第11話仕組まれたエキシビション

 さて、次の行事は来月の【武闘大会】。…なのだが。

 いきなり教員室に呼び出された俺達『魔王の眷族』は大会に参加しなくていいと言われた。


 「お前らもうDランクじゃねえか。他の学生がE、Fランクだってーのに一緒に闘わせられるかよ馬鹿やろう。」


…おおう。変に頑張りすぎた弊害がここにも。  


「かと言って学院としては今期の最強パーティーに何もさせない訳にはいかんのでな。ひとつ趣向を凝らす事にした。」

「? 趣向?」

「いわゆるエキシビションマッチだ。学生最強vsプロの冒険者でな。また観客が盛り上がるぞー‼︎」


…俺達を見世物にして日銭稼いでんじゃないかなこの人達…


「で、対戦相手のプロ冒険者さんはどんなパーティーなんですか?それくらいは教えて貰えるんでしょうね?」

「………」


なんで黙ってんの先生? え? 知らない?

対戦相手の選別は魔導王サークライ様に任せてる?

なんであの人絡んでるの? えっあの人が企画立案⁈

…あの人が理事長代理?


そうですか… まあじかああああああ‼︎‼︎


 街の甘味屋にて何度目かの作戦会議に入る。なぜ甘味屋かというとミヤマさんのリクエストだ。気になる店を見つけては我々におすすめするのだ。


 議題は…『魔導王サークライってどんな人⁈』

物知りなミヤマさんに聞いてみるのだ。俺達3人が知ってる訳ないので。


「【魔王国十傑】はご存知ですか? 数十年前、異界の魔王がこの世界に現れた時、彼に協力してこの国を作り上げるのに尽力した10人の仲間達。それが【魔王国十傑】です。」


想像通りだな。有りがちな設定だ。


「中でもサークライさんは魔王に貧乏クジ引かされて留守がちな魔王の代わりに魔王国の政務を取り仕切っているようです。」


そもそもなんで魔王はそんなに出歩いてるの?こっちとしても迷惑なんだけど。


「それはお嫁さんと子供達から逃げてるかららしいですよ?因みに十傑の内七名が魔王のお嫁さんだそうです。」


 クズだ。リィカといいレンといい子供を作るだけ作って捨てるなんて…

 魔王クズ決定。


 うちも母子家庭だからこういう男親はシネバイイノニと思わざるを得ないのだ。 

リィカとレンが何とも言えない顔している。もしかして嫁七人は今初めて聞いたのかも知れない。

 おのれ魔王め。 俺の仲間を悲しませやがって。

個人的な恨みが湧き上がって来たぞ魔王。


魔王に貧乏くじ引かされた男・魔導王サークライ。

…ちょっと同情してしまうかも。


 相手が決まったらサークライから連絡が来るというので今なら二週間くらいは自由に出来る余裕がある。学院の外のギルドで仕事を受けてみようという話になった。


 ぞろぞろとみんなで冒険者ギルドへ。ここへ来るのは4カ月振り。初めて魔王都に来た時以来だ。あの時は学院の入試案内を貰っただけでちゃんと中は見られなかったなぁ。

 ギルドに入ると冒険者からの視線が一斉に我々に集まる。【スタンピード】を知っている冒険者もいるのか、それとも【魔術大会】の記憶も新しいのか、龍になったリィカに向けられる目が多いように見える。しかし遠巻きにして近寄っては来ない。まあ面倒がなくてよい。とにかくリィカとレンの人見知りが凄まじい。


「よお、ユートちゃんじゃねえか。久しぶりだな。どうしたい。」


そこには『砂塵の輩』がいた。声をかけて来たのはリーダーのディックさんだ。お久しぶりですディックさん!ニッコニコの改心の笑顔で挨拶する俺を見て驚くリィカとレンの二人組。なんだよ⁈ え? 男の人にそんな笑顔するなんて初めて見た? わ、悪かったないつも仏頂面で!ディックさんは思い出の人なんだよ‼︎ そこ‼︎ヒューヒュー言うな‼︎


「学院内のギルドからクエスト受注出来なくなったのでこちらで受注しようと思って。Dランククエスト。」

「Dランククエ?学生がDランクだと?いくら何でも早くないか?」


ああ、ディックさんの耳には【スタンピード】の顛末は届いてないのか。


「いやぁ、仲間のおかげで成長が早くて。」


ディックさん達に『魔王の眷族』のメンバーを紹介する。 


「ああ、スタジアムを燃やしたっていう龍の嬢ちゃんとヒーリング姫か。初めまして。」

「は、初めまして、なのじゃ…」

「初めましてでござる…」


 【魔術大会】での噂は冒険者達の間でも広がっているらしい。慣れない社会人との会話でテンパっている龍っ子と鬼娘。ううむコミュ障。

 すると猫娘のキャトーさんが


「あ、クエスト受注するならどうだい?あたしらと合同で受けてみないかい?あたしらCランクだからあんた達も自動的にBランクまでのクエスト受けられるよ?」

「本当ですか?」


 冒険者は自分と同じかひとつ上のランクのクエストまで受注する事が出来る。別のランクの高いパーティーと組めばそのパーティーのランクでクエストが受けられるそうだ。


 知らなかった。そんなシステムがあるんだ。

後ろを振り向いて見るとうちのメンバーは首を振る振るして俯いていた。うむ…上級パーティーと組むのはまだハードルが高いか。


「ありがとうございます。ですが僕ら今回が外で受ける初めての仕事なのでみんなまだ緊張してガチガチなんです。ゆっくり慣らして行くので僕らに自信が出来た頃を見計らってまた誘って下さい。」

「そっかぁ。残念だな。充実した学院生活とか聞きたかったんだがなあ。恋話とか。」

「な、なんで恋話なんですか?」

「あんだろ⁈学院なんだから‼︎な?」


 リィカ達にも振って来るキャトーだが我々だんまりである。有り得ないからである。クラスメイトとすらちゃんとコミュニケーションが取れない。我々完全なる喪女である。


 憐憫の表情を浮かべるディックさん達と別れ、我々はクエストのボードを喰い入るように見つめる。

 実はここんとこ学院内クエストでは常時採集しか出来なかったので妙なフラストレーションが溜まっていたのだ。

 リィカもレンも魔物殱滅クエストばかり選ぶ。素材の保存を気にしない殱滅だ。そりゃ素材が取れれば越した事ないが多分そんな余裕ある感じしない。このテンションに『砂塵の輩』を巻き込む訳にいかんでしょ。


 結局Dランクの俺らはCランクのオーガキング殱滅クエストを受注した。

 …オーガ相手だけど鬼娘のレンとしてはどうなの?

あ、似てるだけで関係ない?あ、そうなの…。



 東の森のオーガのコロニーにドラゴンリィカの爆炎が轟く。逃げ惑うオーガ達。女子供も容赦なく殱滅するドラゴン。とても素は人見知りなお嬢様とは思えない。

 最初は身体強化したリィカがオーガのタコ殴りに耐えてたんだけど数が多すぎてブチギレた。いきなりドラゴン化して暴れ始めた。


 俺とレンは森の木々に着いた火を消化して回ってる。被害を最小限にする為に。


 んー、今回もパワープレイになっちまったなぁ。正直不安である。武闘大会でこんな戦闘になったらどうしよう。大会は対人戦闘であり相手の生命は奪えない。


 つまり我々の力は人にはオーバースペックなのである。如何に手を抜いて頑張っている様に見せるか、で悩んでいる。



 後から見れば傲慢でなんて甘い考えかと思う。

世界は自分が思っていた物より遥かに複雑なのだ、と思い知る事になる。


 武闘大会のエキシビション、どんな対戦相手でもまあ苦戦はしないと踏んでいた。我々は規格外だから人相手なら負けないだろう、と踏んでいた。



サークライが用意した対戦相手は人ではなかった。



 武闘大会当日。会場は魔術大会と同じくスタジアムだ。学院生徒の対戦は粛々と進む。歓声が聞こえる。


 生徒同士の闘いもそれなりの盛り上がりを見せている様だ。俺ら三人だけ蚊帳の外である。

 リィカが退屈そうに足をブラブラさせてる。レンは妖しい本を読んでグフグフしている。緊張はしていない様だ。


 そしてようやくエキシビションの出番がやって来る。


「やあ『魔王の眷族』の皆さん。今日は面白いチームを連れて来たよ! じっくりその実力の差を噛み締めてね!」


 サークライの横には30代前後に見える三人の冒険者らしき女性が立っている。


 ひとりは黒いロングヘアーで特徴的な瞳をしている。金色の光彩。いわゆる龍眼。


 もうひとりは引き締まった肉体に天パーの頭に二本の角。


 最後のひとりは…


 俺も相当戸惑っていたが、それ以上にリィカもレンも固まっている。


「…は、母上…?」

「母様…」


え…?


「リィカ、レン、間違い無いか? よく似たそっくりさんて事はないか?」

「…間違える訳がなかろう。あの龍気。あんなもん我が母上以外にこの世におらん。」

「拙者も…あの闘気を忘れるはずござらん。」


あー。やっぱりお前らの母ちゃんか。


 最後のひとりは嬉しそうに俺を見てニヤついている

ハイエルフ。俺の母ちゃんだ。


俺たち『魔王の眷族』の前に三人の母親が立ち塞がっていた。

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