第25話 火の鳥
それはドラゴンと同等か、それより少し大きな火の鳥だった。
燃え盛る火で構成された鳥は、鷹を彷彿とさせる。
「精霊召喚・レッドホーク」
男はその火の鳥に飛び乗る。
いや、熱くないのか? 自分で放った魔法と同じ原理なのだろうか…?
そして今、精霊と言った。
レージの知らない単語だ。いや、厳密には知っているが、この世界で初めて聞いた。
なにか護符のようなものを使っていたし、フォルテの闇召喚魔法とはまた違うというのだろうか。
「こんなガキに魔道具使っちまうのはもったいないが、今回は報酬がいいからな。いけ、レッドホーク!」
そう言って男は精霊に指示を出し、組み立て式の薙刀を腰の後ろから取り出す。
レッドホークはキェエンと甲高く鳴き、地上から一気に上空へ上がり、一気に滑空してサマンサに乗るレージに突っ込んでくる。
空対空戦の経験のないレージはどう対処すればいいのか考える。
ひとまず接近戦は避けたい。
弓以外に武器を持っていないレージは、金属の得物相手では避ける以外の選択肢がない。
レージはサマンサに上昇する指示をし、滑空してくる相手をいなす。
レッドホークはすぐに旋回して、すぐにサマンサに向かってくる。
相手の間合いに入る前にスライドし、なんとか回避を続けた。
「いつまで逃げられるかな!」
こういう時こそ落ち着かなければいけない。
ふぅっと息を吐き、分析する。
相手は魔法を得意としていないと思われる。
ファイヤーボールは初歩中の初歩の魔法だし、石の魔法もそこまで高度とは思えない。
対空中戦を得意としていない点、早々に切り札っぽい魔道具を使ってきた点、それらを鑑みると魔法を含む遠距離攻撃手段が不得手と考えられる。
その分、高い身体能力とリーチの長い薙刀での近距離攻撃は危険だろう。
また、レッドホークは小回りが効かない。
ドラゴンのように手綱や脚で扶助できるわけじゃなく、男の意思みたいなのを感じて飛んでいるように見える。そのため男が振り落とされないように旋回するので、そこそこ大きく回転している。
ドラゴンに乗っているレージは鞍に足を掛ける鐙が付いているので、小回りをして遠心力が掛かっても耐えることができる。これはアドバンテージとして考えられる。
「ボールレイン!」
レージはレッドホークを回避してすぐに、水魔法を発動した。
いくつもの水球をレッドホーク目掛けて放つ。
レッドホークは滑空しながら大きく旋回してそれらを避けていくが、間髪なく迫った水球が一発だけ命中した。
しかし、特にダメージというものは見えず、体表の燃え盛る火は消火できない。
レッドホークそのものをどうにかするのは難しいかもしれない。
何度か交差するが、ギリギリのところでレージとサマンサは相手の攻撃をかわす。
「じれってぇな!」
変わらず突っ込んできた男は薙刀を大きく振りかぶる。
レージは今まで通り、サマンサに扶助を行いギリギリでかわそうとする。
「ファイヤブレード!」
薙刀の刃に火を纏う。そしてその火が大きく伸びて、刃渡りが薙刀の柄以上に長くなった。
「マジかっ!」
まずい、このタイミングで避けても当たっちゃう……!
とはいえ今から何かできるということもない。手綱を放す暇すらない。
男はレッドホークとサマンサが交差する瞬間、渾身の一撃をレージに見舞う。
しかし、その火の刃がレージに届くことはなかった。
「サマンサ!」
レージはすんでのところで命拾いする。
サマンサが刃を口で受け止めたのだ。
ありがとうサマンサ!
「クソドラゴンが!」
男の叫びと共に、武器を抑えられ一瞬の間ができる。
レージはこの間を見逃さない。
「クソはお前だろ!」
手綱を放して、至近距離から弓で矢を放った。
魔法もなにも掛かってない、ただただ放たれた矢は男の肩に刺さる。
「ぐわぁ!」
男は利き腕側の肩を負傷し、逆の手で患部を抑える。
「ぐぉおおおん!!」
サマンサが大きく咆哮した。
私も戦う!
という意思表示に感じた。
レージは気付く。
ドラゴンに乗って戦うというのは、一対一の状況ではないのだ。
竜騎士っていうのはドラゴンと一緒に戦うってことなんだ。
「よし! サマンサいけ!」
「ぐおん!」
サマンサを前進させ、レッドホークに体当たりをする。
そしてサマンサは鋭い牙でレッドホークに噛み付いた。
キェエエエンと火の鳥が哭く。物理攻撃もしっかりと効くようだ。
その間にレージは再び矢を構え、今度は男の右の太ももを撃つ。
瞬間、男はサマンサとレッドホークの至近距離での攻防による揺れに耐えきれず、振り落とされてしまった。
「くそがぁあああ!!」
叫びながら落下する男は無情にも地上へ激突した。
やばい、殺しちゃった!?
少なくとも気を失ったのか、レッドホークがキラキラと消滅していった。
レージは急いで男の元へ着陸する。
火の鳥が消え、暗くなった辺りは静まり返っていた。
男の呼吸音が聞こえる。
よかった、死んでない。
高い身体能力で、多少は受け身を取れたのだろう。
これは実戦だった。当然殺すか殺されるかという戦いだ。
レージは改めてその怖さにゴクリと息を飲んだ。
そして、男に縄を掛けて、サマンサの尻尾の根本に括り付ける。
勝利の余韻に浸っている時間はない。
「テルを追おう!」
サマンサを飛ばし、テルが飛んでいった方へ急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます