男の花見大会 その3


 見事に咲き誇る夜の桜の下、あの頑固者は

微動だにせず座っている。

そして、妙に似合っている夜桜と天狗面の男


「帰えるのではなかったのか」


「紅美ちゃんの為ですよ。

花見なのに僕がいないと、紅美ちゃん悲しむ

じゃないですか」


「そうか……そうだな」


 どうせ朝までは誰も来ないだろうから、

体が冷えないようにリュックから毛布を取り出して羽織る。


「ビールだと身体が冷えるだろう。

焼酎でも飲んで、身体を温めたらどうだ?」


「ありがとうございます。

でも僕お酒飲めないんで、天狗さん気にしないで飲んで下さい」


「そうか……そうなのか。

実を言えば我も下戸なのだ」


「ええ! そうなんですか!」

思い起こしてみれば、居酒屋でもお酒を飲んでなかったよな。


ハハハハハ! なにもかも上手くいかないし、どうしようもないや。

ここまでくると、もう可笑しくて笑っちゃう。




午前6時


 僕はいつの間にか寝ていたようだ。


「あっ、すいません。 寝ちゃってしまって」


「気にするな。 もう少し寝ていろ」


 分かりました。

それでは遠慮なく眠らせてもらいます。




午前9時


 目が覚めたので、おいっちに、おいっちに!と固まった体をほぐすのに体操を始める。


「あと、3時間でお花見終わっちゃいますね」


「ああ、そうだな」


「このまま終わるのも悔しいんで、せめて花見らしい事して終わりましょう」 って言ったものの、持ってきたツイスターゲームを天狗さんと2人でやるのは絶対イヤだ。


 これは紅美ちゃんと遊ぶ為に持ってきたんだし。


 うーん、困ったぞ。 寝不足で頭がボーッとしてるから何も思い付かない。


「何も思い浮かばんな。

無理して何かしなくてもよかろう」


「そうですね」


 結局、残り時間なにもしないでボーッと過ごし、誰1人として来ないまま花見終了の午後

12時を向かえた。


 まったく減らない缶ビールの山を見ながら、帰りにこれを運ぶのかと思うとウンザリする。


「すまぬ。

お主の言う通りで誰も来なかったな」


「いえ、いいんですよ。

これも後になって、笑える話になりますよ」


 ま、実際笑えもしないけど。


「では帰るとするか」


 僕たちは余ったビールの山をリアカーに積んで帰る支度をしていると「間宮クン」 と声を掛けられたので振り向くと、リョウさんがいるじゃないですか。


「あれ? リョウさんどうしたんですか?」


「お花見に来たんだよ」


 なるほどね。 リョウさん達のお花見は

今日だったのね。 それで来てもらえなかったのね。


「いいですね。

僕達、この荷物を運んで帰るんですよ」


「リョウよ。

余ったビールいらないか?」


「えっ?」

あれ? リョウさん、困った顔している。


「あのぉ、お花見をするってお誘い受けたから来たんだけど……」


 ん? 今日? お花見?  


「それって昨日ですよね?」


「メールは今日の日付だよ」


 そう言って、リョウさんは送られたメールを見せてくれた。


「あっ、ホントだ」


「だから、こうしてお弁当作ってきたんだけど……」


 なるほど、そういう事だったのね。 

天狗さんめ、1日勘違いしてメールを送ったんだな。


「もしかして、昨日から誰も来ないのに2人で待ってたの?」


「そうなんですよ。

何時になっても誰も来ないから、おかしいなと思ったんです」


 どれだけの時間を無駄にしたかを考えると、腹の底から沸々と怒りが込み上げて来た。


「て~ん~ぐさ~ん!」


 僕は不動明王さながらの憤怒の表情で、天狗さんを睨みつける。


「ス、スマン!

どうやら日にちを間違い、メールを送ったようだな」


 そんなの、もう言われなくても分かるわ!

さすがに申し訳なさそうに平謝りで謝るし、来てくれたリョウさんの手前、怒りを納める事にした。


「それじゃあ、どうします?」


「せっかく来てくれたのだ。

我の失態の為に中止にする訳にはいかないだろ」


「じゃあ、もう1日ここにいるんですか?」


「無論そうなる」


 もう1日ここにいるなんて信じられないけど、確かにこのまま帰ったら来てくれたリョウさんに申し訳ない。


「もう分かりましたよ!」


「ハハハハハ!」


 その後、みんな来てくれてお花見は盛り上がったようだけど、僕と天狗さんは疲れ果てて

眠ってしまい、寝ている僕の顔と天狗さんの

お面にイタズラ書きをされてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る