第45話「子どもたちへの助言」

 先生は窓枠から腰をあげ、手のひらに乗った白銀の小箱を差し出した。


「あなたたち、これに用があるんでしょう?」


「……どういうつもりだ?」


 先生の真意が読めない。俺たちを助けるような真似をして、怪盗赤ずきんに一体なんのメリットがある?


「教師が生徒のために力を貸すのはそんなに変なことかしら?」


 先生はおっとりと首をかしげる。


「私は怪盗赤ずきんでもあるけど、あなたたちの教師でもあるのよ。かわいい教え子が困っていたら、助けてあげたくもなるわ。自分の利害と一致してる分にはね」


「……そうっすか」


 警戒心むき出しの俺に先生は嫌な顔ひとつしない。

 俺は恐る恐る手を伸ばし『玉手箱』を受け取った。


「本当に『玉手箱』が開けた者を真の姿に戻すなら、その瞬間を見てみたいしね」


 それが本音か?


 俺はひんやりとした『玉手箱』を膝に乗せる。

 俺、エレナ、イオリ先生の六つの目が白銀の小箱に集まる。


「じゃあ……開けるぞ」


 エレナがごくりとつばを飲む。俺はゆっくりと蓋を押し開けた。


 落ち着いた、澄んだメロディーが流れ出す。


「…………」


 それだけだった。


「……あれ?」


 なにも起こらない。

 変な煙も出てこないし、魔人が現れるようなこともない。


 俺も女の子のまま。


「……ただのきれいなオルゴールじゃねぇか!」


 ジト目で先生を見る。先生は涼しい顔で「そうみたいね」と言った。


「ハズレみたいね」


「……偽物じゃないよな?」


「正真正銘の本物よ」


 つまり。

 国が大事に守っていた『玉手箱』は、ただの古いオルゴールだったってことだ。


 エレナがへなへなとソファに座ったままずり落ちる。


「なによもう、期待させておいて……。ていうか先生!」


 急にシャキッとした。


「あたしたちに協力してくれる気があるなら、マカゼの呪いを解いてくださいよ! 先生ならできるでしょ!? 教科書に載ってるやり方じゃ何度やっても解けないんです!」


「無理よ」


 即答。


「呪いはかけた術者が自力で解くしかないの。そもそも呪いが使えるのは相当な実力の持ち主だけだから、だいたいは自分で呪解のしかたを確立しているものなのよ」


「そ、そんなぁ……」


 エレナはがっくりと肩を落とす。


「だから私は本当に驚いているのよ。まさかあのスチュアートさんがこんなに強力な呪いをかけるなんて、って」


「『あの』ってどういう意味ですか……」


 エレナがさらに落ち込む。先生は構わずにこにこと「でもね」と続けた。


「そのかわりにもうひとつ役に立ちそうな情報を持ってきたの。『メルヘンズ』、覚えてるわよね?」


 ええ、覚えてますとも。死にもの狂いでエンプティを走り回ったのに、結局墓荒らしグレイヴァーにとられたあれだ。骨折り損のくたびれ儲けという言葉があの日ほどしっくりきた日はないよ。


旧人類ストリアンの呪いの物語を集めた本。あの本に収録されている物語は、どれもお姫様が呪いを解くお話だったの」


「呪いを解く……って先生、あの宇宙語読めるんですか?」


 エレナが言う。


「まあね。……で。物語のお姫様はみんな同じ方法で呪いを解いていたのよ。どうしてたか知りたい?」


「し……知りたいです」


 俺のかわりにエレナが答える。

 先生はにっこりと笑った。


「キスよ」

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美少女に呪われて美少女になってしまった俺の魔法学園ライフ 河原オリオン @k_0ri0n

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