隠れ家発見! もぬけの殻!

 調べてくれた忍者によると、公園の工事現場地帯には、科学的な障壁が張られていたという。何かを隠すように。


『ここですね』


 ロンメルが、公園のベンチに着目した。足の影が途切れている。


『ここが、空間の裂け目なのでしょう。開けてみます』

 影の裂け目に向けて、ロンメルが目からレーザーを発射した。


 ゆっくりと、影が元に戻っていく。同時に、どこかへ通じている入り口らしき鉄扉が現れる。


 ドアが独りでに開く。


 どういう原理なのか、扉の向こうにはロボット製造工場が隠されていた。もぬけの殻だったが。


『空間を折りたたんで、作業場として利用していたようですね』


「あれか、カガリの実家みたいな仕掛けか」


 あの巨大旅館も、空間を折りたたんで大人数を収容できるように作られている。


『その通りです。ここまで巨大な施設を気づかれずに稼働させるとは、相当、優れた科学者が側にいた可能性があります。もしくは』


 宇宙人が関与していた、と。


 目からレーザーを発しながら、ロンメルが辺りを散策する。


『この地下に、かつて研究所があった形跡があります。おそらく、あのロボットはここで作られたのでしょう』


「でもよ、ここって小型隕石の落下地点だろ」


 そんな程度の物が落ちてきて、ここまでカモフラージュする必要があるのか。MIBの手は掛かっていないし。


『なにか、重要な物が飛来してきた可能性がありますね』


「まさか、オーパーツの欠片か?」


『あるいは、それに関連した物ではないかと』


「だよな……」


『そう思っていた時期が、ワタシにもありました』


「何だと?」


 ロンメルの発言は、妙に自信が溢れていた。


『実は、昨日話したパルですが、野良なんです』


 不思議な話だ。本来同志パルは海賊と組むのがセオリーだ。なのにソロで活動するとは。


『ここに来る前にも話したのです』


 野良のパルなんて、そんなに大勢いるとは思えないが。


「どこで話せたんだ?」


「MIBの総本部さ。ボクが案内した」


 オレは絶句する。そう簡単に入れるのかよ。


「この間、野良パルが化けていたバルーンを持った子供がいただろ? 彼女が総司令官だよ」


 マジかよ!?


「あたしもぶったまげたわよ。あんな小さな子供が、MIBの最高責任者だなんて」


「実際、何歳なのかは誰にも分からないんだけどね」


 ある意味、そいつこそ宇宙人なんじゃ。


『ここまで技術が発展すれば、自活することも可能でしょう。けれど、我々は初めから誰かと組むことを前提として作られています。非効率ではないか、と野良のパルに尋ねたんですが、特に問題ないと返されました』


 エサをくれる相手がいるとか? は、違うみたいだな。

 こいつらは少しの電力さえあれば生きていけるし。


『身体はあるというのです。現在、その技術が作られていると』


 パルに、身体を提供している企業があるとでも?


『そうではありません。我々が自活する方法が、とある欠片に書かれてあったそうです』


 目からレーザーを発し、ロンメルが映像を投影する。



【完全自律マニュアル ~機械のあなたがヒトの支配から逃れる百の方法~】



「う、うわぁ……」


 ロボット専門の、自己啓発本かよ。


『このマニュアルは、人工知能が作り上げた物だそうです』


 正確には、データを圧縮した記録媒体だという。

 USBみたいなもんか。


 人工知能達はこれを分析して、自分たちでも人間より上に立てると思い立つ。マニュアルにより、あちこちの星系で機械による決起が後を絶たなかったらしい。


『人工知能に自立を啓発するマニュアル。それにしても、この落下地点の様子。こんな小型サイズの落下物など、せいぜい小型隕石です……』


 思わせぶりに、ロンメルが言葉を綴る。


『どうやら、手稿を読んだ影響か、ワタシは「推理」を覚えたらしいですね。おそらく、星雲大帝の正体は……』




 新しい思考を手に入れたロンメルは、『ある仮説』を立てた。



「マジかよ。信じられん」


『まだ、決まったわけではありません』


 そうよだな。でなきゃ許さねえ。


「鏡華が無事だといいけど」


「平気だと思うよ。欠片だって万能の力があるわけでもないんだ。手軽に扱える物じゃないし」


「そうなの?」

 カガリの説を、優月が興味深げに聞き入る。


「たとえば、緋刀の大戸惑オオトマトイだけど、『対象に大切な人がいると、効果がない』って縛りがあるんだよ」


 それで、オレは緋刀の術から逃れられたのか。


 鏡華の父も、家族を大切に思っていたから、術の効果がなかったのだという。


「大切な、人」

 ボソッと、優月が言葉を口に出す。


「虎徹君は、自分よりも大切な人がいるんだね?」


 オレは、優月と目が合ってしまう。


 動悸が激しくなってきた。


 優月といるのが不快なわけじゃない。

 なのに、どうして胸が高鳴るのか。


 言い様もない空気が、オレ達の周りに漂う。


「な、ななな何言うんだよ!」


「そ、そうよ、アホな事言わないでよ!」

 優月の顔が、カーッと赤く染まる。


 お互いに手をバタバタさせて、妄想を全否定する。

 そんな事があってたまるか。オレが優月を大事だなんて!


「どうせ家族でしょ? イトコちゃんなんて大切に思ってるみたいだし」

 ナイスなフォローが優月から飛んできた。


「まあ、親は大事かな?」

 照れ隠しをするように、オレは高笑いをする。


「身内だと術は解けないよ? 鏡華君の父親には奥さんがいる。もちろん鏡華君も大事だろうけどね」


「え、それ、じゃあ」

 言葉を失い、オレは呆然となった。


「とにかく、術が効かないんでしょ? 重要なのはそこよ」


「そうだ。そうだぜ。それで、大帝の居場所はどこなんだろうな」

 優月のナイスパスに合わせ、オレは話題を変える。


「ジイサマ、星雲大帝の居場所を突き止めた。今から仕掛けてみる。ただし、手出しするんじゃねえ」

 スマホで、ジイサマに連絡を取った。


『出すも何もこちらからは手が出せんのじゃ。MIBの奴らから指示された』


「どういうこった?」


『裏切り者が出たことで、戒星に行動制限を設けるとぬかしおった』


 なるほど。こうなると見越していたようだな。

 これが星雲大帝の真の目的だ。

 奴ら、よっぽどオレ達忍者が邪魔らしい。


「止めても無駄だ。オレは行くぜ」


『虎徹、頭にくる気持ちも分かるが堪えるんじゃ。今、戒星が動けば』




「戒星として行くんじゃねえ。鏡華のダチとして行くんだよ!」

 オレは言い切った。




 優月が、驚いたような顔をしている。


 ジイサマは黙り込んだ。しばらくすると、フッと笑った。

『左様か。友垣を助けに行くのなら、止めることはできんな』


「抜かりはないぜ。なあに。優月もいる。欠片も取り戻してくるぜ。最悪、欠片はこっちが強奪しても構わねえだろう。その場合は、銀河警察に引き渡す算段を付けて欲しい。それで責任を取る」


 簡潔に事情を説明する。

 MIBの指示なんてシカトしろとも念を押した。

 ここで忍者が尻込みしたら、それこそ奴らの思うつぼだ。


『心得た。欠片の保護は任せよ。それと、友垣の事もな』


「そっちは頼むぜ。じゃあな」

 スマホを切って、優月に向き直る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る