かく地面を調べると地下構造物に人の気配を感じた。


 土魔法の土遁の術で地面に潜る。地下構造物の通路を発見、穴を開け忍び込む。風魔法で隠遁の術をかける。これは認識阻害をかける術だ。ハイエルフの姿でないと使えない。地下の一番広い部屋の様子を探る。


 中には獣人が4人。2人は昼間の爆破テロの報告をしているようだ。という事はこいつらが奴隷解放軍か。

1人は黙って聴いている。奥の年老いた猫獣人は何か嘆いているようだ。


「何年も何年も…この様な手を使っても御子様救出には程遠い。いつになったら御子様をお救い出来るのか…」

「マーサ様に率いられし反乱軍も御子様を聖教会に拐われて10年…大規模な救出作戦もままならずとうとう時期勇者として活動を始められてしまった。我らの不甲斐なさが口惜しい…」

「マーサ様の御心を察するに余りある…」

「マーサ様が我らを救おうとなさったばかりにご両親はお亡くなりになり御子様までも…」


爆破テロは成功したものの解放軍本来の目的には程遠かったようだ。

 すると奥の部屋からもう1人、人が出て来る。探知にはかからなかったぞ。虚を突かれた。人間の女性だ。凛とした瞳。輝く様なブロンドの髪。三十代半ばだろうか。何か特殊な光に全身が包まれている。見覚えがある。あれは日…光の精霊の加護だ。


 その女性は真っ直ぐに俺を見据える。隠遁魔法で見えていないはずなのに俺から視線を逸らさない。しばらく何かを考え、やがて絞り出す様に問いかける。


「…貴方、グリュエラの子供ね? 本当にあの人とそっくりな顔をしているのね。」



間違いない。この人がマーサ=キャラダイン。


勇者アベリアの母、魔王モンマの七人の妻の一人だ。

 

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