第20話:痛い!



「いだッ! いだだだたたたッ! やめっ! すまな・・・・・・ッ! 痛い! ライツっ!」

 あまりの痛みにレディルが悲鳴を上げた。

 レディルの頭をライツの拳が左右に挟みグリグリと押しつけている。


 つい先程までレディルは、リオルートが用意したこの部屋で大人しく一人待機していた。

 そこに突然扉が乱暴に開かれ、レディルはビクッ! と驚き、見るとそこには無表情のライツが立っていた。

(ひッ!)

「ラッ・・・・・・ライツ」

 慌てて立ち上がったレディルの元へスタスタと入室してきたライツは、無言のまま近づいてきて・・・・・・今の状態である。


「痛い! 痛ッ! ライッ!」

 しばらくして気が済んだのか、ライツが拳を離すとレディルは崩れ落ちるようにソファへと倒れ込んだ。

「っう~。・・・・・・おまえ、仮にも・・・・・・王太子に対して・・・・・・」

 それを無視してライツは一人掛けのソファに座ると「レディル」と声をかける。

「俺は昔からずっと、おまえを次期国王にするために動いてきた」

 レディルが顔を上げてライツを見る。

「だが、これから先も同じと思うな」

「・・・・・・それは、召還された救世主のせいか」

「おまえ、何も考えてなかっただろう? 救世主を召還するということは、自分の立場を揺るがすことになるだろうことを。・・・・・・どうせルーシェに言われて気づいたんじゃあないのか?」

「・・・・・・・・・・・・」

 その通りだったので返す言葉がない。

『レディル様! あなたはその覚悟があって救世主様を召還されたのですか!?』

 ルーシェに言われた声が再びレディルを責める。

「・・・・・・あの少女は、この国の王になることを望んでいるのか?」

 レディルのその問いに、ライツは一瞬思考が止まった。

(何を言っているんだこいつは)

「・・・・・・それを彼女が望むなら、俺は彼女の望むようにするだろう。だが、おそらくマナはそんなことに興味は無い」

「そんなこと・・・・・・。だが、先程おまえはもう俺のためには動かないと言ったではないか!」

 レディルはそう叫んで悔しげに唇を噛んだ。

 ライツが溜め息を吐く。

「レディル。おまえは本当に反省しているのか? ここには何をしに来た? マナはこの国のために頑張ってくれているというのに・・・・・・」

「すっ! ・・・・・・すまない」

 怒気をはらんだライツのそれに、レディルは体勢を正して頭を下げた。

「それに、理解してなかったようだな。俺は彼女に暴言を吐いたおまえとマナを会わせるつもりはなかったんだが?」

「ル、ルーシェに、一刻も早く誠心誠意、頭を下げて謝罪してこいと言われて・・・・・・。それに、王家と救世主とが仲違いした状態のままではまずいと。このままでは王家はライツ、おまえやルザハーツ家とも距離を置くことになる。・・・・・・父上もそのことをすごく気にしている様子だった」

「・・・・・・召還された救世主については、俺なりの考えがあった。まずは兄に相談した上で陛下に連絡を取ろうと思っていたんだ。だが、まさかこんな早くにおまえと神官長が、このルザハーツ城まで来るとはな」

「考え?」

 ライツは立ち上がると「二人で話す内容じゃない。移動するぞ」と言ってレディルを促す。

 そして部屋を出る前に言い忘れたことがあったとばかりにライツは振り返った。

「言っておくが、謝罪がしたいからといってマナに勝手に会おうとするな。おまえと会うか会わないかは、彼女に決めてもらう」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ごめんなさい。俺の運命の恋人が超絶お怒りです。2 しーぼっくす。 @shibox

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ