第20話勇者来襲
「人間だと? 結界が働いとるからこの里は視認される事はないはずじゃ。」
「しかし、真っ直ぐにこの里に向かっています。木々をなぎ払って一直線に‼︎」
「凄まじいスピードです。エルフ並の移動速度です!」
嫌な予感がする。もう奴が来たのかも知れない。
【勇者】が。
「長老、すぐに里の人々を避難させて。出来るだけ遠くに。俺が時間を稼ぐ。援護するなら長距離から。兵のみんなは決して近づかないで!」
「ユート⁈ 1人で行く気か⁈」
「世界樹様から頼まれたんでね。今ここにはハイエルフは俺1人しかいないんでしょ?出来るだけの事はやるよ。」
「バカもん‼︎ お主は違う世界の住人じゃ‼︎ 何の責任もありゃせん‼︎ さっさと逃げろ‼︎」
「俺はこの世界の住人でハイエルフだよ。」
そう言って里を飛び出す。
後の事は曾祖母さん達に委ねる。
四大属性精霊を自分に降ろし最大強化。出来るだけ里から離れる為超速で前に出る。遥か西方からブルドーザーが森を掻き分けるかのように何かが接近して来る。とても人間技とは思えない。覚悟を決めてその前へ飛ぶ。
そこには12、3歳に見える人間の少女がいた。後ろに神官風の二十代の男、ローブを纏った十代後半に見える女。どちらも人間のようだ。
少女が口を開く。
「エルフか。どけ。亜人如きに我の進撃は止められん。」
「いろんな場所で暴れ回る人間とはお前か。何者だ?」
予想は付くが聞いてみる。まさかこんな少女とは思わなかったが。
「我は聖グローザム王国所属、【勇者】アベリア。教皇の命にてこの世界の亜人文化の殱滅を行なっている。」
「文化の殱滅⁈」
「この世界には人類以外に文明を持つ者はいらない。それが我がグローザム聖教の御心だ。もちろん最終的には魔王国をも滅ぼしてやるわ。ハハハ‼︎」
なるほど、西の人間の王国は危ないと聞いていたがこんな考えの国か。こんな国に妹がいるのか。…暗澹たる気持ちになるな。
「どけ羽虫よ!我ら神の使いの行軍を邪魔するなら…殺す‼︎」
と言うと同時にローブの女が火炎魔法を飛ばす。森の中なのに平気で火炎魔法を放つのかよ。俺は避けない。
俺に火炎が当たると同時に火炎は消滅する。
「⁈ どういう事⁈」
驚愕するローブの女。当たり前だ四大精霊を纏った俺には魔法など効かない。ムカついた俺は間髪入れず三人に向けて雷を落とす。
「ぐあっ」
「ぎえええっ」
神官の男とローブの女は直撃を食らってその場に倒れる。が。
勇者アベリアは高々と剣を掲げて雷に耐えた。
凄い輝きを見せる剣だ。由緒ある聖剣か何かだろうか? 神聖なものを感じる。何となくだがアレはヤバい。
と思った次の瞬間、目の前に剣を振りかざしたアベリアの姿。避ける俺には風の防壁が働いている…はずなのに奴の剣はそれを貫いて俺の肌を掠る。精霊の加護が斬り裂かれた⁈
続け様に剣を振り回して来る。ざくざく肌に傷がつく。この剣の能力で防壁が消されているのか? 俺は【ボックス】から自分で鍛えたセラミックソードを取り出して剣戟を防ぐ…が。あっという間に刀身が削られセラミックソードが使い物にならなくなる。
剣の能力か勇者のポテンシャルかこの組み合わせは最悪だ。ここで止めないとエルフの里は焼かれ世界樹は切り倒されてしまうだろう。
だからと言って12、3歳の少女の生命を奪うなんて出来ない。俺は楽しくこの世界を生き抜きたいのだ。
あの剣を何とかしよう。取り上げてへし折れないか。剣戟を防ぎながら方法を考える。ひたすら考える。
「しつこい羽虫め! 我の必殺剣を受けて死ね‼︎」
いくつもの残像を残して猛烈な突きが
俺の腹に突き刺さる‼︎
「がはっ…」
アベリアがニヤリと笑う。勝利を確信した歪んだ笑いだ。
俺の腹を貫通する剣。 血が流れる。赤い血だ。ハイエルフになっても血は赤いんだな…
意識をはっきり持って俺は上空に急上昇する!
剣を握ったままのアベリアも一緒だ。アベリアは慌てて剣を抜こうとするが俺の血で滑って剣から手を離してしまう。
「ああああああっ‼︎」
森へ落下して行くアベリア。勇者なんだから死ぬ事はないだろう。
高高度の空中で腹に刺さった剣を抜く。ぶしゃあああと血飛沫が舞う。全身に力を入れて四大精霊に託す。
まずは火の精霊。剣を超高熱に熱する。溶鉱炉をイメージして火の精霊に伝える。赤く赤く、やがてオレンジを通り越して金属の塊が黄色く染まる。
続いて水の精霊。黄色い塊を超急速冷凍!ひたすら超低温、絶対零度をイメージする。
仕上げは土の精霊。拳を鋼鉄化する。ひたすらハンマーの様に硬く、硬くイメージする。
そして剣の横っ腹に向けて渾身のハンマーパンチ‼︎
ガキィイイイン‼︎‼︎
勇者の剣は真ん中からパッキリ折れた。
上空から勇者達がいる森へ戻る。アベリアは怪我一つ無さそうだ。あんた高いとこから落ちたのに頑丈な女の子だ。
「き、貴様っ我が聖剣を返せっ‼︎ 卑怯者っ‼︎」
涙目で噛み付いてくる。むう、不覚にも可愛いと思ってしまった。幼さが残る少女か。そんなアベリアの目の前に二つに折れた聖剣を放り投げる。
「‼︎‼︎」
なんか凄くショックだったようだ。肩が震えている。
あ、ぼろぼろ泣き始めた。
「か…母様から頂いた…大切な…聖剣が…ああああ…うえええええええええん」
猛烈に泣きじゃくるアベリア。ちょっと気が引ける。声を掛けづらい。黙って立っていると…雷で麻痺していた神官風の男がアベリアとフードの女を掴み、呪文を唱えた。魔法陣が形成され、三人が光の柱中に消えて行く。
「こ、この屈辱、必ず晴らさせてもらう‼︎」
どうやら転移魔法陣らしい。勇者パーティーは逃げ出してくれたようだ。
ホッとしたと同時に腹が焼けるように痛いのに気付く。だらだらと溢れる鮮血に下半身が染まっていく。
あー。ヤバい。…これヤバい。
戻らなきゃ。みんなの所に… と思ったところで意識が途切れた。
意識が霧の中に溶けていく感覚。どこだろう。でも周りに精霊を感じる。いつもは元気で明るい火の精霊。静かに佇む水の精霊。どっしり構える土の精霊。そして…俺を膝枕して撫でている今にも泣きそうな風の精霊。4柱とも皆心配そうな顔で俺を見ているようだ。 ごめんな、無理して。
その遠目に知らないけど知っている感覚。サイクロンを吹き飛ばした時にも感じた。漆黒の空に淡く輝く月の光。月の精霊。俺を見ている?
月が浮かぶ反対の空に太陽。眩しく大きい太陽。月の精霊に寄り添うように並んで俺を覗き込んでいる。
あれは日の精霊。
俺のボロボロになったセラミックソードをさすりながら知らない小さな精霊も俺を心配に見ている。恐らく金の精霊だ。
みんなが見ている…
目を覚ました時、目の前には魔道王サークライがいた。
「まったく無茶をするねユートくん。君、ちょっとの間死んでたよ?」
「…ここは…?」
「魔王宮だよ。…エルフの里から転移魔法陣で搬送して来たんだ。 …グリュエラのご両親が里から私に知らせに来てくれてね。」
里から滅多に出ないであろう爺さん婆さんが魔王都まで…里が大騒ぎだったのは容易に想像出来る。どうなったのだろうか。みんなに心配かけてしまったな…
「【勇者】と戦ったんだってね。無茶をする。あれは【魔王】すらタダで済まない相手だよ?」
「…12歳くらいの少女でしたよ? リィカ達くらいの。」
「神殿で純粋培養されるからね【勇者】は。グローザムの為だけに働く戦士。他国の道理も理屈も聞き入れない。洗脳…とまでは言わないがまあ頭が硬い連中だね。」
腹を見ると傷がまったくない。本当にサークライさんは蘇生魔術が使えるようだ。魔道王は伊達じゃない。
「聖剣をへし折ったぁ⁈ 勇者の聖剣って…確か…」
「確か…?」
「いや、何でもない。」
? 何かあるのだろうか?
「まあ、しばらくここで療養したまえ。相当血をながしたからまだ起きるのは辛いだろう。 エルフの里には君の無事を知らせておくから。」
「エルフの里は無事なんですか? あの後勇者達は…」
「現れた形跡はないよ。聖剣を折られて割りに合わないと思ったんじゃないかな。勇者は気まぐれだからな。」
魔王軍のほうからも勇者の動向の監視を強化しているそうなので3日ほど魔王宮で寝て過ごした。
魔王宮は魔王の城のはずなのに魔王が居着いた事がないらしい。貴族制度ではなく、魔王都民の地区代表から公務員として職員が運営しているそうだ。要するに魔王宮はでっかい都庁、サークライさんは都知事、みたいなもんか。
体調が戻りお世話になった魔王宮を出ようとしたら、サークライさんから新たな情報がもたらされた。
「ようやくグリュエラが吐いたよ。【ドワーフ】の嫁、ミカが君のいた世界にいると。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます