夏休みだよ!店舗大会 一回戦 《後編》

第一試合は圧倒的に『夜の貴族』が勝利した。

続いて第二、第三試合と続き第4試合

いよいよ僕らの出番だ。


「次は第4試合『ゲーム天狗放送室』さんと

『グリーンベア』さん来てください。」


司会に呼び出された僕らと対戦相手の

『グリーンベア』さん


「一騎!先鋒は頼んだぞ!」


「たのんだぞー!」


天狗さんと紅美ちゃんの応援に気合いが入り、対戦相手の方に「よろしくお願いします。」

と挨拶をして筐体の椅子に座る。

いざ始まると緊張が襲う。


けど、今の僕は重々しき歌に見送られる誇り

高き戦士だ。

恐れてはいけない、と自分に言い聞かせる。


スタートスキルで紅美ちゃんのプリーステスが

僕のソードマンにプロテクションをかけてくれた。


紅美ちゃんは天狗さんのランサーに

『プロテクション』をかけると言ったのだけど、初めは勢いをつけたいので僕のソードマンに『プロテクション』をかけるよう指示してくれたので、これで守備力も高く安心して戦える。


相手は一撃の攻撃力が重いバーバリアン

しかもグレートアックスを選択で全ユニットの中で一番の攻撃力を誇るので油断は出来ない。


「よし、まずは」


開始が始まると慎重に弱攻撃で牽制

攻撃を誘うと、待ってましたとばかりにガードしてからの反撃


「おっと」


後方にステップで逃げたのでダメージは無い

けど結構危ないぞ!

相手は攻撃を食らってもOKのカウンター狙いでジワジワと距離を詰めてくる。


もう一回軽い攻撃を与えると、相討ちを狙ってか、さっきのタイミングより攻撃を早く打ち

返してくるが、何とかガードが間に合ったので削り攻撃で済んだ。


よし、それならと攻撃の届かないギリギリの

距離で垂直にジャンプすると、

思った通りグレートアックスを大振りしてきた。


「よし、空振った!」


着地後に相手の硬直に合わせて連続攻撃を当て

一連のダメージを入れていく、コンボが終わると距離を取って、ヒットアンドウェイを繰り

返す。


相手のバーバリアンもこれでは勝てないと判断したのだろう、

隙の少ない攻撃に切り替えてくる。


「やるな、しかし」


HPゲージの半分くらいダメージを受けたけど、僕の方も戦法を変えてラッシュ攻撃で

追い詰めるとバーバリアンは動けなくなり、

残りのHPゲージは、あと1、2発当てれば

倒せるまでになった。


このまま押しきり勝てると、攻め続けた瞬間


「かかったな!」


と筐体の向こうから聞こえると

相手はここぞとばかりに大振りの重い一撃の

《スカルブレイク》を放つ


「しまった!」


と思った時には大ダメージを受けていたが、

僕の方も攻撃を出していたのでお互いの攻撃が当たり何とかバーバリアンを倒せた。


勝てるには勝てたけど…

プリーステスの『プロテクション』がなければ

相討ちで引き分けになっていただろう。


「ふう、危なかった。」


冷や汗が出てしまう。

1ラウンドが終わると緊張も大分ほぐれて、

ホッとしていると、天狗さん隣にが来て耳元で


「一騎、素晴らしい試合だったが油断しているぞ」


と注意を受けてしまう。

確かにの言う通りだ。

天狗さんなら、バーバリアンのあの一撃は

受けないだろう。


2ラウンド目が開始

残りのHPゲージでは勝てないだろうけど、

少しでもダメージを与えてから次の紅美ちゃんに繋げたい。

グリーンベアの2人目は炎属性を選択した

ソーサラー


HPゲージを温存したいようでチマチマと慎重に《ファイヤーボール》を撃ってくる。

僕の方も緊張が解けて集中力が上がったようで

相手の動きに対応出来てHPゲージの半分位

まで減らしたところで倒されて紅美ちゃんの

プリーステスと交代する。


その時に天狗さんは「素晴らしいと」僕を拍手で讃えてくれた。


紅美ちゃんの出番になると先程の僕と同じように相手のソーサラーは少しでも多くHPゲージを減らそうと必死に攻めてくる。


「そらそらそら!」


相手のソーサラーの激しい炎攻撃の前に絶えず押されっぱなし

相手のHPゲージ1/4まで減らして善戦はしたけど、結局タイムアップで負けてしまった。


「天狗ちゃん、ごめんね」


両手を合わせて謝る紅美ちゃんの肩に軽く

ポンと手を乗せると


「いや、よくここまで頑張った

後は任せろ」


彼女を励まして席を交代する。

その姿は頼もしく椅子に座った天狗さんの背中からオーラのようなものさえ感じる。

天狗さんは選んでいたランサーで試合開始


「天狗ちゃん、がんばれー!」


紅美ちゃんが手を振って天狗さんの応援を

する。


試合が始まると天狗さんのランサーは動かない

ソーサラーが遠間で《ファイヤーボール》を

撃ってくるが、それを器用にかわして攻めずに逃げに徹する。


明らかにタイムアップを狙っての行動であろう

場内からは 「よくやるよ」 

なんて呆れた声も聞こえるし、僕もそう思うけど、彼には周りの声なんて気にしないのだろう。

構わずに避け続けている。


相手もこのままでは駄目だと思ったようで

慎重に距離を詰めて攻めてきた。


ソーサラーがランサーの攻撃範囲内に入ると

チクッチクッと、槍の距離で攻撃を仕掛ける。

ガードをされてダメージは与えていないが

時間は刻々と過ぎていく


「こうなったら!」


焦るソーサラーは破れかぶれでモーションと

威力の大きい魔法メテオインパクトを唱えて逆転を狙うと

ここぞとばかりにランサーは槍を投擲

見事に命中!


止めにこそ為らなかったが、心を折るのには

十分で相手のソーサラーの人は嫌になって席を

立って試合を放棄すると、そのままタイムアップで天狗さんの勝利。


対戦相手が吐き捨てるように

「あの野郎ウゼェ」と言ってきた。

まあ、気持ちは分かるよ。


グリーンベア3人目はナイト

ナイトの剣は扱いやすく盾のガードも優秀で

攻守バランスの取れたユニット


しかもスタートスキルで炎をエンチャントしているので火力が高く削り攻撃もバカにならない

天狗さんのように逃げるか守るしか能の無い人には厳しい相手だと思うよ。


「天狗さん、不利だよなぁ」


つい声にすると紅美ちゃんは


「天狗ちゃんは勝つよ」


「え、なんでそう思うの?」


「天狗ちゃんだもん、天狗ちゃんは勝つの」


そう強く言い切る紅美ちゃん。

その信用はどこから来るのか

どうしたら、そう思って貰えるのか

今の僕には分からない2人の関係が羨ましく

思う。


いよいよ最終ラウンド

相手のナイトは遠間で剣を振ったり前後に

動いて細かく揺さぶりながら、距離を計って

飛び込んで来た。

天狗さんも飛んで空中戦で応じる。


「ハッ!」


攻撃を当てて空中戦を制したのは天狗さん


「フンッ」


着地後に三段突きを当ててテンポよく攻めている。


「へぇ、天狗さんって普通にも戦えるんだ」


しかも、今のところダメージを受けていない上に相手に1/3のダメージを与えている。

おお、このまま行けば勝てるぞ!


と思った瞬間ランサーは後ろに距離を取ると

動かずにしゃがみこむ

その辺はやはり天狗さんだな。


「まだまだこれからだ!」


相手のナイトは逆転できるだけの攻撃力が

あるので諦めずに攻めて来る。


「てい!」


ナイトの振り回す剣攻撃には突きで合わせて

動きを止めて、相手が空中に飛べば的確に叩き落とす。


まるで相手が何を考えているのか全て理解しているようで、何もさせずに結局ノーダメージで

勝利すると周りが歓声で沸き上がる。


「天狗ちゃん、すごーい!」


天狗さんに、おもいっきり抱きつく紅美ちゃん

あっいいな。


「天狗さん完封ですね。」


僕も不本意ながら感動してしまった。

天狗さんは「ウム」と言うと 


「実は、奴らが2週間くらい前から、ここで

練習をしているを見かけてな。」


へぇー、そうなんだ。


「我はそこで変装をして、観察を始めたのだ」


えっ?

何言い出すの?


「会話も盗み聞きもして、どの順番でどのような動きをするのかを目に焼き付けておいたのだ。」


はい?


「3人目が戦いやすそうなので、我をそこに

当てたのだが

まあ、想定通りに行ったな」


おい!


「まさか1回戦で当たるとは思わなかったがな。」


なんか満足そうに話してるけど、

やることが怖いし呆れるよ。


そう思っていた矢先


「アイツ気持ち悪りぃ!」


と聞こえてきた。

グリーンベアの3人が僕と天狗さんの会話を

聞きていたようで、呆れているのか怒っているのか、とにかく不快感を露にしていた。


これはマズイよ。

せめて後味が悪くならないように、彼らに

お礼の挨拶をしとかなければ

…本当は、気まずいんだけどさ。


恐る恐る近づいて顔色を伺いながら


「あの、お手合わせ

有り難うございました。」


お礼を言うと3人が複雑そうな顔を見合せている。


それでも、僕と戦ったバーバリアンの方が

気を使って右手を差し出してくれたので、握手を返すと


「君と戦えたのは良かったよ。」


そう言い残して会場へ戻って行った。

これは良くないよ。

一言注意をしないと


「駄目ですよ、天狗さん。

あんな事言ったら

相手の方達、嫌な顔してたじゃないですか。」


そう言っても天狗さんは聞いてるのか聞いてないのか、見向きすらしないで

「そうか」と言って気にも留めてないようだ。

ホントこの人は


こうして波乱のトーナメント

1回戦が終了した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る