第22話 風の神様と子供たち


 昔々の、ある秋の事です。

 とある山間の村では、いつまでも涼しくならず、実りが貧しくて困っておりました。

 子供たちはいつもお腹を空かせていて、山で遊びながら、小さな木の実などをむしって食べて、過ごしておりました。

「お腹がすいたなあ」

「今年はいつまでも、暑いんだもの」

 山の木の実も少なくなってきて、子供たちも元気がなくなってきた頃、一人の少女が空から降りてきました。

 女の子は、足下に雲を纏っている以外は、裸の姿をしております。

 真っ赤な髪を炎のように立ち上がらせた少女は、元気のない子供たちに問いました。

「子供たち、どうしてそんなに 元気がないのですか?」

 子供たちは答えます。

「お腹が空いて、元気が出ないんだ」

 赤髪の少女は、言いました。

「それなら、私が良いところに連れて行ってあげましょう。そこには、柿や栗や桃がたわわに実っています。いくら食べても良いのです」

 子供たちは涎を垂らして、答えました。

「「「本当に? それだったら連れてって」」」

「わかりました」

 裸の少女が答えると、足下の雲がするすると伸びて、子供たちに乗るよう促します。

「それでは、行きましょう」

 赤髪少女が手を振ると、雲はぐんぐんと舞い上がり、あっという間に風の高さまで飛び上がりました。

 初めて見る、山よりも高い景色に、子供たちは空腹も忘れて大はしゃぎです。

「わあ、あっという間に 空の上だ」

「村があんなに 小さく見えるわ」

 トビよりもタカよりも高い空の上を、少女の雲はすいすいと飛んで、村から遠く離れた山へと、到着しました。

 赤髪少女の言う通り、豊かな森の大きな木々には、柿や栗や桃や、もっと色々な果実が沢山なっています。

「さあ子供たち。ここの木の実をお腹いっばい、食べて良いのですよ。お父さんやお母さんに、お土産として持って帰っても良いのですよ」

「「「わあい」」」 

 子供たちは大喜びで、新鮮な果物をお腹いっぱいになるまで食べて、お父さんやお母さんのお土産に、沢山の果実を集めました。

「ところで子供たち。あなたたちの村はどうして、食べ物も無くなるほど貧しいの? あの村の土壌は豊かに設定してあるはずなのに」

 何やら神がかった話で、子供たちには全く理解が出来ませんが、裸の少女の質問には、答えられます。

「いつまでも夏のように暑くて、稲も木の実も刈り入れできるほどに育たなくて、収穫できないんだ」

「涼しくならないから、田んぼも畑も疲れちゃっているの」

 そう言われて、裸の少女は、ハっとしました。

「ああ、そうだったわ。私ったら、また失敗しちゃった」

 何かを思い出すと、赤毛の少女は空高くへと、雲を飛ばします。

「早く南の方に行かないと いけなかったのに。このままだと、南の方の人たちも寒くて大変だわ」

 赤髪の全裸少女は、なんと南風の神様だったのです。

 南風の神様は慌てん坊らしく、もっと早くに、南の方へと行かなければならなかったのでした。

「子供たち、ごめんなさいね。山の奥に私のお母さんがいるから、帰る時は山小屋に寄ってね」

 そう言い残すと、裸の少女神は、曇に乗って遠くの南の空へと、消えて行きました。

 取り残された子供たちは、心細くなり、不安になってしまいます。

「神様、行っちゃったよ」

「どうしよう」

 泣きだす子供もいる中で、一番年上の子供が言います。

「山奥に、神様のお母さんがいるって言ってたぞ。山小屋を探そう」

 広い山の中を、子供たちは方向も解らず、歩き回りました。

 やがて、日も暮れて星が見え始めた頃、くたくたに疲れながら、子供たちは明かりの漏れる山小屋を見つけました。

「あそこかな」

「山姥じゃ ないわよね」

 子供たちは、恐る恐る小屋の戸を叩きます。

「ごめんください。神様のお母さん」

 しばらく待つと、戸が開けられて、美しい大人の女性が姿を見せました。

「あら、人間の子供たち」

 大人の女性は、長いさらさらの黒髪も豊かで、巨乳に括れに巨尻で、全裸の姿でした。

 南風の神様のお母さんで、間違いはなさそうです。

「こんな山奥で、どうしたのですか?」

 優しい声に、安心して泣きだす子供もいなしたが、年上の子供が事情を説明しました。

 南風の神様のお母さんは、驚いて、子供たちを抱きしめます。

「まあ、南風ったら、しようのない子。ごめんなさいね。みんなはちゃんと、村まで送ってあげますからね」

 そう言って、南風の神様のお母さんは、子供たちを小屋へと招き入れて、囲炉裏で休ませてくれました。

「もう少し待っていると、北風が帰ってきますからね。そうすれば、すぐに北風が送ってくれますよ」

 子供たちがホっとしていると、小屋の戸が開けられて、青いショートカットの全裸少女が帰ってきました。

 間違いなく、北風の神様のようです。

「ただいま、お母様。おや、人間の子供たちがいるね」

 風の神様たちのお母さんは、北風に事情を説明してくれました。

「まったく、南風は呑気だなあ。子供たち、もう大丈夫だよ。ちょうど私も、あなたたちの村に 秋の風を吹かせに行く頃だから。さ、送ってあげるよ」

 そういうと、小屋の前で足下の雲をするすると伸ばし、子供たちを乗せます。

「それじゃあ みんな、出発するよ」

「気を付けて 送っておやりよ」

 全裸な母神様に見送られて、子供たちは北風の雲で、すいすいと空を進みます。

 そして満月が輝く頃、子供たちは村へと戻ってきました。

「おうい、子供たちがいたぞう!」

「お前たち、どこに行ってたんだ。心配かけて!」

 子供たちは、これまでの出来事を、大人たちに話します。

「風の神様?」

 最初は信じられない様子の大人たちでしたが、子供たちが抱える果実を見て、なるほどと思いました。

「そういえば、長老様がそんな話を、よくしてたっけ」

「ふむ。まあ 子供たちも無事だったし、もうすぐ実りの秋が来るんだなあ」

 村の空では、秋の風の神様が、楽しそうに飛び回っております。

 しかしその姿は、子供たちにしか見えなかったそうです。


                         ~終わり~

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