アガレス1

「……何もないな」


荒野を歩くアンマリがつぶやいた。


彼女は額に手を当てながら、周囲を見回している。


「そう? 色んな形の岩がそこかしこに転がっていると思うけど?」


アンマリの隣を歩くウロコが言った。


「アホ。岩以外、何もないからそう言ったんだろうが」


「何もないと何か困るの?」


「その逆だ。何もなければ、周囲に人がいないということだ」


「なるほど。無関係の人が戦闘の巻き添えを食うのは避けられる、と」


「なっ!?」


「ふふ。図星だね」


「ちぃ! ふざけてないで、お前は心の準備をしておけ! この近くにドラゴンがいるのは確かなんだからな!」


「それは分かっているけど、そのドラゴンはどこにいるのかしら? 周りに何もないなら、そのドラゴンが隠れる場所もないと思うけど」


「はぁ、これだから異世界人は。了見が狭くていやになるな」


「むっ、何よその言い方は」


「アタシは事実を言ったまでだ。いいか、相手は犬やネコではなくドラゴンなのだ。巨大である奴らが、身を隠すほどの物陰などどこにあるものか」


「そ、それはそうね」


「ふん、理解したようだな。なら問題だ」


「ん?」


「そんなバカでかい奴らが身を隠せそうな場所、それはどこだ?」


「え? うーん……」


ウロコはアゴに手を当てながらしばらく考え込んだ。


「……はっ、もしかして!」


ウロコがそう言った次の瞬間、二人の周囲の大地が大きく揺れた。


「どわっ!? な、何よ?」


ウロコが地面に尻餅をつきながら言った。


「残念ながら、タイムアップのようだな」


アンマリそう言った次の瞬間、二人の眼前の大地が切り開かれ、地中から一体のワニの姿をした化け物が現れた。


「……なるほど、これが正解ってわけね」


ウロコが冷や汗を浮かべながら言った。


「そういうことだ。そら、仕事の時間だ。とっとと片付けるぞ」


「分かってるよ!」


次の瞬間、アンマリは自身の姿を赤色の光に変え、ウロコの右手の甲の紋章に移動した。


『やり方はこの前話した通りだ……ま、お前が覚えているとは思えないがな』


アンマリが言った。


「心配ご無用! 頭はともかく、体に覚えこませるのは得意なのよ!」


ウロコが答えた。


『頭はともかく、な。それ、自分で言ってて悲しくないのか?』


「余計なお世話ですー」


そう言いながらウロコは右手から炎を生み出した。


「それじゃあ……行きますか!」


『ああ』


ウロコは炎を口に近付けると、それを飲み込んだ。

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