ゲームオーク 誕生秘話! その2

 大倉をソフィに会わせる約束をしたので

『憩いの場天狗』 に連れて来た。


「ちょっと待ってて」


 大倉を外で待たせて、僕が先に店内に入ると、メイド姿の雪乃さんがいるではないか。


 珍しいな。 『憩いの場 天狗』 は平日のこの時間は営業中だから、顔を出さないのに


「小僧、来たわね」


「あれ、どうしたんですか?」


「天狗の時間だけ、ソフィを独占してメイドとして働かせるのは、不公平だと思わない?」


 いや別に、ソフィが天狗さんと働きたいならそれでいいと思うし、雪乃さんと働かなければならない理由にもならないと思うけど……

まあいいや。


「それより紅美ちゃんとソフィは、どうしたんですか?」


「紅美ちゃんは、町内会の会合で天狗と一緒に出かけたわ。 これから私の店を開けるので、ソフィには休憩には入ってもらったわ」


「え、休憩中? ソフィに会わせる人がいて、ここで待ち合わせしてたんですけど……」


 だから店の仕様が『憩いの場 天狗』から『ルー デ フォルテューヌ』 に変わっていたのか。


 さすがに町内会の会合にソフィを連れていく訳にもいかないから、雪乃さんを預けたんだな。


「話は聞いてるわ、男を紹介するのよね。 

大丈夫よ。 そういうのは焦らしたほうが、

ありがたみを感じるものよ」


 そう言うものなの? だったら大倉を待たせたままで問題ないか。


「でも紅美ちゃんがいないのに、大丈夫なんですか? 

 ソフィって、確かに日本語話せるけど、給仕までは難しいんじゃないです」


「大丈夫よ。 助っ人を呼んでるから」


 雪乃さんは、指をパチンと鳴らすと同時に、奥にある更衣室の扉が開いた。


「ウフフ。 ご機嫌いかがかしら、ナイト」


 メイド服の絵里が現れて、いつもの貴族の

一礼での挨拶


「いいでしょう。

 前から、この娘にうちのメイド服を着せたかったのよ。

 ちょうど紅美ちゃんもいないから、手伝いに来てもらったの。 異例の3人体制で夜の部

開店よ!」


 確かに、絵里のメイド姿も似合ってて可愛い。 

 この2人にソフィが加わるのか、それは楽しみだな。


「おーい間宮、いつまで待てばいいんだ?」


 しびれを切らした大倉が店内に入ってきた。

話に夢中ですっかり忘れてたよ。


「あ、ごめん。 ここに彼女いないんだ。

もう少ししたら、来ると思うけど」


「そうか、なら待たせてもらうわ」 と大倉は

テーブル席に腰を下ろした。


「小僧、エリザベート、アナタ達も座りなさい」 


 雪乃さんは僕達を席に座らせてから、厨房に入り紅茶を運んで来てくれた。


 4人が席に座り、紅茶を飲む。

大倉に何か話を振った方がいいのかな? と

話題を考えていると


「アナタ、何か特技はあるのかしら?」


 ちょうどいいタイミングで、絵里が大倉に

質問してくれた。


「頭皮を動かすことができるけど」 と言ってから、髪を前後にピクピク動ごかす。


 それを見て、雪乃さんと絵里は声を上げて

笑う。


「他には何かないの?」


 大倉は立ち上ると、自分のベルトを取って

椅子にかけて「おーい、間宮!」 と僕を呼ぶので、「なんだよ」 と返事を返すと、大倉のズボンが下がり落ちた。


「ハハハ! アンタ、下らなくて面白いわ」


 雪乃さんと絵里にはウケてるけど、大倉の

下らないネタに僕はイラッとなってしまう。


「貴方、御名前はなんて言うのかしら」


「大倉、大倉忠一」


「大倉ね、おおくら、オークラ………………オーク?」 と言ってから大倉に指を指して


「決まったわ。 アナタ、オークよ。

今日からオークと名乗りなさい」 


 出たよ! 安易な発想のニックネーム。

その出来に、絵里はウンウンと満足しているけど、大倉は僕に苦い顔を向ける。


「タダイマ、モドリマシタ」


 そんな、どうでもいい会話をしていたら、

ようやくソフィが戻って来た。


 メイド服姿で、例の大きなカバンを肩にかけている。


 スボンが下がったままの大倉と、絵里を見て


「オー! マミヤ、ワタシのファンはコノヒトタチデスカ?」


「男の方だよ。 大倉って言うんだ」


「オークラサン、トツゼンデスガ、ワタシには、ヒミツアリマス」


 ソフィは、切ない表情で大倉を見つめてから


「ダレモシラナイ、シラレチャイケナイ~」

と歌い出す。 何だ秘密って?


 ソフィは、肩にかけているカバンを床に置くと、ゴソゴソと中を探っている。 

…………まさか? 


「コレガワタシのホントウのスガタ!

『テロリスト ゲーム般若』 サンジョウ」


 般若面を着けて、「ダダーン!!」 と

自ら効果音を発してからポーズを決める。


 やっぱり『テロリスト ゲーム般若』 に

変身したよ。 そして安定したカッコ悪さだ。


「コレデモ、ワタシのファンでイラレマスカ?」


「いや、別に般若のお面付けたぐらいで、嫌にならないけど」


「ソウデスカ。 ソレはヨカッタ」


 大倉の言葉にホッとしているけど、誰にも

知られていけない割には、配信でお面外してたよね。


「トコロでアナタは誰デスカ?」 次は絵里に尋ねる。


「私は、夜の姫君エリザベートよ。

以後、お見知りおきを」 と貴族の一礼


「コチラコソ」 と頭を下げる。


「ところで『テロリスト ゲーム般若』 彼は大倉ではなくてよ」


「ナンデスト?」 


「彼はオークよ!」


 ソフィは、大倉の体を上から下までジロジロ観察するとウンウンと頷く、何か納得したようだ。


「オークよ。 アナタもホントのスガタにナルノデス。 コチラへ、キテクダサイ」


 ソフィはカバンを持つと、もう一方の手で

オーク? を引っ張って、更衣室に連れていった。


 数分後、全身を緑一色に塗られてトランクス一丁の大倉が更衣室から出てきた。


「カレはイマカラ、『ゲーム オーク』デス」


「ギャハハハハ!!」 と雪乃さんと絵里は、

指差して笑い転げる。


 大柄の大倉の姿は、まさしくオークその者だ。


 こうして、大倉忠一はソフィ・ローランと

エリザベートによって、『ゲームオーク』 として誕生した。


 こんなにされて、ヘラヘラしてやがる。

コイツを見てると、なんかイラッとするなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る