第7章「魔法のキス」
第44話「『玉手箱』の行方」
テレビをつける。
今日は朝からどこのチャンネルも怪盗赤ずきんの話題でもちきりだった。
「先生、いつもどおりだったね」
いつもはすぐに翌日の支度をするエレナがおざなりに鞄を置きながらソファに座る。
「ブライトくんも元気そうだったし」
「おまえの魔法もダメダメだったしな」
幼馴染を賭けてクラスメートと戦っても、担任の先生が巷を騒がす大泥棒でも、俺たちの日常はそう変わらない。
今までどおり、休み時間と放課後は呪解の手がかりを探して本とにらめっこさ。
「でも、おまえがあんな魔法を使えるなんてなぁ。きっと呪文がおまえの心境にあってたんだろうな。よかったじゃねぇの。成功したのは一回だけだけど、おまえにもちゃんと魔法が使えるってことがわかって」
「……そっ!」
エレナがぎこちなく俺のほうを向く。
「そのことなんだけど、マカゼ……!」
顔を真っ赤にしてもじもじと。
「ど……どう思った……?」
「ん? なにが?」
「……その……あ、あたしの気持ち……」
「別にどうも」
「なっ……!」
エレナが勢いよく立ちあがって俺の胸倉をつかむ。ぐえ、苦しい……。
「な、なんでなにも思わないのよ!! なにかあるでしょっ!? うれしいとか恥ずかしいとか困るとか……! ちょっとくらい!! なんか言ったらどうなのよっ!?」
「ちょっ、はな……苦し……」
ぱっ、とエレナはガクガクと俺を揺さぶっていた手を離した。
息を整えながら見上げた水色の瞳はうるうると透明な膜を張っている。
え、おい泣くなよ!
「す、『隙間風』になんか言えって言われても……!」
「……え?」
エレナがぽかんと口を開ける。
「……今なんて?」
「だ、だから『隙間風』にどう思うもクソも……」
「…………」
エレナの瞳が徐々に逆三角形になっていく。ひぇぇ……。
「もういいわよっ!!」
エレナは怒鳴るとドカッとソファに座った。耳まで真っ赤にして、ちらりとも俺のほうを見ない。
あーあ、本気で怒っちゃったよ……。
「ひどいこと言うのね、ホワイトさん」
「っ!?」
女の声。俺とエレナは同時に窓のほうを向く。
イオリ先生が、開いた窓の縁に腰かけていた。
オレンジの三つ編みに清楚な長いスカート。教壇に立つときと変わらない姿だが、その正体を知ってしまった今では優しげな笑顔がかえって怪しく見える。
「先生、なんでここに……」
「そんな怖い顔しないで、スチュアートさん。今日はあなたたちにいいものを持ってきてあげたんだから」
警戒する俺たちの前で、先生はポシェットからなにかを取り出す。
「そ、それ……!」
エレナの声が裏返る。
先生は満足げに笑った。
「そう。『玉手箱』よ」
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