春休み対抗戦 その4 

「まさか、全てのメタモルフォーゼをもってしても勝てないとは……」


 負けたショックで、KAZUYAは呆然と立ち尽くす。


 強かった。 様々なプレイススタイルで戦う今までに会ったことのないタイプで、僕が彼に勝てたのは『狼達の午後』の常連達の動きを真似て、KAZUYAに合わせれたから勝てたようなもんだ。


 気を取り直したKAZUYAは意外にも潔く

「約束だ。 仮面を外そう」 と仮面に手をかける。

すると、IZUMIさんがKAZUYAを庇うように僕に前に立ちはだかり

「この仮面は私とKAZUYAの絆なの、あなたはそれを奪うっていうの?」 何て言い出してきた。


 いやいやいや、挑戦してきたのはそっちだし、そんなに大事な物なら賭けに使うんじゃないよ。 


「そんな事したら私は貴方を許さない」


 ええ! この人、性質(たち) 悪いな。

その仮面が2人にとってどんなものかは知らないけど、負けてからごねられてもねぇ。

しかも泣いてる?


 この状況にどうしていいか分からなく、無言で彼女を見ていると

「女の子泣かせるなんて、サイテーだね」

なんて真彩さんも僕を非難してきた。

IZUMIさんは泣きだすし、真彩さんは真彩さんで僕を睨み付けてくる始末。

 

 あまりにも面倒だし、別にKAZUYAの素顔をそこまで見たいとも思わないから

「仮面を取らなくていいですよ」と断ろうとしたら


「IZUMI、これは誓いなんだ。

違える事は許されない。 分かってくれ」 


 KAZUYAはZUMIさんの肩に手を乗せて彼女を諭し始める。

見つめ合う2人、今にもキスしそうな距離での視線は熱く永い。


 そして、僕は何を見せつけられてるんだろう?


 そんな見つめ合いが3分ほど続いてから、KAZUYAは着けている仮面を外すと、それを僕に手渡して「これで満足か」 なんて言いやがる。


「アナタだけに辛い思いはさせない」 

IZUMIさんも仮面を手渡してきたけど……。

そんな物いらないよ。


 こうなったら、2人がどんな顔しているか

じっくり見てやろう。


 まずはKAZUYAから拝見っと……あれ?!

お面で素顔を隠してるんで顔にコンプレックスがあるのかなって思ったけど、これはなかなかのイケメンだぞ。


 IZUMIさんも見てみると、彼女もリョウさんと似た感じの中性的な顔立ちをしてカッコいいな。


 彼らは僕の視線に気が付いたようで、こちらに向かってキリッと精悍な表情を作る。


「ゲーム天狗、今日のところは俺の完敗だ。

次は貴様の仮面を頂く!」

そう言い残して彼らは去って行った。


「なんで2人は素顔を隠してたんだろう?

どんな理由で隠してたんだろう?」 


そんな独り言を呟くと雨竜が

「たいして意味ないと思うよ。

あいつら、顔隠して大袈裟にしてるけど大学では普通に素顔だから」 と驚きの事実を告げる。


「え、そうなの?! 天狗さんみたい仮面を着けてないと、人前に出られないんじゃないの?」


「そもそもそんな人、いると思う?」


「だってIZUMIさん。 泣きながら、この仮面は私達の絆なのなんて言ってたから、人には

見せられない素顔なのかなって?

それに僕の身近にそんな人がいるからさ」


「天狗さんが異常なだけだよ」

それを言われたら何も返す言葉も無いや。



─────────



 みんなで打ち上げに行こうと店を出ると、

阿久津が走ってこちらにやって来た。

こんなところまで遠征に来るんだ。 と感心すると

「ここで試合があると聞いたぞ! 

対戦相手は何処だ!」 と意気揚々に問いただしてきた。


「いや、試合はもう終わったよ」


「なんだと? 何故だ!

何故、俺に声をかけないんだ!」


「いや、絵里から『夜の貴族』 は参加しないって言われたからね」


「クッソ-、エリザベートめ!

俺に断りもなく勝手に……」


「僕達、これから打ち上げに行くから。

じゃあね」


「おい待て! だったらナイト、俺と闘え!」


「打ち上げに行くから無理だよ。

じゃあね」


 僕らは阿久津を置いて駅に向かおうとしたら、なんだかんだ文句を言いながらも付いてきた。


 駅に着いて電車を待っている間、対抗戦を振り返っていた。


「間宮クンがいなかったら、今回勝てなかったかもね」


「たまたま僕にとって、相性のいい相手だっただけだよ」


「あれだけ戦い方を変えられるなら、苦手な

相手ってそんなにいないんじゃない?」


 そんな話に花を咲かせていると、ふと思った事があった。

リョウさんと雨竜君は、僕がゲーム天狗になっていたことに気付いてたのかな。


 頑張って演技したから、多分気付いてなかったよね。

気になるし聞いてみよう。


「2人とも、僕が天狗さんのお面を付けてたの分かってた?」


「えっ?! 間宮君、それ本気で言ってるの」


「一目で分かったよ」


 リョウさんも雨竜君も、始めから分かっていたと答える。


「いやいや、だって誰も指摘しなかったよね。それって気が付いてないって事でしょ」


「そもそも背も違うし、声も真似してたみたいだけど全然似てないよ」


「うーん。 前から思っていたんだけどさ。

間宮クンって、天然なところあるよね」


「ウンウン分かる」


「えー、2人とも何言ってるの?

僕が天然だなんて、言われた事ないよ」


 2人の言うことにどうも納得出来ない。

天然って、紅美ちゃんみたいな娘の事でしょ?

それでも2人は僕を天然天然だと言う………

正直、面白くない。


「ナイト、何でお前が天狗の面を持ってるんだ?」  阿久津が話に割って入ると、僕達は驚いて顔を見合せる。


「あっ!!

天狗さん、店のトイレに置いてきちゃった」


「なんだ、アイツもいたのか」


「子供じゃないんだし、電話かければ大丈夫でしょ」


「天狗さん、スマホ持ってないんだよ!」


「いちいち不便な奴だな」

それに関しては、僕も阿久津の言う通りだと思う。


「あの人こそ、お面を着けないと外にも出られない人だから」


「やれやれ、ホント変わった人だね」


「迎えに行ってきます」


 天狗さんは何故、このお面を着けるようになったんだろう? そんな事を思いながら僕は

『ノースノルド』に天狗さんを迎えに走った。



 

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