第10話:もしかして、からかっていませんか?
到着した馬車から降りた愛那が周囲を確認して首を傾げる。
(え? こんな見渡しのいい緑色の草に覆われた場所に魔物が?)
「マナ様。ここに彼等と馬車と馬を待機させ、私達は目的地まで歩きます」
そうナチェルに言われ、この草原に魔物が現れる想像が出来なかった愛那が(なるほど)と頷いた。
ナチェルの言う彼等というのは馬車の御者二名と六名の従者達。
馬を従者に任せたライツとハリアスとモランが、愛那とナチェルの方へ歩いてくる。
魔物討伐はこの五人で行くことになっている。
「マナ」
正面に立ったライツが愛那の両肩に手を置いて、顔を近づけ言い聞かせるように話し出す。
「ここから先は俺の傍から離れたらダメだ。魔物が出てきても指示するまでは何もしないこと。・・・・・・わかった?」
「・・・・・・はい」
どうにか答えて歯をぐっと噛みしめる。
(ライツ様! お願いだからもうちょっと離れて下さい! ときめくから! 心臓がもたないから!)
二人きりならともかく、周囲の目がある場所で取り乱したくない。
そんな平常心を装う愛那を見つめるライツの表情がフッと緩んで口元が楽しげに笑んだ。
「・・・・・・ライツ様?」
愛那が疑いの眼差しを向ける。
「もしかして、からかっていませんか?」
ドキドキしているのに気づいていて面白がっている?
「からかう?」
ライツが思いがけないことを訊かれたとばかりに首を傾げた。
(あれ、違った?)
見つめる愛那の眼差しにライツが照れくさそうに笑う。
「ダメだな俺は。マナが傍にいるだけで幸せでどうしても口が緩んでしまう。今から魔物討伐だというのに・・・・・・。すまない。気を引き締めるよ」
(ちょっと待ってください! 顔が! 顔が熱い!! 誰か! 誰か助けて!)
愛那が周囲に視線をやるが、おかしなことに誰とも目が合わない。
残念ながらここにいる面々は、この数日で甘い空気を振りまくライツに慣れつつあり、優秀な彼等は、こういう時にそっとその場の空気になる術を身につけていた。
「じゃあマナ、行こうか。疲れたら言ってくれ。無理しなくても俺が抱いて運んであげるから」
「体力には自信があるので大丈夫です!!」
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