ゲーム天狗への挑戦状 その1

 北国の寒い冬にも、ようやく終わりが見えてきた。


 今日の授業も終わり明日からは春休み

暖かい陽気の雪解けの町、待っていた春の訪れ

 それでも僕の向かう先は、いつもどうり天狗さんの部屋なんだ。


「あーあ、たまには天狗さんの部屋じゃなくて、別などこかに行きたいな。」


 夏に行った旅行、あれ楽しかったな。

天狗さんには旅行に行った割には、いつも通りの事しかやってないだろって言われたけど、僕にとっては楽しくて有意義な旅だったんだ。


「そうだ! また旅に行こう」


 次こそは観光地を巡ったり温泉に入ったりして、旅らしい旅にしたいので、明日から1週間

『ゲーム天狗放送室!』 の配信を休んで旅に出よう!




 ハイツホンマの階段をご機嫌に駆け上がり、

201号室の扉を開けるや否や


「ふざけおって!!」 とアパート中に響かんばかりの怒鳴り声が聞こえてきた。


 何だ? 何だ?

あっ、もしかして天狗さんが楽しみにしていたエクレア、黙って食べたの怒っているのかな?


 きっとそうだ、恐いから今日は帰ろう。

玄関ドアをそーっと閉めようとしたら

「一騎、ちょっと来てくれ」 と手招きで呼んでいる。

 

 僕が来てたのに気付いてたんだ。

嫌だなぁ、怒られるのかな?  

恐る恐る天狗さんに近くと「これを観てくれ」とパソコンの画面に指を指している。


 どうやら、エクレアを食べた件で怒っている

訳ではないので、ホッとした。


 何か動画を視ていたようだけど、とりあえず再生をクリックしてみるか。


 画面には仮面舞踏会のようなマスクに、青い衣装の男が立っている。 この格好どこかで見たことがあるような…………?!


 そうだ!『バウンティハント 闇狩人』 青の処刑人(ブルーエクスキューショーナー)のコスプレだ!

この人、背が高いから似合ってて格好いいな。


「『ゲームセンター 狼達の午後』 の常連達とゲーム天狗に告ぐ!」


 おっ、何が始まるんだ?


「私はブルーブラッドの仮面の貴公子KAZUYAだ。

 我々『ゲームセンター ノースノルド』 が貴様らに格闘ゲーム『バウンティハント』 で挑戦する」 


 ソフィの時もそうだったけど、最近は動画配信で声明発表するのが流行ってんのかな?


「来週の日曜午後2時だ。

『ゲームセンター ノースノルド』で待つ!

 試合、その他の詳細は次の動画で発表する。

いいか、逃げるなよ!」


 カメラに向かって指を指して挑発、そこで

動画は終わった。

 僕らの都合はお構い無しで、勝手な事で言ってるよ。


「くぬぅー、舐めくさりおって」


 天狗さんのお面がブルブルと震えている。

これはかなり怒っているな。


 そして10分後に次の動画が配信されて、

試合の詳細が発表された。


『狼達の午後』 の常連と『ノースノルド』

が先鋒、中堅、大将として参加、それぞれ1試合づつ戦い、勝利数を競うチーム戦。

『狼達の午後』 側は各サークルから代表1人を選出して、チームを組むようにとの事。


 天狗さんかKAZUYAの負けたチームが、お面を外して素顔を晒すということだ。

 

「一騎よ、そういう訳だ。 試合当日まで練習に付き合ってくれ」


 ええ、いやだよ! 何でこんな事で春休みを潰されなきゃならないの?

 こうなったら、一緒に怒って話を合わせて、参加しない方向に持っていこう。


「こんなのは断りましょう。

天狗さんのいう通り、ふざけてますよ!」


「一騎よ。 男が逃げるなと言われて、黙っていられるか」


「大丈夫ですよ。 そんなの行かなくたって、誰も何とも思いませんって」

 

「一騎よ、それは違う。

他の人がどう思うとかではなく、己自信が納得できるかどうかなのだ」


 これはいけない。

反対に諭されて、面倒になってるぞ。


「我はここまで言われて引き下がれん!

ゲーム天狗率いる連合が、あ奴に目に物を見せてくれるわ!」


 うわぁー! 火が着いちゃった。

どうしよう?

 仕方がないなぁ。 今回は正直に付き合えないって伝えよう。


「あのぉですね……天狗さん」


「どうした一騎」


「非常に申し上げにくいんですけど……」


「なんだ、ハッキリ言ってみろ」


「今回は付き合えないっていうか……。

春休みの間はちよっと駄目っていうか……」


「何が駄目なのだ?」


「自分自身を見つめ直す為に、旅行にでも行ってみようかなって……思ってるんですよ。

自分探しの旅ってやつですかね」


 笑顔でニッコリしてみたけど、天狗さんは

独特の威圧感を出している。


 シーンと聞こえそうな沈黙の中で、天狗さんがお面の下で怒っているのが伝わる………

そして。


「たわけがぁ!!」


 沈黙を破るのは、やっぱり怒声だ。


「『ゲーム天狗放送室!』 いや世話になっている『狼達の午後』 の危機になんたる事言うのだ!」


 天狗さんは勢いよく立ち上がり、仁王立ちで僕を見下ろす。

 まるで、僕の春休みの前に立ちはだかる壁のように。


 だけど今回は説得して、その壁を越え自由の春休みを手に入れるのだ。


「いや、聞いてください。

今回は、チームの代表が1人行けばいい話じゃないですか。

 天狗さんが出るなら、僕が行っても出番は

無いじゃないですか?」


「だからお主は、たわけ者なのだ!

日頃、世話になっている『狼達の午後』の危機に駆けつけないで、何が自分探しの旅だ!」


「いや、そんな危機にはならないですって。

だから僕は僕で、有意義に自分探しの旅に行きますよ」


「普段がスッカラカンだから、自分探しだとか言って己を見失うのだ。

己自信はそこにおるではないか」


 普段がスッカラカン? 聞き捨てならないセリフを言ったけど、今はそれは置いとこう。


「いえね。 新しい風に心を洗おうと思いましてね」


「それでなにか。

古い夢は捨てていくがいいか?」


「そうそう、分かってますね~」 

ハハハと笑うと


「馬鹿たれがぁ!!」 と再び怒鳴られてしまって説得は無駄に終わり、明日から練習に付き合わされる事になった。




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