アガレス2

「うっ、うおおおおお!」


ウロコは雄叫びを上げた。


それに呼応するように、彼女の体は竜女のそれへと変化して行った。


「……ふぅ。よし、行くわよ!」


ウロコは悪魔の正面に立って構えた。


『待て』


突如、アンマリの声が響いた。


「わっ! ……とと。何よ、せっかくの勢いを殺さないでもらえるかしら?」


『はぁ……今のを見過ごせる奴がどこにいる』


「今の?」


『雄叫びだ、雄叫び! なんなんだそれは! そんなものは、竜女への変化には必要ないぞ!』


「知ってるよ。これは私なりのアレンジだよ」


『は?』


「炎を飲み込んで変身するだけじゃ、なんか物足りないないでしょ? だから、雄叫びのひとつでも上げてみようと思ってね。なんとなく勢いもつくし」


『はっ! 何がアレンジだ。ただただやかましいだけじゃないか』


「そうカリカリしないでよ。助ける為とはいえ、ドラゴン達に危害を加えることになるのだもの。こういうので一度、気持ちを切り替えないとね」


『お前……』


「なーんてね。ほら、しんみりしてる場合じゃないでしょ。今度こそ行くわよ!」


『だ、誰がしんみりなんか! ……っち! さっさと行け!』


「りょーかい!」


ウロコは力強く大地を踏みつけると、悪魔に向かって跳躍した。




「ワニの姿の悪魔か。どんな攻撃をしてくるのかしら?」


ウロコが言った。


『さあな。とりあえず、先ずは相手の出方を探れ。遠距離攻撃で牽制だ』


アンマリが言った。


「オーケー、遠慮攻撃ね……なら!」


そう言うとウロコは大きく息を吸い込んだ。


「っ! ハァ!!」


ウロコは喉の奥から悪魔に向けて、勢いよく炎を吐き出した。


『さて、どう来るか……』


アンマリが呟いた。


しかし、悪魔はその場から一歩も動かず、その身で炎を受け止めた。


「え!? 直撃!?」


『……いや、あれは』


炎が晴れた先には、無傷の悪魔の姿があった。


「うっそ。全然効いてない……」


ウロコは絶句した。


『なるほどな。炎も物ともしない強靭な体表か。そんなものがあるなら、わざわざ避ける必要はないな』


アンマリが言った。


「なーに感心してんのよ。攻撃が効かなかったのよ、完全にこっちが不利じゃない」


ウロコが眉間にシワを寄せながら言った。


『不利、な。それは現時点での話だ。お前の武器は、その吐き物だけじゃないだろ?』


アンマリが尋ねた。


「吐き物って……まあ、それはその通り……ね!」


ウロコは悪魔の繰り出した尾の一撃をかわした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る