第15話 魔物と兵士
城壁に設置したお父さんカメラに映像を切り替えると、相変わらずのワイルドイケメンが腕を組んで兵たちの進む方向を見つめている。
真っ暗だけどちゃんと見えているのかな?
僕のカメラは神さまの暗視機能付きだから、こんな暗闇でもとてもよく見えるけどね、ふふん。
ドヤ顔でそんなことを考えていると、副隊長がどこからか小さなテーブルを取り出した。
えっ! どこから出したの? そのテーブル。
リプレイ映像を確認すると、副隊長が短い詠唱と共に片手を空中に差し入れ、その手を戻した時にはテーブルが表れていた。その横には〈
すかさず詠唱をサンプリング、
僕は早速その詠唱を再生してみた。
すると、マツプ上に〈収納するものを選んでください〉という表示が現れる。どうやらマップに
「よし、じゃぁ取りあえずコレ」
ぼくは部屋の入り口を守ってくれている衛兵をマップ上で選んでみた。
衛兵の鎧と服は選択できて赤くハイライトしたけど、身体は選べないみたい。うーん、生物は収納できないのか。
ありがちな仕様だね。
このまま着ているものだけ収納しちゃうと、いろいろとよくないことが起こるから止めておこう。
僕はカメラを飛ばして部屋を見渡した。
何か手ごろなものはないかなぁ……あっ! いいのがあった!
部屋の隅に〈
「ムグムグ、ンパァ(よしよし、OK)!」
僕はご機嫌で〈
すると、あら不思議。カメラ映像からウサギの人形が消えた。
同時にマップの横に収納リストが現れたよ。
リストには可愛いアイコン入りで〈
なにこれ、楽しい!
このアイコン、チロリン先生が描いたのかな……ぐう有能。
リストのアイコンを選択すると、ウサギの人形は元の位置に現れた。
収納する、消える。リストで選択、ぽんと出現。
はぁ~面白い。
いろいろと試した結果、収納した物はマップ上で指定した場所に出せるのが分かった。
ってことは、これ、物質転移にも使えるってことだよね……
生物は選択できないけど、それでも使いようによってはこの能力だけで無双できちゃうよ……(妄想タイム)
おっと、妄想している場合じゃなかった、視察に戻らなきゃ。
メイン画面をお父さんカメラに切り替えると、お父さんと副隊長がテーブルの天板を覗き込んでいた。
淡く発光する天板には地図が浮かび上がっていて、よく見ると小さな点が動いてる。
このテーブル、ただの机ではなかった。
カメラ映像には〈天視図:魔道具〉と表示されている。
天板の下を覗くと〈
僕のマップの簡易版という感じで、地図上の兵士の位置が把握できる。
ただ、魔物と兵士の区別ができていないので、動きで判断するしかないようだけど。
僕は自分のマップに視線を移した。
だってこっちの方が断然見やすいんだもの。
なんてったって3Dだし、拡大・縮小・回転も自由自在。マーカーの形状で魔物と人の区別も一目瞭然だよ。おまけに敵性判断もできちゃう。
「パプゥ、ダァァァ(うわぁ、結構な数いるんだな)……」
マップの上をうごめく無数のマーカーに思わず声が出る。
マーカーの形は三角、ということは人じゃない。この暗い森を住みかとする魔物か動物だ。
そのほとんどが敵性の高い赤色で、中にはどっちつかずの黄色いマーカーもちらほらと見えるけど、まぁ、ほぼ真っ赤だね。
その中を等間隔に並んだ青い丸印が森の奥へと移動している。
あっ、この分隊、もうすぐ魔物とエンカウントしそうだ。
すかさずカメラとマイクを近づける。
「ガキン!」
先に攻撃を仕掛けたのは魔物の方だった。
暗闇に火花が飛び散る。
魔物の攻撃をカイト型の大盾で受けた前衛の兵士は、その反動を利用して大きく後ろに飛びすさると、盾の尖った下端を地面に突き刺した。
盾の中ほどに細く開けられたのぞき穴から魔物の動きを確認すると、足元を土にめり込ませて魔物の追撃に備える。受け止める気だ。
あれっ? この盾の紋章は……
街の探索映像を引っ張り出して見比べると、やっぱりそう、武具屋に居た人だ。確かレベル3の身体強化魔法を持っていたはず、この人なら大抵の攻撃は受けきるだろう。
その兵士を目掛け、魔物が突進して来るのが見えるけど、素早いのでその姿はよく分からない。
ズドドドドド「ドガッ!」
魔物がものすごい勢いで盾にぶつかった。
前衛の兵士は押し込まれながらも腰を落として追撃を受け止め、魔物の動きを食い止めている。
動きが止まってようやく魔物の形を確認することができた。三本の角が生えた大蜥蜴……かな? それに頭から尻尾の付け根まで鋭いトゲの生えた甲羅で覆われている。前世で言うところの恐竜に近い。
大きさは頭から尻尾の先までが4メートル、高さはトゲも含めて1.5メートルくらい。普通の乗用車程の大きさがあるよ、何気にデカいね。
何て名前の魔物なのかな?
こんな時は頼りになるチロリン先生に訊ねるのが一番。
“先生、あれはなんていう魔物なの?”
“チンチロリン”
いつものチャイムが響き、マップに説明文が浮かび上がる。
〈ハラゥエ(Cクラス)〉暗い森に生息する爬虫類型の魔物、知性は低く凶暴で意思の疎通は不可能。背中の刺には神経性の毒があり、触れると全身が麻痺し死に至る。肉は淡白で美味い。
――なるほど、食べられるんだこれ、しかも美味とか。
そういえば、ワニの肉が美味しいって聞いたことがあるよ。それに近いのかな……
いや、そうじゃない。
凶暴って書いてあるよね? しかも毒があるらしい、大丈夫かなぁ。
僕の心配をよそに、兵士たちの動きは冷静そのもので、前衛がハラゥエの突進を押さえている間に他の兵士達は魔獣の周りを取り囲むように移動し終えている。
右側に回り込んだ2人が魔獣の胴体の下に素早く剣を差し入れると、リーダーが指示を出した。
「よし、返すぞ。せーのっ!」
「「よいしょ!」」
掛け声と共に魔獣の下に差し込んだ剣をもちあげると、魔獣はゴロリと仰向けにひっくり返り、白いお腹を見せている。
ん? お腹が上……ハラがウエ……ハラゥエ……発音が少しオシャレ風になってるけど、日本語っぽい感じがするのは偶然? とにかく覚えやすいのは助かるね。
エンカウントからわずか10秒足らず、哀れなハラゥエは背中の立派なトゲがあだとなり、地面にガッツリと突き刺さった状態で身動きが取れず、ただ足で空を掻いている。先程までの剣呑な雰囲気は何処へやら、今はただの食材にしか見えない。美味しいらしいから僕の命名の儀で来客に振舞われるのかな?
それにしても、思っていたよりずいぶんと地味だったなぁ。
もっと、魔法をバンバン撃ってドカンドカンと賑やかに魔物と戦うものだと想像していたけど、いま見たところ魔法は身体強化と鎧に
しかも戦い方はといえば、前衛が魔物の動きを封じ込め、それをリーダーの指示で隊員がひっくり返すだけ。戦いというより作業と言った方が近いような……きっと対する魔物ごとに対処法が決まっているんだろう、とにかくそこに緊張や恐怖というものは一切感じられなかった。でも、なんだろう。この感じ……
なんだか身体がじっとりして気持ち悪い。
ベッドの上でもぞもぞと手足を動かすと、
うゎ、こんなに汗かいちゃってるよ。
いまは麦実る季節。ここタキトゥスの初夏はすこぶる爽やかで快適だから、暑さからくる汗じゃない。
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