嘘も方便! MIB!

「マジっすか?」

 パイセンが、砕けた敬語で応える。


「けど、本人は自分がユーニスだと」


「そっくりさんですよ。宇宙海賊に憧れちゃったみたいで。どうもカノジョ、『自分がユーニスブキャナンだと思い込んでいる一般人』のようでして」


「どうして、また」


「虎徹と交際して、ちょっと


 かなり無茶な方便だと思った。


 しかし、カガリは堂々と語る。


「パルも、主人の亡きがらに涙しているでしょ?」


 ロンメルの砲を見ると、焼け跡を見つめながら、『ユーニス様ぁ』と涙ぐんでいた。

 芸達者なことで。


「彼女がそっくりさんかどうかは、生徒手帳を見ていただければ分かります」


 優月が懐から生徒手帳を取り出す。どういうわけか、驚いた顔をしていた。


 端末を使って、パイセンが優月の手帳を調べる。内容を読んで、ため息をつく。


「……わかりました。失礼を、河南優月さん」

 パイセンが優月の拘束を解いた。


 優月の方も、事情が飲み込めていないような表情を見せる。





「てっちゃん、本当なんだな? こいつは海賊じゃないんだな?」


 今度は、オレに飛び火した。


「はい。コイツは、オレの……カ、カノジョです」


 照れ臭くなりつつも、ハッキリ答える。

 オレと横に並ぶ優月の方も、顔が火照っているように見えた。


「わかったよ。てっちゃん、彼女によろしくな」

 先輩を乗せた、銀河警察の船が見えなくなっていく。


「お前、何の細工したんだよ?」


「見れば分かるだろ?」


 優月が着ているのは、ジャージだ。「銀星第一高校」の。


「まさか!」

 オレは、優月の生徒手帳をひったくる。




 生徒手帳も、「銀星第一高校」の手帳だった。




「お前、優月の履歴書を書き換えやがったな!?」


 なんてヤロウだ。

 この短期間で、優月の経歴詐称を行うとは。


「バレたら記憶消去どころじゃないぜ」



「ユーニス君が河南優月なのは本当さ。事実を言ったまでに過ぎないよ。ただ、彼女が女海賊だったという項目は偽装させてもらった」


 ユーニス・ブキャナンは星雲大帝と戦って、さっき死んだことになっている。跡形もなく。


「ロンメルくん、いつまでお芝居してるの?」


『すいません。演技に熱が入りすぎました』


 優月の元へ、ロンメルが戻っていく。


 そういえば、優月のアーマーも破壊されたんだったな。


「他にもトリックを仕掛けたんだけど、それは、じきにわかるよ」


 カガリは背を向けた。


「それじゃあね。二人とも。ひとまずはありがとう」


「でも、欠片は消えてしまった。いいのか?」



「欠片は価値がなかったから、回収できなくても痛くない。地球が無事なら、ボクはそれで構わないから」

 手を振りながら、カガリは去って行く。


「何で庇ったりなんかしたのよ。あたしは、アンタの敵なのに」

 顔を背けながら、優月が尋ねてきた。


「まだ決着が付いてないからな、お前とは」


 オレが言うと、優月は笑って頷く。


「そうね。あんたとは勝負していたのよね。いいわ、決着はまたいずれ」


「とにかく帰ろうぜ。もう腹減って」


 今度こそ、長かった夜が終わった。



「あの、虎徹」

「なんだよ?」


 優月の顔が、オレに近づいてくる。


 オレの頬に、温かい物が触れた。


「ありがとう」


 赤みがかった優月の顔が、すぐ近くに。


「か、勘違いしないでよね! 鏡華を助けてくれたお礼だから! アンタのことなんて!」


「へいへい。分かってるよ」


「ふん!」

 

 また、優月はいつもの調子に戻った。


 これでいい。

 オレは、この日常を取り戻すために、戦ったんだから。

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