第19話俺、里帰りしてみる。
高山地帯の天使族の里から魔王都に戻ってしばらく。余りにエルフと天使族の仲の悪さが気になったのでエルフ側にも事情を聞きたくなって来た。
一度エルフの里に顔を出して見ようかと思う。
がっつりお土産を買って帰ろう。エルフは何が欲しいだろう? 手に入りづらい香辛料とかがいいかな?
寮母さんに出掛ける旨を伝え風の精霊を纏い高速で飛んで行く。来る時は飛び跳ねていたのに、楽を覚えるとダメだね人間は。
朝出てその日の陽が沈む前にエルフの里に着く。行きは5.、6泊した経路を1日で飛び去るのかすごいな風の精霊は…
エルフの里には結界が敷かれているがハイエルフの姿だと素通りである。しかし結界に触れた瞬間見張りのエルフ兵が現れる。
「お、ユート殿ではないか。久しぶりだのう。」
「お久しぶりです。みんな変わりはないですか?」
「まあな。平穏なものだ。さあ入れ。」
里の中に入るとすぐに子供達に見つかり引っ張りだこになる。
「ユート‼︎ 久しぶり‼︎お土産はー⁈魔王都の珍しい食い物持って来たかー⁈」
「やったー‼︎また甘い物が食べられるー‼︎」
「ユート、ケーキ作ってー‼︎ 生クリームいっぱいのー‼︎」
みんな食い物の事しか言わねー。
「待て待て、長老に挨拶してからな。」
長老は相変わらず面倒な奴が来た風な目で俺を迎える。
「なんじゃ戻って来たのか。どうじゃ元の世界に帰れそうかの?」
「あー…。それが割とどうでもよくなったというか…」
「? あんなに帰りたがっていたのにか⁈ 何があった⁈」
「長老、グリュエラっていうハイエルフ、知ってる?」
「⁈会ったのか⁈ … 知ってるも何もあのバカはわしの孫じゃ。里に寄り付きもせんで何処を飛び回っとるのか…」
は? 孫? 母ちゃんが孫⁈
一呼吸おいて告白する。
「俺…グリュエラの息子…だった。エルフのハーフだったんだ。」
「はああああああっ⁈」
腰を抜かしてその場にへたり着く長老。立てない長老を背負って屋敷に入る。俺も驚いている。長老、俺の曾祖母さんだったのね。
「…グリュエラは元気かい…?」
「ピンピンしてるよ。 こないだも武闘大会で息子と解ってても本気で攻撃して来て叩きのめされた。」
「相変わらず好き勝手かい…。 まさか異世界に住んでたとは知らなかったよ。あのバカ…」
「あの…母ちゃんの両親はいないんですか? …もしかしてもう亡くなって…」
「何言ってんだい! そこにいんだろ! ほらリュミエラ、ジゼル‼︎ 孫が来たよ‼︎」
長老の家のお世話係だとばかり思っていた若いエルフ二人が爺ちゃん婆ちゃんだった!
…苦笑いする二人。ごめんなさい爺ちゃん婆ちゃん。
わかんないよ見た目若者だもん。20代後半くらいにしか見えないよ。
「エルフは長寿だからの。あの二人で300歳くらいわしで700歳じゃ。グリュエラが100歳くらいかの?」
…な ん だ と …⁈
「あの…俺だと…どんだけ生きるんでしょうか?」
「ハーフエルフだと300歳くらいかの? しかしお前ハイエルフだから…1000年は生きるじゃろ?」
はいいいいいいいいいい⁈⁈
俺めっちゃ長寿でしたー‼︎
爺さん、婆さん、曾祖母さんを交え、今までの地球での生活の事、魔王都に着いてからの事、そして…父親が【魔王】である事など積もる話をひとつひとつしていった。
母ちゃんがこの里に寄り付かないと言ったが、当時好き勝手に生きて挙げ句の果てに魔王の子供を身篭った母ちゃんを里の長の建前として許す訳にはいかなかったようだ。
…今も魔王の子供である俺の存在を許していないのだろうか…?
穏やかに微笑んでくれる爺さん婆さんを見るとおおっぴらには喜べないが俺には優しく接してくれる…気がする。曾祖母さんは…どうだろう。
「…異世界で母子二人きりかい…辛い目に合わせてすまなかったね…ユート…」
「ごめんねユート…」
「寂しい思いをさせてすまなかったね、ユート…」
ちょっと胸にグッとくる。泣きそうだ…。
「で、ユート、魔王都のお土産あるんだろ⁈」
曾祖母ちゃん…台無しです。
親父の話をしたら更に驚かれた。
「ま、魔王モンマかい…‼︎ あんのバカ…なんで言わなかったんだい…」
母ちゃんは親父の事は言わずにいたのか…
「そりゃ魔王が相手なら怒るよね。母ちゃんの他に6人嫁がいるんだもん。そんな男、俺だって怒るよ。」
「「「………‼︎」」」
え? どしたの? …まさか…嫁7人いるの知らなかったの⁈
「魔王め…ブッコロス…」
爺ちゃんがなんか鋭い目つきでショートソードを研ぎ始めた…婆ちゃんは投げナイフを磨いている…エルフも意外と武闘派揃いだった。
話題を変えようと思ってこないだ天使族の里に行った話を振ったら…
「殲滅天使! あの脳筋共めが‼︎」
「エルフと見れば何処でもケンカを吹っかけてくるクソ共じゃ‼︎」
「四大属性が使えないからってエルフを目の仇にしてるのよ‼︎ ウザいったらないわね‼︎」
曾祖母ちゃん達の罵声が飛ぶ。なるほどどっちもどっちだったか…。
一応世界樹様にご挨拶、と祠にお祈りをする。
すると周りの風景が白くなる。祠の内部か。
ーくすくすくす。久しぶりね。その身体もだいぶ馴染んで来たようでめでたいわ。ー
(それはどうも。)
ーあたしにはお土産ないの?ー
(…【ボックス】にクッキーとカステラがありますが食べますか?ー
ーいただくわー
緑色の髪、緑色ののワンピースを着た少女が現れる。
ドライアド?っぽい雰囲気だ。
「物を食べるにはこの格好よね♡」
「世界樹様?」
「いえーす。噂の絶品スイーツ、食べてみたかったのよ。」
世界樹様がカステラを頬張る。美味しそうでよかった。
食べ終わった世界樹様が真面目な顔をして話し始める。
「ユートに言っておく事があるわ。ハイエルフは世界樹の守り人である事は理解しているわね?」
「まあ、大まかには。」
「だから緊急事態には儀式の時のように問答無用で呼び戻す時があるわ。頭に入れておいてね。」
「…何か気になる事でもあるんですか?」
世界樹は言い辛そうに躊躇いながら話す。
「この世界の理を壊そうとする存在が世界のあちこちに【破壊者】を送り込んでいる。【勇者】という【破壊者】よ。その内【勇者】がこの里を襲撃するかも知れない。」
【勇者】か。迷宮核を一人で破壊する尋常ではないあの力。俺程度が立ち向かえるのだろうか。
ーだから出来るだけ強くなってほしいわ。日と月と金の精霊と仲良くなって。ー
そう言ってまた世界樹様は消えて行った。
祠を出てエルフの里の特産食材を補充して次々【ボックス】に仕舞っているとニナ…最初に俺と遭遇した幼女がやってくる。
「おねーさま♡」
ぽふんと脚に抱きつく。うむ かわいい。
ニナは5歳で里の外に出て魔物狩りや採集を行なっている頑張り屋さんだ。その腕が認められて特別に許可が出ている。母子家庭で父親は冒険者で行方不明、母親は魔王都に出稼ぎに行っているそうだ。うちに似た環境だ。本人も13歳になったら里を出て魔王都に行くと言っている。どうにか力になってやりたいな。妹のようなものだからな。
気づかないうちに母1人子1人だった人生に大勢の家族、血縁者、護りたい人が出来た。この数ヶ月懸命に生きて来た。それだけは胸を張って言える。
里の子供達に甘い物を作り、大人達には魔王都で覚えた最新の料理を振る舞う。
「うま〜い‼︎ もう一つちょーだい‼︎」
「あ、それ俺んだぞー‼︎」
「ユートさん、このレシピ教えて‼︎覚えればユートさんがいない時もみんなに作ってあげられるから‼︎」
「おほう、街ではこんな物食っとるのか。美味いのう。」
曾祖母さんがバターと羊乳たっぷりのふわふわオムレツを頬張りご満悦だが脂と塩分には気をつけてな。10皿も食うもんじゃないから。
軽い宴会みたいになってしまったがみんな楽しんでるからいいか…
そんな俺らの前に里の警護をしてるエルフ兵が飛び込んで来た。
「長老‼︎ 人間です‼︎ 人間が猛スピードでこの里目掛けて進んで来ます‼︎」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます