仲裁! MIB(メン・イン・ブラック)!

「おい、コウモリ玉子」


『コウモリ玉子ではありません。私の正式名称は海賊専用自立型端末、ロンメルです』


 自身をロンメルト名乗るパルが、窘めるような口調で語る。


「パルにしては、表情豊かだな」


「元々、パルってフランクなの。他の海賊が連れてるパルの方が機械的なだけ。まったく、可愛げがないったらありゃしない」

 さいですか。

「さっきの女だが、何か分からないのか? さっきのチーマーとの関連は?」

『何も分かりません。道から離れた樹林地帯に熱反応はありましたが、すぐに消えてしまいました。映像にも残っていません』

 パルですら追跡できないとは。

 さっきのチーマーも、誰の指示で動き、どこから来たのか見当も付かない。

「パルでも分からないことがあるんだな」


『私は過去のデータを照合して、調査や分析を行います。知っていることなら分かります。ですが、未知なる物事の予測や、思考するまでの機能は備わっていないんです』


 会話はできるが、本質的に人間とは考えが異なるようだ。


「あんたたち忍者が、仕向けたんじゃないのよね?」


「人聞きの悪いこと言うなよ。オレだって襲われたんだぜ。そっちこそ、オレをここで始末するつもりだったわけじゃねえよな?」


「そんなわけないでしょ。あんたなんてあたし一人で十分ですもの」


「なんだとお? じゃあ、やってやろうじゃねえか!」



「上等じゃない。相手になってあげるわ!」


 優月が銃を構えたので、オレは刀を再び抜く。


『やめてくださいお二方! 今はいがみあっている場合じゃありません』


「あんたは黙ってなさいよ!」

 優月が武器化したロンメルをビンタする。



「いくぜ、海賊さんよお!」

「忍者は床下でおとなしく隠れてなさいよ!」


 オレと優月の放つ刃が、肉迫しようとした。


「ストーップ! これ以上やると、宇宙治安維持法に引っかかる恐れがあるよ!」


 オレと同じ、銀星第一の制服を着た少女が、オレと優月の間に入り込んだ。一本にまとめた三つ編みお下げが制止の反動で大きく跳ねた。


 危うく少女を斬りそうになって、互いに武器を引っ込める。


「つけてたのかよ、カガリ。新聞部の一環か?」

「クラスメイトのピンチだからね、虎徹君」


 一本三つ編みの少女が、オレと優月の間に立って熱弁する。


「ダメじゃないか、虎徹君。それに優月君。こんな所で戦ってるところを誰かに見られたら、ボクの仕事が増えてしまうじゃないか。せっかくの休日だというのに」






「本業でお出ましってワケか、カガリ。もとい、KJ」



 十文字 カガリ、通称というか自称「KJ」。地球人でありながら、宇宙の秘密を守る機関に所属し、オレ達のような宇宙人の動向の管理と監視を行う。

いわゆる【MIBメン・イン・ブラツク】と呼ばれる機関だ。




「あたしたちをつけてたの、KJ?」と優月がカガリに問いかける。


「たまたま通りかかっただけさ。ボクの本命は彼らだ。地球に不法入国していた奴らだからね」


 カガリは、伸びている宇宙人たちを持ち上げた。

 さっき戦っていたチーマーだ。


 配下らしきMIBに、カガリは宇宙人チーマー共を預ける。



「これでよし。さてと」

 カガリは並木道に指を差した。


 そこには、唖然とした顔をして立つ通行人の女性が。


 しまった。ずっと見られていたのか。


 カガリが女性に近づいていく。さっきのは撮影だと、嘘の情報を植え付ける。


「では、こちらのスマホを見ていただけますか?」


 カガリは、スマホが取り付けられた自撮り棒を伸ばす。


「これは?」と女性が尋ねると、「それも大切なシーンなので、協力してください」とカガリが返す。


「では、撮りますよ。スマホに目を向けて下さい」

 瞬時に、カガリがサングラスをかける。


「やばい!」と、オレたちは急いで顔を伏せた。


 バシャリ、と音がしたのを確認して、オレと優月は、通行人の女性の方を向く。


 女性は辺りを見回して、何事もなかったかのように歩き去って行く。カガリの衣存在も見えていないようだ。


「記憶消去、完了っと」


 今のは【メモリーイレイザー】。

 記憶消去用に使われるスマホである。


 宇宙の秘密に触れた地球人が、これ以上関わらないようにするために用いられるものだ。宇宙人側の秘密も守られる。


「仕事が終わったんでしょ、KJ。だったら邪魔しないでよ!」

「そうだぜ、カガリ。お前の仕事は半ば趣味みたいなもんだろ。仕事が増えて万歳してるんじゃないのか?」


 オレと優月が構え直す。


「心外だな、虎徹君。まるでボクをワーカホリックみたいに」


「オカルトマニアの間違いだろ。それはそうと、お前、優月とも知り合いか?」


 彼女のような機関所属のエージェントは、地球に来た宇宙人に最低一人は配備される。


「優月の担当エージェントはボクだからね」

「なんだと、初耳だぜ。学校が違うから他人かと思ったが」

「四六時中面倒見るとなると窮屈だしね」


 宙ノ森はただでさえ厳しい。ちょっとでも問題を起こしたら速攻で退学だ。


「鏡華君だけど、彼女は優月君の正体を知らない。虎徹君の正体も知らない」


 優月も、困惑したような顔をした。ダブルデートの件も、鏡華のデート相手について何も聞かされていなかったらしい。


 その上で、この企画が組まれた。ならば答えは一つだ。


「ダブルデートを鏡華に提案してきたのは、お前だな、KJ?」

「話が早くて助かるよ。虎徹君。キミと優月君を引き合わせるため、一つアイデアを提供したまでさ。いいサプライズだったろ?」


 余計なことしやがって。


「てめえのせいでこっちはいい迷惑だぜ、カガリ。海賊に目を付けられるしな」


「とにかく、死にたくないならどきなさいKJっ!」

 またも、ムーンダンサーを構える優月。

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