第14話 ききみみずきん

 ある山麓の村に、信心深いお爺さんが住んでおりました。

 お爺さんは貧しかったのですが、村の鎮守の神様への御参りは、雨の日も雪の日も、一日たりとも、欠かした事がありません。

「神様、いつもワシらの村を護って頂き、ありがとうございます。お供えできる物が何も無くて、申し訳ありません」

 熱心に手を合わせるお爺さんの前に、なんと、神様が姿を現しました。

「お爺さん。あなたの信心深さには、とても感心させられました」

 神様は、頭や手足に飾りを着けて、しかし身体は裸な、少女の姿をしておりました。

「おお、神様。ありがたや」

 輝く幼女みたいな神様へと、お爺さんは更に頭を垂れて、両手を合わせます。

 神様は、言いました。

「お爺さん、あなたの信仰心を認め、この頭巾を授けましょう」

 神様が杖を振ると、お爺さんの手に、赤い頭巾が現れました。

「おお、なんと立派な頭巾じゃろう」

「その頭巾を被ると、鳥や獣たちの言葉が解るようになります。あなたが少女なら和製赤ずきんちゃんの爆誕 となったでしょうけれど、お爺さんなので翁(じじ)ずきんちゃん という事で」

 意味はよく分かりませんが、とにかくお爺さんは、神様からありがたい頭巾を戴いたのでした。


 山の御社からの帰り道、お爺さんは、赤い頭巾を被ってみます。

「神様から頂いた、有難い頭巾じゃ。動物たちの言葉が解ると 仰っていたが」

 被ってみると、頭巾を通して、動物たちの声が聞こえてきました。

「こんど、村の畑におイモを食べに行きましょう」

 キツネ娘たちが、相談しています。

 キツネは、キツネ耳にキツネグローブとキツネブーツ、キツネ尻尾だけを纏った、裸な少女の姿をしておりました。

「一つ越えた山寺の蔵に、たいそう綺麗な茶釜があるんだって」

 娘タヌキたちの会話も、聞こえてきます。

 タヌキは、タヌキ耳とタヌキグローブ、タヌキブーツとタヌキ尻尾を身に着けた、裸な少女の姿をしておりました。

「ほほお、これはなんとも、愉快な頭巾じゃ」

 枝の上から、鳥たちの会話が聞こえてきます。

「村の長者さんも、わからない人だわ」

「しかたないわ。人間に、私たちの言葉は 通じないもの」

 見上げると、スズメが三羽、会話を交わしておりました。

 スズメ娘たちは、スズメ帽子にスズメ羽根、スズメブーツにスズメ尾翼だけを身に纏った、裸な少女の姿をしておりました。

「娘さんの病気は、薬なんかいくら飲んでも治らないって、教えているのに」

「この間、庭に新しく建てた離れの天井裏に、ヘビが閉じ込められているのよ」

「あのヘビがSOSの念波を送っているのに、長者さんの禿頭で反射しちゃって、娘さんの身体に悪影響を及ぼしているのよね」

 スズメ娘たちの会話を聞いたお爺さんは、なるほど、と思い立ちます。

 お爺さんは、村の長者様の屋敷へと向かいました。

「ごめんください。ワシは占い師でございます。娘さんの病気を治すには、離れの屋根裏に閉じ込められたヘビを、山に逃がしてやる事です」

 禿頭の長者様は「ヘビが閉じ込められているなんて、そんなバカな」と思いましたが、娘の為ならと大工を呼んで、新築な離れの屋根を壊し、屋根裏を調べさせました。

 すると、お爺さんの言葉通り、ヘビが閉じ込められておりました。

 ヘビは、ヘビ帽子とヘビグローブと、両足が一体となったヘビ尻尾だけを身に着けた、裸な少女の姿をしておりました。

「助かりました。あのままでは飢え死にして、乾燥ヘビになって、漢方薬とかの材料になってしまうところでした」

 人間には伝わらないヘビ語でお礼を言いながら、少女ヘビは山へと帰ってゆきます。

 すると、娘の容態はみるみるうちに回復をして、すぐに元気になりました。

「占い師様、ありがとうございました」

 禿頭の長者様は、お礼にと、お爺さんに沢山の小判をくれました。

 お爺さんは、小判を村のみんなと分け合って、自分の分は神様にお供えしました。

 それからも、お爺さんは動物たちの話を聞いて、村の人々に尽くし、ずっとみんなに感謝されましたとさ。


                        ~終わり~

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