バアル5

「わっ、すごい。強そう」


自身の左手に視線を落としたウロコが言った。


『そうだろ。ま、最も実際に強いかどうかは、お前の腕にかかっているのだがな』


アンドロマリウスが言った。


「言ってくれるね。これでも、中学は運動部だったんだよ」


『ほう。ならせいぜい見物させてもらうとするか。お前の腕前とやらを』


「その位置からじゃ見えにくいと思うけど。まあ、とくと見ててよ」


そう言うとウロコは再び大地を蹴って跳躍した。


前回とは違い、彼女の身は悪魔をハードルの様に超えはしなかった。


(こいつ、たった一回で竜女のスペックに慣れたのか!?)


「アンドロマリウス」


『ん? 何だ?』


「姿が見えないから表情は分からないけど。今、びっくりしてたでしょ」


『なっ!?』


「図星ね。でも、驚くのはまだ……早いわよ!」


そう言うとウロコは空中からの落下と同時に、爪を伸ばした左手を、悪魔目掛けて振り下ろした。


その爪の一撃は悪魔の体を切り裂いた。


『……完全に竜女の力を使いこなしている、こいつ!』


「へへん。声に出てるよ」


『う、うるせ……後ろだ!』


「え!?」


ウロコが背後を振り替えると同時に、化け物の巨大な足の一撃がウロコを捉えた。


ウロコは後方に大きく突き飛ばされた。


「いったたた……」


ウロコが背中をさすりながら言った。


『アホが。調子に乗っているからだ。ま、丁度いいお灸になったか』


アンドロマリウスが言った。


すると次の瞬間、化け物はウロコに向けて白い綱の様なものを繰り出して来た。


『っ!? よけろ!』


「分かってる!」


ウロコは間一髪、その綱をかわした。


「ふぅ、危なかった。何なんなのこの白いのは?」


ウロコが尋ねた。


『何なんだと聞かれても、白い綱の様なものとしか答えられないな』


アンドロマリウスが答えた。


「何よそれ。そんなの見りゃ分かるわよ」


『他に情報が欲しい、と?』


「ええ……あっ、やっぱいいや」


『何?』


「たった今、理解したわよ。こいつは協力な粘着性を持っている、ってね」


そう言ったウロコの左腕には先程の白い綱が絡み付いていた。


『アホ! まんまと攻撃を受けてんじゃねぇ!』


アンドロマリウスが言った。


「ごめんごめん。どうやら、かわしそこねたみたいね。次からは気を付けないと」


ウロコが左腕を眺めながら言った。


『何を呑気に……お前は今、あいつに捕まってる状況なんだぞ!』


「確かに、それはそうだ。だがこうとも言える」


『あん?』


「私があいつを捕まえた、ってね」


そう言うとウロコは綱の絡まった左腕を口元に近づけた。

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