男の花見大会 その1

ゴールデンウィークが近づく春の夜


 僕は、いつものように天狗さんの部屋で動画配信の準備を進めていると

「一騎、世間はもうじきゴールデンウィークに突入するので、皆を誘って花見を開催しよう思う」 と提案をしてきた。


「へぇー、楽しそうですね。

賑やかそうで、いいんじゃないんですか」


「そうか、そう思うか。

去年は紅美と2人で花見をしたのだが、紅美の弁当を食べて話を聞いて終わってしまってな」


 なんだよそれ、凄く羨ましいぞ。

それなら、僕と紅美ちゃんの2人だけの花見にしたいな。


「今年は去年と違い誘える者も多い。

華々しい花見にしようではないか!」


「じゃあ、みんなに連絡入れておきますね」


「いや、今回は我が企画したのだ。

我が自分でメールを送っておく」


 へぇー、ずいぶんと気合いが入っているな。

ま、天狗さんが声をかけても、2人か3人来ればいいところだろうけど。


「何人来てくれますかね?」


「うむ、盛大な花見となるであろう!」


 こうして、天狗さん主催の花見大会が開催されることになった。




翌日


 大学の帰りに天狗さんの部屋を訪ねると、

アパートの前で天狗さんがしゃがみ込んで、何かを手入れをしてるようだ。


「天狗さん?

何やってるんですか?」


「一騎、これ磨いていた」


 スチール製のリヤカーを丁寧に磨き上げてたようでピカピカと黒光りしている。


「ずいぶんと気合い入れて磨いてますね」


「ああ、これに沢山の荷物を積んで皆をもてなそうと思う」 とポンポンとリアカーを満足そうに叩く。


「どんな花見になりますかね?」


「うむ、今回の花見は少し凝った花見にしようと思ってな。

参加者の出入りを24時間自由とする」


「えっ?! どういう事ですか?」


「言葉の通りだ。

参加者は24時間の間、好きな時に来て花見を楽しむのだ」


「もしかして天狗さん、丸一日そこにいるんですか?」


「無論だ」


「まさかですけど……僕もそこに丸一日いろって言うんですか?」


「無論だ」


────あまりにも馬鹿馬鹿しさに、僕は頭がクラッとなった。



同日の夜


 僕と天狗さん達は、紅美ちゃんと雪乃さんに花見の開催を伝える為に閉店後の

『ルー デ フォルテューヌ』 を訪れた。


「紅美、雪乃、今週末に花見を開催するので店を休みにしてくれ」


「今年もやるんだね」


「ハァ? 花見ですって? ふざけてるの?

ゴールデンウィークは稼ぎ時で忙しいよ。

無理に決まってるでしょ」


 雪乃さんは大袈裟なジェスチャーで天狗さんをバカにする。


「そうか、なら雪乃は不参加だな」


「おい! 私だけじゃなく紅美ちゃんもよ」


「何故そうなる!」


「稼ぎ時だって言ったでしょ。

それに紅美ちゃん目当てのお客さんも多いのよ」


 何ですと?! 僕の紅美ちゃんにファンがいるなんて聞き捨てならないぞ。

それが本当なら、花見なんてしている場合じゃない。


 ゴールデンウィークの間、僕が紅美ちゃんを

監視しないと。

それに紅美ちゃんがいない花見なんて、参加する意味がないので、花見は中止にするべきだ。


「仕方がないですね。

今回は中止にしましょう」


「いや、そうはいかん!

2人は仕事が終わり次第来てくれ」


「わかったー。

たのしみだねぇ」


「仕方がないわね」

雪乃さんは渋々了承する。


「僕もお店が終わったら行きますので」


「何を言っている。

一騎、お主と我は荷物運びと場所の確保だ」


 嗚呼、やっぱりそうなるのか。


 天狗さんはみんなに連絡をすると、花見に

向けての準備が始まった。

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