第12話『真・魔王の眷族』の実力

「ではエキシビションマッチを始めようかね。『魔王の眷族』対…そうだね、こちらは…『真・魔王の眷族』と言ったところだね。」


 魔導王サークライが爽やかな笑顔で宣言する。


「お主やはり性格悪いなサークライ!これの何処が授業参観なのじゃ⁈」


 リィカの母らしき黒髪の龍姫が言う。なんか騙されて連れて来られたようだ。


「なんだこの観客は⁈ わざわざわしらを呼び出しといて見世物にする気か?」

「いやいや面白いでしょ? 調子に乗ってる我が子達にお灸を据えてやってくださいよ。」


 向こうの龍と鬼とサークライがなんか揉めてるようだ。ハイエルフ…母ちゃんは大笑いしている。


 こっちの様子はというと…リィカもレンもガタガタ震えている。完全に戦意喪失である。そんなに母親が怖いのか…

 てか圧が凄い。なんだこのプレッシャー。例えば俺達がアニメ版ゲッ◯ーチームだとすると向こうは

原作版ゲッ◯ーチーム、そのくらい違う。


「みんな怖がるな。元々こんなエキシビション、罰ゲームみたいなもんだ。成長を見てもらう良い機会じゃないか。当たって砕けようぜ。」


 相手は肉親だ。よもや死にはしないだろう…


「あ、殺しても構わないよ。 僕が蘇生させるから。好きに殺っちゃってあげて。」


 ニヤつく魔導王。ちなみに蘇生魔法なんて滅多に使える者はいない。それほどレアな技術なのだが。

 …………………死ぬの? 俺ら?




「では 『魔王の眷族』対『真・魔王の眷族』のエキシビションマッチを行います‼︎ よろしいですか⁈」


 スタジアムの中央にリィカとリィカの母親が立つ。


「さてリィカ。世間知らずのわがまま娘よ。少しは世間の厳しさは身に染みたかの?」

「お嬢様は随分とご成長なされましたよ。仲間の皆様のおかげでございます。」

「どうかの? 仲間に甘えているだけではないのかの?」

「…お嬢様はお変わりになられましたよ。」


 何故かミヤマさんが問いに答える。リィカはあうあうしてる。家庭の事情が垣間見える風景だ。


「ならば見せて貰おう。お前に何が出来るのかをな‼︎」


 瞳が輝き気が膨らみ、リィカの母親がドラゴンに変化していく。肌に黒い鱗が纏われ、龍化したリィカより二回りはでかい黒龍が現れた。


「ギャオオオオオオオオッ‼︎」


 猛烈な咆哮と威圧。半分パニックになって逃げ惑う観客もいるが、観客席は結界で守られていて無事のようだ。どうやら魔導王の結界らしい。ドヤ顔している魔導王が見える。龍の威圧はそれだけで人を威殺すと言われる。それを完璧に防いでいる。徐々に落ち着きを取り戻す観客。だからその顔をやめろ魔導王。


 リィカもドラゴン化して対抗する。あっという間にスタジアムが怪獣大戦争と化した。

 

 ドラゴン化と同時に火球を連続で吐く赤龍だが黒龍はかわす素振りもなく平気な顔で受け止める。黒龍麟にはキズひとつ付けられないようだ。


 今度は黒龍が火球を生み出す。黒い色をした炎を纏った巨大な炎を2発、3発と赤龍に放つ。赤龍も負けじと回避さず受け止めるが1発の黒炎球で身体ごと吹き飛ばされ、2発3発と連続して身体にヒットする。かなりのダメージだ。身体強化に結界だって重ねているはずなのに。

 素早さを活かし上空に飛び上がり後ろに回り込もうとする赤龍だが、黒龍はそうはさせじと尻尾に食らいつき引き摺り下ろす。2度3度と地面に叩きつけられる赤龍。エグい攻撃だ。

 赤龍の身体に淡い光が集まる。レンが回復魔法をかけているのだ。そうだこの闘い一対一というわけではない、チームバトルだ。全力で赤龍をフォローだ。


 俺は土魔法でダイアモンド級に硬い石飛礫を作り黒龍の目を目掛けてレールガンで飛ばす。が、届かない。黒龍の結界が破れない。


 レンはひたすら赤龍にバフをかけている。そのレンに闘気弾が飛んでくる。

 避けながらギリギリ当たる手前で双爪で撃ち落とす。


 だが次の瞬間目の前にレンの母親がいた。縮地というやつだ。ほとんど瞬間移動だ。闘気を乗せたくそ重いパンチを連続で繰り出す。

 俺はレンの前に土壁を作る。が、一瞬の気休めにしかならない。レンを抱えて空中に逃げる俺。その俺に剣が振り下ろされる。母ちゃんの大剣だ。空中で連撃を仕掛けて来る。俺は【ボックス】からセラミックソードを取り出し剣技で交わそうとするが一撃で弾かれセラミックソードが吹き飛ぶ。


 詰んでる。 何をやっても通じない。


 母ちゃんはニコニコ笑ってる。本当に嬉しそうだ。嬉しそうに大剣を振り回す。バトルジャンキーか⁈

そういや俺が苦労して倒した巨猿の頭を一撃で吹っ飛ばしてたもんなぁ。


 あの笑顔を見てたら次第に腹が立って来た。せめて一矢報いよう。俺はフィールド上空に霧を発生させる。そして上空の気圧を強烈に下げ、アレを発生させる。


「エルフブレイク‼︎」


 雷魔法はこの世界にない魔法。雷が発生する仕組みを理解して初めて使える。この量の雷撃をこの世界の人間は初見でかわせないだろう。


 何束もの雷が上空から隙間なく降り注ぐ。フィールド全てを塗り潰す勢いで雷が落ちる。


ズガガガガガガガガガガガ‼︎‼︎


 俺とリィカとレンは土魔法で作った避雷針の側で丸くなってる。

 少しはダメージ食らってくれ、と祈る。


 振動が収まり水蒸気煙が消える。


 その向こうには同じく土魔法で作った避雷針の下、不敵に笑う三人の母親がいた。


「あたしだって向こうの世界で生活してんだよ。あんたが知ってる事知らない訳がないでしょ。」

 

 勝ち誇る母ちゃん。そうだね、母ちゃん普通にスマホバリバリ使いこなすし何でもグ◯るもんね。チクショウ。現代日本知識を習得しているハイエルフ、厄介すぎる。


 何か手はないか必死に考えようとした瞬間、縮地で母ちゃんが目の前に迫り手刀を放つ。あんたも使えるのかよ⁈ 慌てて 間一髪で避ける。

 が、手刀の狙いは攻撃ではなかった。首に下げた【エルフ石のペンダント】が奪い去られる。

 しまった…!

 その瞬間、男の姿に戻る。人間に戻る。人間だとハイエルフの様には潤沢に魔法が使えないし身体能力も格段に落ちる。


「ひょえっ⁈」 

「ユートどのぉっ⁈」


 リィカとレンか俺を見て固まってる。そりゃそうだ突然男になったんだからなぁ。

 二人は俺の正体を初めてその目にしたのだ。


「ぐあっ⁈」


 何をどう言い訳しようか戸惑っているところでもう一度手刀が飛んで来て意識を刈られた。


 俺達三人ともそこで意識を失った。



 




 気が付いた時はもう夜だった。

 だだっ広いやたら豪華な貴賓室のような部屋。でかい天蓋付きのベッドに俺とリィカとレンがいた。

 

 俺は男の姿。リィカとレンは先に目覚めて俺をしげしげ眺めている。


 母親達はソファで騒がしい。どうやら酒が入っているようだ。笑い声が響く。


 「しかし、向こうに置いて来たバカ息子が勝手にこっちに来てしかも娘に性転換して冒険者になってその上妹達とパーティー組んでたなんて知らんかったよ」


何⁈ 今聞き捨てならん事言ったぞ⁈


妹達だと⁈


「何だって⁈ 母ちゃん⁈」

「起きたかユート。くっそやばい術使いやがって。当たってたらどーすんだい。」

「そーじゃねーよ‼︎ 妹ってなんだよ‼︎ 妹達ってよ‼︎」

「何ってリィカちゃんもレンちゃんもあんたの妹だって言ってんだよ。腹違いだけどね。」


 えーと それは 親父が一緒だという事ですね

 て事はー



「俺の親父も魔王かよ⁈⁈⁈」



 うなづく母ちゃん。そして周りの母親達。魔導王サークライ。ミヤマさん。あんたもいたのか。

 しかしまだリィカとレンが俺を喰い入るように見てる。男だった事を黙ってたのを怒ってるのかもしれない。


「…黙ってて悪かったリィカ、レン。実は俺は本当は男で…」

「むう。それはいい。」

「ヘンタイの兄貴がいたのはショックだったけど。」


じゃなんで俺を見てんの?


「あんたが父さん似てるって言ったら途端にそれさ。」


 とマイマザー。


「本当よーく似てるよねぇユートちゃん。魔王モンマに。」


 と鬼ママ。


「そうじゃな。男の子は長男のユートちゃんだけだし特に似ておるよな。」


 と龍ママ。


「だよねぇ。僕も初めて見た時思わず殴りかかりたくなるとこだったよ!」


 とサークライ。


今にも殴りかかろうとしてんのかこの二人は⁈

と思ったら二人とも抱きついて来た。


「…父上…」

「父さん…」


…うっすら泣いて兄ちゃんにしがみつく妹達。


 ああ、憧れのマイ妹。この俺に本当に妹がいたのだ。可愛い。全力で抱き締める。


「「ギャー‼︎‼︎」」


 我に帰ったか俺にぽかぽか殴りかかる二人。何故に⁈


「いやらしい触り方するからじゃないのー? お前、小さい頃から事あるごとにちんまい妹欲しいちんまい妹欲しいって言ってたよね…」


 イヤなトーンで母ちゃんが俺の秘密を暴露する。


「へ、ヘンタイ兄貴⁈」

「ペドロリ男でござるか⁈」

「し、失礼なっ⁈」


 妹達を抱きしめようと起き上がる。が。


「「ギャ〜‼︎」」  


 悲鳴を上げて逃げ惑うリィカとレン。



 リィカの母の黒龍さんはドレスティアさんという龍族の貴族らしい。黒いドレスに豊満なボディを詰めていらっしゃる。リィカを膝に抱えて撫で撫でしている。リィカだんまりである。むっちゃ大人しいなぁお前。

 

 レンの母の鬼さんはトーカさんといい、鬼族の屈強なSクラス冒険者だそうだ。闘気でバンバン攻めるアグレッシブなスタイルらしい。その逞しい腕でレンを抱き寄せて撫でている。レンの首がぐりんぐりんしてる。大丈夫か?

 

 俺の母ちゃんはグリュエラ。エルフらしい薄い胸に白い肌だが鍛えられた肉体…なのだが。

 俺に【エルフ石のペンダント】を戻しハイエルフにして突き出た胸や尻をやたら撫で回す。セクハラ三昧だ。


 三者三様の家庭円満を横目で見つつニタニタ笑ってるサークライ。やっぱりというか、【魔術大会】で俺達を観た瞬間にピンと来て母ちゃんらと連絡を取ったそうだ。特に俺の顔がハイエルフなのに魔王そっくりだったもんで大笑いしたとか何とか。


 で、だ。そもそもの俺の目標は『母ちゃんのいる元の世界に帰る為、魔王に会って転移門を使わせてもらう』だったのだが。


 母ちゃんが転移門を持っていて元の世界と行き来できる。そもそも向こうにいる母ちゃんが心配だから帰りたかったのだから…目標がすっかりなくなってしまった。


「バカ言ってんじゃないよ。何の苦労もなく国家機密級の魔道具を使わせてたまるか。実力で魔王に会って交渉しな。」


は⁈ 何ソレ母ちゃん⁈


「帰るなら自力で帰りなさいっと事。だいたいあんた今帰っていいの?妹達を放って置いて? まさかソシャゲが気になるから帰りたいとか言うんじゃないよね。」


うん、正直転移した当初はソシャゲもテレビも途中まで読んでた漫画の続きも気にはなってたが数ヶ月過ごして割とどうでもよくなった。慣れって恐ろしい。


確かに妹を放って置けない。


 結局このまま学院で最優秀生徒を目指す事になった。



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