第13話 くつやの裸こびと

 ある街に、靴屋を営む老夫婦がおりました。

 お爺さんは腕の良い靴職人でしたが、良くも悪くも職人気質で、作る靴は最上品でしたが最近は流行から外れていて、作っても売れません。

 そのせいもあってか、このごろは昔のように靴作りも捗らず、雨などの暗い日では一日に一足を作り上げるのが、精いっぱいでした。

 二人の生活はすっかり貧しくなってしまい、残っている靴用の革も、あと一足分しかありません。

「これが、最後の靴作りになるのか」

 そう思うと残念でなりませんが、せめて精いっぱいに良い靴を作ろうと、お爺さんは決意します。

 しかしその日は夜まで天気が悪くて、ランプを灯しても手元は暗く、仕事になりません。

 お爺さんは、丁寧に革を切り出したところで作業を終えると、お婆さんと夕食を戴きました。

 そして翌日、お爺さんが工房に入ると。

「お、おうい、お婆さん」

 お爺さんは、驚きました。

 切り出した革を並べておいたはずの机の上には、綺麗な一足の紳士靴が、並べて置かれておりました。

 その革靴は、縫製も美しくデザインも流行を取り入れており、隅々まで隙も無く綺麗に磨き上げられた、最上の靴です。

 靴作りで生きて来たお爺さんが見ても、その素晴らしい出来栄えに、思わず息を呑む程でした。

「まあ、お爺さん これはいったい」

「ううむ、お婆さんも 知らないのかい」

 一体、だれが靴を作ったのでしょう。

 そしてその靴は、店頭に並べたすぐ後に、街の高名な紳士が、驚くような良い値段で買ってゆきました。

 二人はとても喜んで、街で食材を買って、お爺さんは靴用の革を二足分、新たに買います。

 帰ってから、工房で丁寧に切り出すと、また机の上に並べて、その日は工房のドアを閉じました。

 そして翌日、工房の机の上には、婦人用の綺麗な靴と、オシャレな紳士用の靴が、並べてありました。

 その靴を店頭に並べると、またすぐに、素晴らしい値段で買われてゆきます。

 お爺さんは、今度は四足分の革を買ってきて、丁寧に切り出し、工房の机の上に並べておきます。

 すると翌朝、机の上には、子供用の靴と、シックな婦人靴と、労働者向けの頑丈な靴と、軽快でカジュアルな靴が、並べてありました。

 そしてやはり、全ての靴は午前中に売り切れて、街では、お爺さんの靴がそうとうに素晴らしいと、噂になる程でした。

 生活が改善されて嬉しい二人ですが、やはり、誰が靴を作ってくれているのか、どうしても気になります。

 なので、お爺さんは新たに買ってきた革を、丁寧に切り出して机の上に並べると、ドアの影からこっそり、工房を覗いてみる事にしました。

 お婆さんと二人で見張っていると、やがて柱時計がボーンボーンと、夜中の零時を告げます。

 すると、月明りに照らされた工房の机の上で、火の無いランプに明かりが灯り、五人の小人が現れました。

 小人たちは、掌に乗るほど小さくて、裸の少女の姿をしておりました。

「まあ、お爺さん」

「あれは 小人だ」

 小人たちは、楽しそうに革を手に取ると、歌いながら靴作りを始めます。

「仕事だ仕事だ 靴作り」

「わたしたちは 靴の妖精」

「働き者の お爺さん」

「良い靴作って ありがとう」

「綺麗な靴で うれしいな」

 妖精たちは、手早く丁寧に一足の靴を完成させると、丁寧にピカピカに磨いて、月明りの中へと帰って行きました。

 明かりが消えた工房では、月光に照らされた靴だけが、残されます。

 二人は、靴の妖精が二人を助けてくれていたのだと知って、嬉しくなりました。

「なんと驚いた事だろう」

 そして二人は、考えます。

「お爺さん、妖精さんたちは 裸でしたね」

「うむ。ワシはあの娘たちに 靴を作ってやろうと思う」

「では私は、可愛い服を 作ってあげましょう」

 お爺さんは妖精たちの為に小さな靴を五足作り、お婆さんは可愛い帽子と手袋をそれぞれ五つ縫いあげると、工房の机の上に、並べておきました。

 その夜、満月の光に乗って妖精たちが現れると、机の上の、小さな靴や帽子に、気が付きます。

 五人は嬉しそうに、帽子や手袋や靴を身に着けて、楽しそうにダンスを始めました。

「可愛い靴だ 嬉しいな」

「可愛い帽子だ 嬉しいな」

「働き者の お爺さん」

「縫い物上手な お婆さん」

「おしゃれな妖精 早変わり」

 五人の小人少女たちは、帽子と手袋とブーツだけな裸のまま、手を繋いでクルクルと輪を囲んで、歌い踊ります。

 二人のプレゼントに、大喜びでした。

 翌日から、職人魂に火が付いたお爺さんは、街でファッションチェックをして研究をし、流行の更に先を行く新しい靴を、次々と作り始めました。

 妖精たちも、お爺さんと競うようにおしゃれな靴を連発し、お爺さんのお店は大評判です。

 こうして、老夫婦と妖精たちは、いつまでも楽しく、靴を作って暮らしたのでした。


                         ~終わり~

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