第3夜 灯馬たちの戦い
ーー地上35階。
“
“ルシエルタワー”
美しい夜景を眺められるはずの、展望室。
このタワーの周りだけ空は黒い雲に覆われている。
まるで、夜のように。
そのせいなのか、ここから見下ろせるはずの都心の景色は、見えない。
まるでこのタワーの周辺が、暗闇に包まれてしまっているかの様だ。
「灯馬。あの“槍”には気をつけて。あの槍は、“妖気”がみなぎってる。たぶん……“槍自体”が、強い。」
この睨み合い。
そんな状況にいる灯馬たち。
既に、三体のうち一体は、“仲良しメンバー”の見事な連携プレーで、倒した。
銀色のタイルの上には、頭が蛇のコウモリの姿をした新種と呼ばれるあやかしが、一体。
地面に朽ちている。
そして、残るは二体。
灯馬と水月。水竜の前にいる“牛の獣人”のあやかし。
秋人と夕羅が戦う“炎を吐く怪鳥”。
その二体が、ここにいるのだ。
その中で、水竜が声をあげたのだった。
エメラルドグリーンの身体は、宝石さながらの煌めきを放つ。この暗闇のなかで、その身体はまるで照明だ。
水竜が一層眩く見える。
「あ? どーゆうことだ?」
ブロンド頭のイケメンくんは、そう聞いた。
グレーの眼が、なんとも“反抗期”の少年の様だ。
ちょっと“状況に興奮気味”な口調。
「さっき。あの“霊力使い”の綺麗な人」
と、エメラルドグリーンのキツめな顔をしている竜が、そう言った。
「ん? あ? タイプか?」
と、灯馬の顔は一気に“にやけた”
「僕は“水月推し”」
真面目に答える水竜。
隣の水月は何とも言えない顔をしている。
「あーそう。」
ふんっ。
と、灯馬は直ぐに“不貞腐れた顔”になる。
どうやら“嫉妬”は、人間とか関係ないらしい。
彼は葉霧並みに独占欲が強いのだろうか。
「あの槍は、“妖気”でコーティングされてるから、ちょっと刺されただけでも“ダメージ”強い。それに“力”を、放てるんだね。 灯馬や秋人みたいに、“拳に炎や土”の力を込めるのと一緒だ。殺傷能力が高いんだ。」
と、水竜はエメラルドグリーンのヒゲを、揺らしながらそう言った。
「ん? あ? それはアレか? 当たったらやべーぞ。的なことか?」
灯馬はちらっと後ろを見るとそう聞いた。
水竜はふう。と、ため息つく。
「君に教えてもそんな感じだから、なんかいつも無駄な気がする」
シャープな狐顔をした水竜は、そうぼやく。
「あ? 悪かったな。」
どうやら“火と水”だから相性が悪いらしい。
それだけじゃない気もするが。
「とりあえず“倒せばいい”んだ。水月。サポート頼む。」
灯馬は目の前の牛の獣人を見据えた。
だが、そう言った顔はどことなく笑っていた。
(嵐蔵から貰った“力”だ。それで、俺に何が出来るのか。俺は、それを知りたい。アイツらの為に……“俺は何が出来るのか”。後戻りは出来ねぇんだ。突き進むまで。)
灯馬は目をとじた。
ふぅ。
息を吐く。
(思えば……幼稚園。葉霧はいつも“絵を描いてた”。一人で、何だかわかんねー絵を。でも、その時の顔が“妙に大人っぽかった”。 寂しいとか悲しいとか辛いとか、そーゆうの聞いたことねー。昔っからそうなんだ。コッチはいつも丸裸なのに。)
灯馬は目を開けた。
目の前の“牛の獣人”を真っ直ぐと見つめる。
そのグレーの瞳が煌めいていた。
「やっと……“人間”らしく、護りてーもんが出来たんだ。今の葉霧は、俺にしたら“丸裸”だ。そんなアイツを俺は……“なんとかしてやりてー”。アイツがやっと“俺に本音”見せてんだからな!」
灯馬はそう言いながら、右手から紅炎の放射を放った。
黒い身体をした牛の頭を持った獣人は、その火炎放射に対し、地面に槍をまるで突き刺す様に振り下ろした。
槍から放たれるのは、黒い波動だ。
それはまるで竜巻だった。
あやかしの身体を包むように覆ったのだ。
火炎放射がその竜巻に当たると、バチ……バチ……と、まるで激しい火花を散らす。
竜巻と火炎放射が競り合う。
「あれは何? 水竜。」
水月はそのせいで巻き起こる風に、煽られながら閃光放つその状態を見つめていた。
水竜に聞いたのだ。
「ガードだよ。解りやすく言うと“防護壁”」
水竜がそう言うと、火炎放射は消えそうになっていた。
灯馬はそれを見ると、追い撃ち。
紅炎の弾丸を放ったのだ。
「これも防いでみろ!」
と、そう怒鳴りながらの追い撃ちだ。
ゴッ!!
竜巻と紅炎の弾丸は直撃した。
「きゃっ!」
凄まじい風が吹き荒れる。
同時に閃光。
非常灯しかついていないこの空間が、一気に明るくなる。それは、昼間の太陽の光の様だ。
火炎放射が消え、紅炎の弾丸が当たり、竜巻が薄れてゆく。
「やったか」
灯馬は風が和らぎ光すらも消える中で、目を凝らす。
竜巻が消えた後で、あやかしはそこに立っていた。
槍を、どんっ!と、地面に打ち付ける。
矛先の反対側を。
「無傷かよ」
灯馬は全くと言って、あやかしの鎧に傷が無い事を知ると、少しだけ悔しそうな顔をした。
あやかしは長い三叉の槍を構え向ける。
「その程度で勝てると思うか? 人間。」
あやかしの言葉が、溢れた。
低い声だ。どちらかと言うとしわがれている。
「あ? 喋んのかよ?」
灯馬はちょっと驚いた様な顔をした。
「人語は……好きでは無い。だが、喋れる。」
長い三叉の槍を向け、真っ黒な牛の頭。
そこに光る黒い眼。
不気味な声。
「そーかよ。だったら聞きてーな。街の人たちはどこだ?」
と、灯馬はそう聞いた。
「知らん。ワレは“斑目”にここに、連れて来られただけだ。」
あやかしの声が、展望室に響く。
「あの黒い空間の中にいたの? それともあれは……“何処かとつながってる”の?」
聞いたのは水月だ。
「闇の空間だ。引き寄せられる。斑目の力だ。」
あやかしは槍を向けながら、そう言った。
「引き寄せられる? よくわかんねーな。」
「闇を呼ぶ者。奴は、闇を創り出し闇を呼ぶ。さらに、闇を操る“術者”だ。」
あやかしはそう言うと、槍の矛先に黒い光を集め始めていた。
それは、まるで電流の様に流れ、光の弾を創り出したのだ。
「闇を操る術者……」
水月はそう呟いた。
灯馬は右手を向けた。
紅炎を纏った右手だ。
「闇だの、闇喰いだのワケわかんねーな。ちょっとはシンプルに纏めらんねーのかよ。」
と、そう言ったのだ。
「人間は“エサ”。それだけだ。」
と、あやかしはそう笑う。
薄く笑った。
「それはハナシがぶっ飛びすぎだ!」
灯馬は紅炎の弾丸を放った。
あやかしは、槍の矛先から黒い光の円球を放つ。
互いの弾が直撃する。
破裂。
お互いの力がぶつかると破裂した。
灯馬は炎を纏った右手に握り、駆け出した。
自分よりも遥かに大きな牛の頭を持つあやかしに。
三叉の槍を振り上げる。
(紅炎の攻撃じゃ防がれる。それならここは接近戦に持ち込むしかねぇな。)
灯馬の拳は、紅炎の拳。
繰り出される拳は、炎の攻撃になる。
あやかしは、向かってくる灯馬に対し、槍を振り下ろす。
まるで、斬りつけるかのように。
灯馬は左手にも紅炎を纏う。
炎に包まれたその左手で、槍を防ぐ。
受け止めたのだ。
左手で。
「むぅ。」
あやかしは、大きな槍の攻撃を物ともしない灯馬に、苦い顔をした。
灯馬はそこから右手の炎の拳で、あやかしの鎧をつけた身体に、拳打の嵐を撃ち込んだ。
拳の連打は、間近で炎の攻撃を食らっているのと同じだ。
「ぐっ……」
あやかしの口から苦しそうな声が、溢れる。
と、同時に灯馬に防がれていた槍が退いた。
身体を屈め槍から手を放すあやかしに、灯馬はそのスキを逃さなかった。
あやかしの顎に、アッパーをぶつけたのだ。
炎の拳はあやかしの顎を砕き、破壊した。
「ぐあっ!!」
呻き声をあげながら、後ろに倒れ込むあやかしに、灯馬は更に紅炎の弾丸を放った。
槍を手放したあやかしに、その炎の弾を防ぐ術はなかった。身体を焼かれるほどの紅炎を、まともに食らったのだ。
灯馬の目の前であやかしは、紅炎に包まれる。
「水月!」
灯馬がそう叫ぶ。
あやかしから離れた。
「水竜!」
水月はそう声をあげた。
水竜は口元に水色の光を溜める。
それは大きな波動砲を放つ為のものだ。
口を開きそこから波動砲を放つ。
あやかしは波動砲で、粉砕する。
悲鳴にも近いその呻き声をあげながら、水竜の凄まじい波動砲で、あやかしの身体は撃ち砕かれた。
展望室に眩しい程の光が、覆う。
「今度はやったな。」
灯馬は波動砲によって粉砕されたあやかしを前に、少しだけ嬉しそうな顔をした。
(何とかなりそうだ。葉霧。これなら……一緒に戦っていけるな。これからも。)
未知の世界。
力の使い方も手探り。
それでも、場数を熟し自分のものにしていく。
手応えを感じていた灯馬だった。
「灯馬。大丈夫?」
水月は戻ってきた灯馬に、声をかける。
心配そうな水月の瞳が、灯馬を映す。
「ああ。大丈夫だ。」
灯馬は水月と水竜に笑いかけた。
展望室では、もう一体。
黒い怪鳥と秋人と夕羅の戦いが、繰り広げられていた。
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