第19話 ネズミの恩返し

 ある昼下がりの草原で、一頭のライオンが、昼寝をしておりました。

 ライオンは、ライオン帽子とライオン手袋、ライオン長靴とライオン尻尾だけを身に着けた、グラマーなヌード女性の姿をしております。

 ライオン帽子が、たてがみふっさふさなのは、ご愛敬。

 いつものように、お腹を上に向けてノンビリしていると、何か小さな生き物が、お腹の上に乗ってきました。

「なんだ? なんだかお腹がくすぐったいぞ」

 探って、掴んでみると、一匹のネズミです。

 ネズミは、ネズミ帽子とネズミ手袋、ネズミ長靴とネズミ尻尾だけを身に着けた、裸の少女の姿でした。

「なんだ、ネズミね」

 ライオンは、お腹の足しにもならないけれど、習慣的に食べてしまおうと、大きな口を開けます。

「ライオンさん、起こしてしまってすみません。どうか、助けてください」

 ネズミは怯えながら、命乞いをします。

「お腹の上が 暖かくて柔らかそうで、つい乗ってしまいました。助けていただければ、いつかきっと 恩返しをいたします」

「恩返しって言ったって、あなたみたいな小さな動物に、どんな恩返しができるっていうの?」

 と、問うてはみたものの、ネズミの恩返しなんて想像もつかないし、特にお腹がすいているわけでもないので、ライオンはネズミを手放しました。

「ああ、ありがとうございます、ライオンさん。この御恩は一生 忘れません。約束通り、いつか必ず この御恩はお返しいたします」

「もういいから、あっちへ行って。お昼寝の邪魔、しないでね」

 ライオンが適当にあしらうと、去り行くネズミは振り返って頭を下げて、走って草むらへと消えて行きました。

「ふわわ…むにゃむにゃ」

 ライオンは、お昼寝の続きです。


 日が暮れて、ライオンは水を飲みに、水場へとやってきました。

 四つん這いになって、裸のお尻を突き出して、水を飲みます。

 「ごくごく…おいしいな–わああっ!?」

 寝ぼけていたせいもあって、ライオンは、人間が仕掛けた罠に、後ろ脚が引っかかってしまいました。

「た、大変だ–あわわ!」

 大木から吊るされたロープに脚を捕られ、どう藻掻いても、逃げられません。

 しばらくすると、罠を仕掛けた二人の人間が、車でやってきました。

 裸のライオンレディが、大木の枝から、逆さに吊られております。

「おお、シマウマでも捕れればと思っていたが、なんと、見事なライオンが掛かったものだ。これは はく製にするか、毛皮にするか。どちらにしても、最高の一品となるだろう!」

 しかし、二人だけでは、大きなライオンを引き下ろす事も出来ません。

「困ったな。うむ、どうせ逃げられやしないし、戻って 人数を連れてこよう」

 そういって、人間たちは車で戻ってゆきました。

「ああ、こんな罠に嵌ってしまうなんて…。私は。毛皮か はく製にされてしまう運命なのか…うう」

 嘆いていると、木の上から、小さな声が聞こえました。

「ライオンさん、ライオンさん」

「おや? どこかで聞いたことのある声が聞こえる」

 枝を見上げると、さっき助けたネズミがおりました。

「ライオンさん。助けて戴いたお礼に、いま お助けいたしますね!」

 そういうと、ネズミは太いロープをガリガリとかじり、アっという間にかみ切ってしまいます。

 罠から解放されたライオンは、空中回転で綺麗に着地。

 枝の上から降りてくるネズミを背中に乗せると、一目散で逃げました。


 高い草むらで、裸のネズミ娘と、裸のライオンレディが、身を潜めます。

「いやあ、ネズミさん、助けてくれて ありがとう」

「恩返しです。私のような小さな動物でも、お役に立てたでしょう?」

「まったくですね」

「「あはははは」」

 こうして、ライオンとネズミは友達になりました。

 小さなネズミでも、大きくて強いライオンを助ける事ができるのです。


                      ~終わり~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る