第13夜 破門
「ようやく“役者”は揃ったか。最強の退魔師、鬼一族の長、そして……“この世界をブッ壊す狂者”。どっちが“正解”か、勝負だ。楓。」
楓は妖刀夜叉丸を握る。蒼い鬼火が銀色の刃を纏っている。
「お前とはどっちにしても
楓の蒼い眼は目の前の人間と何ら変わらない青年を見据えていた。
「アレは“親”じゃねー。“
「お前は知らねーんだよ。喰い散らかしてさっさと里を離れたから。“
楓は東雲に刀を向けた。
蒼炎に覆われた刃の切っ先を。
東雲は少しだけその蒼く煌めく眼を開いた。
「お前が人間をどー思ってんのかは知らねー。けど、“雫”さんはあの時、
楓の身体を蒼い炎が纏う。全身を燃える様に包む。
「お前の知らねー人間はたくさんいる! 涙流して傷ついて死んでゆく人間を、オレは視てきた! でも“
楓を纏う蒼い炎は彼女の怒声に比例する。
蒼い炎は、更に強く燃え盛る。まるで、炎と一体化している様だった。
「それは、オレたち鬼も、“
楓は怒鳴り、左手を東雲に向けた。
蒼い炎が彼女の左腕を覆っていた。
「他者でも自身でも、何かを護ろうとして死んで逝こうとするのを見掛けた時、、、オレは放置出来ねーだけだ!! 雫さんを助けられなかったから!」
カッ! と、眩い閃光が走る。
地上60階の展望台を全て埋め尽くす蒼い閃光。眩く光は覆う。
楓の左手から放たれたのは、蒼い炎の旋風だ。竜巻の様な炎が噴射の様に東雲に向かって放たれた。
ハッーーと、東雲は一瞬出遅れた。楓の言葉を聴いてしまっていたからだ。
だから、蒼炎の旋風が己を包むのを防ぐ為に、自身の力。“武装と防護”。それを発動するのが、遅れたのだ。
それでも、永年……
「“破門”!」
黒い鬼火が身体を覆う。
楓の蒼い鬼火の旋風が突っ込んでくるのを、彼の身体の前に黒い鬼火の防護壁は現れる。シャッターの様に、遮断した。
「オレは……もう二度と
楓は夜叉丸を振り下ろした。
蒼い炎がカマイタチの様に飛んでゆく。
黒い炎の防護壁は、カマイタチで斜めに切り裂かれる。
「ぐっ………!」
東雲の右肩から腰元まで、斜め一直線に炎の斬撃。更に、目の前にあった黒い炎のシャッターは、同様の切れ筋。壁が剥がれ落ちるかの様に裂けてしまったのだ。
東雲は右肩を抑えながら、床に膝をつく。
しゃがみこんだのだ。
はぁ……はぁ……と、荒く息をしながら、痛そうな顔をする東雲は、顔をあげた。
「お前のそーゆうのがイラつくんだよ。大人しく俺らに“護られ”、鬼の一族やってりゃー良かったんだ。それをお前が“鬼狩り”で人間を助けて、“月“の力で弱った所に………。」
東雲は、地面に落ちた修羅刀をつかんだ。
その柄をぐっ。と、握った。
「“螢火の皇子”に出会ったのが……、お前が狂った始まりだ。人間を憎めなくなったお前は……、もう“
(俺の知るお前は……消えた。)
東雲は、修羅刀を握り立ち上がった。
紅く染まる右肩が、じわり。と、黒き血に染まってゆく。
楓は、右手の着物の袖からボタッと垂れる“黒い血”に、目を瞠る。
(……“黒い血”……? まさか……!)
楓は
葉霧は、、、ずっと2人を見つめていたが、楓の視線に気がつくと、ただ静かに頷いた。
こくん。と、その首を縦に振ったのだ。
(……ウソだろ? なんで……。)
楓は、葉霧から目を離し目の前の東雲に視線を向けた。
東雲は、ゆっくりと立ち上がった。
ゆらりと、立ち上がり身体を黒い炎は覆う。
修羅刀と言う兄弟刀を握りしめ、楓を睨みつけた。
「昔の“参謀”として忠告しといてやる。お前のその“人間”に対する変な“情”。それはお前を滅ぼす。一族が滅びたのもお前のせいだ。お前が“人間に構い封印”された事で、鬼は目の敵にされた。」
東雲の全身からはゆらゆらと湯気の様に黒い炎が立ち昇る。
表情も変化はないが、ただ蒼い眼は不気味に光る。
「お前を庇っていた“最強の退魔師、
東雲の身体を覆う黒い炎は、更に天井に届きそうになっていた。
燃え盛る炎は彼の身体の2倍にまでなったのだ。
「わかるか? “鬼狩り”は拡まった。それまで“お前”と言う存在を利用していた人間も、時代の流れでその地位が危うくなった。自分を護る事で精一杯。廃れていく時代。変化、世代交代。お前と“螢火の皇子”が目指した鬼と人間の共存は、消えた。」
楓は目を見開いていた。
「誰も……“鬼一族”を認めなくなった。そこに“
東雲は声も表情も姿も変わらなかった。
だが、彼を纏う黒い炎は大きくなるばかりだ。
豪炎が彼を覆っていたのだ。
「鬼は元来……“ヒト喰い”だ。人間を喰らう者。わかるか? 成長していく人間社会にとって“減退させる脅威の存在”。殺すだろ? それは。」
東雲がそう言った時だった。
彼の身体は黒炎を纏っていた。だが、今までは何ら青年体型だった。
だが、その身体が大きく変貌したのだ。
「東雲っ!!」
楓は叫んだが、彼の肉体は巨大化したのだ。それも、もう美しい青年の姿を凌駕した。
巨大な黒炎に覆われた鬼ーー。
それが、目の前に現れたのだ。
それでも、彼の持つ妖刀修羅刀は健在。不思議なことに、その巨大化に同じ様に進化した。
巨刀となり、人間と異なる鬼の姿をした東雲の右手に握られていた。
「だから殺してやる側になった。駆除されるべきはどちらか?」
先程までの……美しい青年の声ではない。
低く獣の様な声だ。
ライオンが吠える様なその声で、変貌してしまった黒炎を覆う巨大な鬼は、笑った。
鋭い牙がにたりと笑う大きな唇から生えていた。
「人間を喰らうのは“鬼”だ。あやかしじゃない。人間でもない。俺達が唯一、人間を“支配出来る存在”だ。」
東雲は、そう言うと床を蹴り飛びだした。
大きな右足は、今まで履いていた靴すら突き破ってしまった。
「東雲……なんで? なんでお前が“闇喰い”にやられてんだ?」
楓は突っ込んでくる東雲に、ただそうつぶやいた。
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