第13話姉妹会議

 【武闘大会】は結果的に怪獣大決戦になった段階でうやむやになった。只の『魔王国十傑がやって来た‼︎Ya Y a Y a‼︎』イベントとして皆の記憶に残ったのだ。

 さて、母親から離れ寮に戻った我々『魔王の眷族』だったが我が愛しの妹達は微妙な空気である。


 俺はペンダントを首からかけて女ハイエルフに戻っている。


「でだ、兄上。…『兄上』でよいのか?」

「お兄ちゃんか…へへ…憧れてたでござるよ…でも女装癖のヘンタイ兄貴かぁ…」


いやヘンタイじゃないよ⁈ 不可抗力で変身させられたんだよ⁈ その辺を何度も言い含めるがあまり納得してないようだ。


「学院を卒業するまではハイエルフでいるつもりだからね。お前達が嫌がるなら男には戻んないよ。」

「「いや!たまに戻ってもいいよ‼︎」」


⁈嫌じゃないのかよ⁈


「たまに兄上になって! 甘えさせて欲しい。あ、普段は姉上って呼ぶよ。」

「ぐふふふ。お兄ちゃん。お姉ちゃんの時も強いし頼りになるから好きだよ。」


 なるほど…素直な妹は好きだよお兄ちゃん…。


 確認事項がある。魔王モンマは十傑の内七人を嫁にした、という。で。その七人全員に子供がいるらしい。


「…みんな知ってた?他に兄妹いるって…」

「知らなかったでござる。ずーっと一人っ子だと思って育って来た。本当許せないでござるよ! ちっちゃい頃のリィカとか見たかった‼︎」

「待てぃレン‼︎ 同い年じゃろが‼︎ お前もちっちゃかったろうが‼︎ だいたい 何月生まれじゃ⁈ わしの方が姉じゃろ⁈ わしは☆の月‼︎」

「拙者、◇の月でござるよ。拙者の方がお姉ちゃんでござるな。くひひひひ。」


はしゃぐレン。珍しい光景だ。身内と分かって何となく壁が一枚取れたような感覚だ。


 で、だ。魔導王サークライが去り際にとんでもない条件を突き付けて来た。


「折角魔王と子供達が対面する可能性があるなら、三人だけじゃなく七人全員と対面させたいですね。そっちの方が面白い。 ねえ、ユートくん。長男の君が全員連れて来てくれないかな? 半年後の卒業の祭典に。」


…半年後の卒業の祭典に他の兄妹を連れて来い…だと⁈


この人絶対俺になんか恨み持ってんだろ⁈

…アレか親父に似てるから坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってやつか…親父め…会った事ないのに憎しみばかり募るぜ…。


 貰った奥さんの情報では…あとの四人の奥さんの出身種族は【魚人】、【天使族】、【ドワーフ】、【人間】。それぞれ子供を育てる為に何処かへと散らばっているそうだ。問題はうちのグリュエラさんの様にこの世界とは限らない所なのだ。

 グリュエラ母ちゃんはエルフの里、特に世界樹様にプライバシーを縛られるのがイヤで子供が出来た時モンマに連れて行って貰った異世界を生活の場所に選んだ。


 まあ、居場所の探索に関しては魔導王サークライが全面協力してくれる、というので場所の情報が入るまでは学校行事に集中しよう。



 季節は夏、長期休暇の前の最後の行事が【全校生徒参加迷宮キャンプ】である。

 【迷宮】は魔王国の南、サバンナの中央にある。普段ギルド学院の学生はどんなに高ランクであろうと入るのは禁止にされている。潜るチャンスはこのキャンプのみなのである。工業クラスの連中は採掘中心、農業クラスは採取、商業クラスは買取・取引、そして冒険者クラスは彼らの護衛がキャンプ中の仕事だ。


 一階、地下一階と順調に採掘・採取が進み、皆が本日の夜営の準備に入った頃だった。突然地下二階に繋がる階段の下から下層に住む魔物が続々と駆け出して来たのだ。

 この現象は見覚えがある。【スタンピード】だ。迷宮で起こる現象としてよく取り上げられるので覚悟は皆しているが今回前兆はまるでなかったはず。


 慌て惑う後衛組を必死に落ち着かせる教師陣、盾になる前衛組。


 俺は咄嗟に前衛組に指示を出す。


「リィカ! 階段に結界を張って封鎖しろ! レン、敵にデバフ、一体ずつ結界から引きずり出して麻痺毒を使え!うちのクラスメイト全員で囲んで叩く! 出来るな⁈みんな‼︎」

「「「おう‼︎」」」


 みんな指示通りに冷静に魔物を退治していく。様子を伺っていた他クラスの生徒も退治された魔物を解体し素材を回収していく。いいペースだ。対応出来ている。

 するとあれだけ沸いていた魔物が突然砂に変化して跡形もなく崩れた。そして全ての魔物がいなくなった。


 引率の教師の顔が青ざめる。


「全員出口に向かって走れ‼︎ 迷宮が消滅するぞ‼︎」

「どういうこってすか⁈」

「誰かが最下層の迷宮核を破壊したんだ!学校行事がある事は周知されてるはずなのに、なんて事しやがるんだ‼︎」


 迷宮は迷宮核で管理されているらしい。しかもここの迷宮は魔王国が迷宮核を掌握して安全に運営していたはずだ。

その迷宮核が破壊された⁈


洞窟の壁も鉱脈も採取場も全て砂になって崩れて行く。急いで洞窟を駆け出る。 生徒全員が外に出た時にはもう迷宮は存在してなかった。全ては砂の中に埋れていた。


 キャンプは当然中止になり、魔王都から調査隊が入った。魔王国に入り込み管理されてる迷宮核を破壊した者が存在するのだ。緊急事態である。


 しかしギルド学院生は学院寮に待機だ。つまりヒマだ。

 この時間を使って迷宮で活躍した妹達を労う為、ちょっとしたおもてなしをしよう。

 

 寮の食堂の厨房を少し借りる。【ボックス】から卵・羊乳・小麦粉・蜂蜜を取り出しあいつらが喜びそうな菓子を作る。今日はカステラを焼いてみる。卵黄液を作りメレンゲと合わせ、生地を練り上げる。土魔法でケースを作り、生地を流し込む。焼成途中にお湯を差し入れ蒸し焼きにするコツを忘れずに。仕上げに美味しいお菓子を作る時の儀式を行う。


「美味しくなーれ もえもえきゅん」


 甘い匂いが食堂に漂う。しまった余計な奴らも引き寄せてしまったか。ぞろぞろ野次馬が集まる。まあこんな時の為に以前クッキーを大量に焼いておいたので配る。【ボックス】に保存していたので焼き立て同然のクッキーだ。野次馬共がぱくぱく食らい付く。


「うめえ!ユートちゃんこんなのも作れんの?すげー!」

「あら本当、お店のクオリティ超えてない⁈」

「あ、あたしもちょうだいっ」


 皆囮のクッキーに夢中だ。俺は焼き上げたカステラを持って自室に戻る。リィカとレンと三人でお茶会だ。

 カステラを見るや否やすごい勢いでカステラを貪り食うリィカ。ちまちま味わって食べるレン。どちらも可愛い。


「おいふぃい〜‼︎」

「美味しいでござる。何処のお店のスィーツで… えっ自分で作った⁈ じ、自分で作れる…ま、毎日作れるでござるかっ⁈」


妹達は手足をバタつかせて大はしゃぎである。

これから毎日これが食べられると思っているらしい。

うむ、一緒に作るのもアリかな、とついニヤけてしまう。とことん妹に甘い兄だ。


「素朴な味わいですが確かな技術が絶品に仕立て上げていますね。」


 ミヤマさんが批評する。いつの間に食ってんだ⁈

しかし常に外の甘味屋を食べ歩いてる人の意見だ。素直に嬉しい。皆でほわほわと過ごした。





 数日後、俺達『魔王の眷族』はサークライに呼び出さた。

 なんか難しい顔をしている。


「どうやらね、今回の迷宮の件、【勇者】の仕業らしいんだ。」

「ゆ、勇者⁈」


そんなもんいるのか、この世界。

話によると、【勇者】は西の人間の王国に所属している。人間の王国の為に働き、他国には災厄でしかない存在だ。もちろん目的は『魔王の討伐』であるという。

 圧倒的な戦闘能力で人間の王国の論理、すなわち『人間以外は全て下等動物』で動くので他国の決め事、ルールがまるで通じない。好き勝手に暴れているそうだ。

 それにどうやらあのジャングルの【スタンピード】もその勇者が原因である可能性が高いようだ。

あんな魔王国のお膝元で【勇者】が暴れていたのか。振り返って見るとあのジャングルにSクラス冒険者である母ちゃんが派遣されていた理由もそれか。


 迷惑なのがいるなぁ。


「人間の王国には気をつけてね。元々亜人に対する偏見が酷いんだけど、魔王が戦争の末、亜人の権利を勝ち取り亜人の国を立ち上げてからも魔王と魔王国に対する恨みをさらに募らせている。本当は関わって欲しくない国なんだけど…」


 そうはいかないらしい。魔王の嫁の一人がどうやら人間の王国にいるという報告が上がってるからだ。妹に会うなら人間の王国に行かないといけない。


「まあ、もっと詳しい報告はこれから上がる。それまでは他の妹達と親交を深めたまえ。まずは【魚人村】とかどうだい?夏だしね。いいよね海。」

「【魚人】の奥さんの情報はあるんですか?」

「少しだけね。彼女の名前と仕事先。後は君に任せるよ。」


 という訳で我々『魔王の眷族』は夏期休暇の間にまず【魚人村】に向かう事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る