春休み対抗戦 その1

試合日当日


 リョウさんと雨竜君は、今日の試合会場

『ノースノルド』 に直接行くと言うので、僕も現地集合でよかったんだけど、天狗さんが

一緒に行くぞって言うもんだから、こうして

ハイツホンマに向かっていた。


 ハイツホンマの天狗さんの部屋の扉をノックして「天狗さーん、用意出来てますか?」 

声をかけて部屋に入ると、トイレの中でうめき声が聞こえる。


「か、一騎、もう少し待ってくれ」


「どうしたんですか?」


「は、腹が……痛い」


 こうして来てみたら、まだお腹を壊しているなんて、試合当日なのに大丈夫?


「日頃、配信でふんどし姿になるから冷えて、お腹壊すんですよ」


 天狗さんに声をかけても返事も無い。

どうやら、うめき声しか出せないようだ。


 それから10分程して、ようやくトイレから出てきた。


「ま、待たせたな」


 顔はお面なので表情は分からないけど、汗だくでグッタリ衰弱してるのが分かる。


「そんなんで大丈夫なんですか?」


「む、無論だ。 心配ない」


「どう見ても無理ですよ。

ここ1週間、ずっとお腹壊してたじゃないですか。 今日は行くの止しましょう」


「逃げるわけにはいかない……大丈夫だ。

行くぞ」

 

 天狗さんのポリシーがそうさせるのなら仕方がないけど、そこまでしてまで行かなきゃならないもんかねぇ。


 ま、本人の気持ちを汲んでゲームセンター『ノースノルド』 に向かうとしますか。




 天狗さんは、地元駅の道中も前屈みでお腹を押さえながら歩き、電車に乗ってから目的の駅に着くまでの間も、トイレから出てくることはなかった。




 こうして、ゲームセンター『ノースノルド』に到着した。


「雨竜君、リョウさん、まだ来てないかな?」


 2人を見つけようと店内を見渡すと、懐かしい雰囲気のあるゲームセンターで、今流行りのゲーム以外にもレトロゲームの筐体あったり、イベントやイラストが掲載された掲示板や店舗大会のポスターも目を引いて興味深い。


 そんな感じで店内をキョロキョロしていると、リョウさんと雨竜君が僕達に気付いて手を振っている。


「やあ、来たね」


「お待たせしました」


「ま、待たせたな」


「天狗さん、具合大丈夫です?」


 弱っている天狗さんを心配して、リョウさんが声をかけてくれると


「無論……大丈夫だ」 なんて強がるけど、お腹を押さえて汗だくの姿はどう見ても大丈夫で無い。


 僕達がそんな会話をしていると、高笑いと共に黒の衣装にドミノマスクの男が、マントをなびかせ近づいてくる。 KAZUYAだろう。


「ゲーム天狗とその御一行。 待ちかねたぞ!

今日は貴様が我が漆黒に染まり、天狗が素顔を晒す記念の日となるであろう」


 天狗さんはKAZUYAの声を聞くと、ツカツカ歩きだして彼の前に立ち塞がり

「ほう、そう簡単にいくかな?」 と弱っているくせして強がり、KAZUYAの顔に近づけて

威嚇する。


 KAZUYAも負けじと額を合わせ睨み付けるが、天狗のお面の鼻が邪魔で顔を斜めにして

視線を合わせている。


「貴様のお面、ゲーマーマスクコレクション

記念の1枚目として選らんだことを光栄に思うがいい。

そして、私が勝った暁にはこのマントに飾らせてもらう」


 そう言ってKAZUYAは、マントを蝙蝠の羽のように広げるが、ゲーマーマスクコレクションって何だ?


「ほう、大した自信だな。

貴様のアカのついた仮面なぞ……うっ」

 

 天狗さんは、台詞の全てを言う前にお腹を

押さえると「す、すまん。 後を頼む」 と言ってトイレに駆け込んだ。


「アイツ、大丈夫なのか?」


「すいません、大丈夫じゃないんですよ」


 それにしても今日のKAZUYAの衣装、オペラ座の怪人をビジュアル風にアレンジようで、

似合っててカッコいいな。


「その衣装って、何のコスプレですか?」


「これは今日の為に用意した、私のオリジナル衣装で宵闇の貴公子だが……それがどうしたのだ?」


「似合ってて、カッコいいなぁって思って。

背も高いし羨ましいなぁ」


 KAZUYAは意外にも、僕の質問に快く答えてくれてウンウンと頷くと満足そうに


「なるほど、どうやら君は見る目がありそうだ。

名前を聞いてもいいかな?」


「間宮一騎です」


「そうか、君の名前覚えておこう」 


 動画の印象とは違って、親しみやすい人だな。


「和也、まだぁ?」


 退屈そうな声がKAZUYAの後ろから聞こえると、黒いローブを羽織った2人組が現れた。


 なんだなんだ? 変なのが出てきたぞ。


「紹介しよう、深淵からの使者だ」


 KAZUYAに紹介されると羽織っていたローブを自ら剥ぎ取る。

 1人は茶髪のロングヘアーのギャルといった感じの女性で、もう1人は金髪ショートヘアーの娘


 年の頃は2人とも僕とそう変わらないように見えるけど?

 ショートヘアーの娘は、KAZUYAと同じように黒の衣装にドミノマスクを着けている。

 

「和也の姉の麻彩でーす。 よろしくね」

 ギャルの方はニコニコと気さくに挨拶してくれて、明るい感じの人だなぁ。


 もう1人の方は「IZUMI」 と無愛想に名乗った。


 それにしても、KAZUYAとIZUMIさんは黒の衣装で統一しているのに、麻彩さんだけ普通の格好なんで違和感あるよな。


「今日の君達に終止符を打つ者達だ」


「荒谷、相変わらずやることが大袈裟だよな」


 演技じみた立ち振舞いをするKAZUYAに、

雨竜君は呆れたように声をかける。


「ん、貴様はだれだ?」


「同じ大学に通っている雨竜だよ。

まあ、今日はよろしく頼むよ」


「ふーん、そうか」 と雨竜君には興味が無さそうな感じの素っ気ない対応をして、僕達を

『バウンティハント』 の筐体の方へ案内する。


『バウンティハント』 は今日の対抗戦のために貸しきりにしているようで、他のお客さんは誰も遊んでいない。


 


「さあ、諸君命のやり取りを始めようじゃないか! 先鋒前へ」


「和也は格好つけるんだから」 ニコニコ笑顔で、突っ込みを入れる麻彩さん


 僕達『狼達の午後』 の先鋒はリョウさん

対する『ノースノルド』 の方は麻彩さんが出るようだ。


 こうしてゲームセンター『狼達の午後』 と『ノースノルド』 の対抗戦が、いよいよ

始まった。




 

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