第21話 金のおの 銀のおの


 ずっと昔、ある国の山間の村に、木こりの青年が住んでおりました。

 林業は盛んとはいえず、村は比較的に貧しい環境でしたが、青年はいつも真面目に、一生懸命に仕事をしておりました。

 両親を早くに亡くした青年は独り暮らしで、金髪碧眼高身長なイケメンの細マッチョです。

 貧しくとも、心正しく優しい青年でした。

 今日も、朝早くから森へと入った青年が、樹の大きさだけでなく、森林の日光の具合や大樹同士の間隔など、科学的な見地から伐採する樹を選定します。

「うむ、この大きな樹は随分と年を重ねているし、今年はほとんど実も生らなかったし、鳥や動物の巣も無いな。伐採すれば森の地面にも広く陽が当たって、若い樹が育つぞ」

 そう見極めると、使い慣れた鉄の斧で、大樹を切り始めました。

 静かな森に、コーン…コーンと、大きな音が鳴り響きます。

「ふう…もう少しだ」

 やがて、大きな樹がメキメキと音を立てて、根元から倒れ始めました。

「たーおれーるぞー!」

 誰もいない森の中ですが、真面目な青年は誰も怪我をしないように、大きな声で警告をします。

 大樹がズシンと倒れると、森の地面などに、暖かい陽が照らされました。

「これでよし…ん?」

 隣にもう一本の大きな樹があり、この樹も、森の地面に大きな影を落としている事に、気が付きました。

「こっちの樹も、切る事にしようか」

 そう決定をすると、もう一仕事と、汗が光る鍛えられた肉体を躍動させる青年です。

 コーン…コーン。

 一生懸命に仕事をしていると、汗で手が滑って、斧を手放してしまいました。

「ああ、しまった!」

 手から滑った斧は、近くの湖にボチャンと落ちて、あっという間に沈んで行ってしまいます。

「ああ、なんという事だ…。父から譲り受けた、たった一つの大切な斧が…!」

 清んだ水が湧き、陽光をキラキラと反射させる美しい湖とは真逆に、青年の心はみるみるうちに、深い哀しみへと沈んで行きました。

「ああ、大切な斧が…。いったいこれから、どうやって生活をしてゆけばいいのだろう」

 湖のほとりで悲しんでいると、静かな湖面がパァ…と明るく、温かみに輝きだします。

「み、湖が、眩しく輝いて…これはいったい!?」

 驚く青年の目の前に、なんと、光り輝く神秘的な少女が現れました。

 緩いウェーブのセミロングな金髪を風にそよがせ、美しく神々しくも幼い面立ちの、裸の幼女の姿をした、女神様です。

 背後からの光が金色に輝く全裸幼女に、青年は畏怖と感動で震えます。

「あなたは…湖の女神様…!」

 全裸少女は静かに目を開けると、金髪男性に、優しく言葉をかけました。

「あの二本の大樹を伐採してくれて、ご苦労様でした。おかげで、私の湖に陽があたるようになり、大変助かりました」

「も、勿体ないお言葉…!」

 全裸の幼女様の温かい言葉に、青年は膝をついて、敬服します。

「ところで、私の頭の上に、斧が落ちてきました」

 言われて見ると、女神様の頭には、大きなタンコブが出来ております。

「あわわ…わ、わたしが手を滑らせて、斧を落としたばっかりに…! なんとお詫びをしてよいのやら!」

 膝をついて謝罪をする金髪青年に、幼女神様は、優しく問いました。

 右手に軽々と、大きな斧を掲げ。

「あなたが落としたのは、この黄金の斧ですか?」

 生まれて初めて見た、光輝く芸術品の如くな十八金の斧に、青年は恐れ入りながら、正直に答えました。

「いいえ、わたしの斧は、そのような素晴らしい斧ではございません」

 引き続き、女神様は左手で軽々と、別なる大きな斧を掲げます。

「それでは、この銀の斧ですか?」

 やはり芸術的な造形を魅せる純銀製の輝く斧に、青年はまた恐れ入りながら、正直に答えました。

「いいえ、わたしの斧は、そのような素晴らしい斧ではございません。わたしの斧は、亡き父から譲り受けた、良く言えば年季の入った、正直に言えば使用感バリバリな、鉄の斧でございます」

 嘘を吐かない青年に、幼い全裸女神様は、ニッコリと神々しく微笑みます。

「あなたは正直な方ですね。ご褒美と、大樹を伐採してくれたお礼に、あなたの斧をお返しして、この黄金の斧と銀の斧も差し上げましょう。家に飾って人々から拝観料を戴けば、生活の足しにもなりましょう」

 そういって、三本の斧を青年の前にソっと下すと、全裸の女神様は湖の中へと戻って行きました。

「な、なんと有り難い…!」


 喜び涙し、女神様へ感謝の祈りを捧げる青年の様子を、別の青年が、樹の影から目撃しておりました。

「そうか。あの湖に斧を落とせば、あんなに素晴らしい斧が貰えるんだな。普段は面倒くさくて樹なんか切らないけど、たまたま森に入って、いいこと知ったぞ。俺は運がいい。ヒッヒッヒ」

 チビ禿デブの三重苦のうえ、一人暮らしで貧しく性格も歪んだその青年は、悪い顔で一計を案じます。


 翌日、三重苦の青年が美しい湖へとやって来て、古くて汚くてサビも浮いた斧を、わざと投げ入れました。

 しばらくすると、湖面が神々しく輝いて、全裸の幼女神様が現れました。

 女神様は、大きく見事な造形の黄金の斧を、軽々と右手に掲げております。

「あなたが落とした斧は、この黄金の斧ですか?」

 三重苦の青年は、しめたとばかりに答えました。

「はい。でもその斧だけじゃなく、あと銀の斧も、落としました」

 青年の嘘を聞いた全裸女神様は、幼い美顔を無感情に冷めさせます。

「あなたは嘘つきです」

 そう一言だけ言い残すと、そのまま湖の中へと帰ってしまいました。

「え…えええっ!?」

 欲にかられて嘘で相手を騙そうとした青年は、唯一の仕事道具であった斧を失って、途方に暮れてしまいましたとさ。


                         ~終わり~

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