背中合わせの友情

 主人公の一人でもある帝国の第三皇子エウリアスは、その母が踊り子から王の側室になったという出自から王宮で孤立し、対等の友人がいなかった。武芸や文学に身が入らず虚勢により自分を保ってきたエウリアスは、十三歳のある日、自分と同じ日に生まれた魔術師と出会う。その魔術師イズメイルは皇帝や重臣たちの前で巨大な炎を見せ、そして蝶に鳥に変化させ、その優秀な能力を示した。エウリアスはたちまちに魅了され、彼に会いに行き、喧嘩をし、共に未来の将軍と宮廷魔術師を目指していく‥‥。

 この『エメラルドの魔術師』の冒頭十三話までの、一番印象的なシーンは身分の違う二人の少年が時に喧嘩をし、時に互いの成長を刺激しながら友情をはぐくんでいく描写である。詳しい内容は本文を読んでいただくとして、ちょっとした言い合いや、その時の仕草などの描写は理想の友人関係であり、王道の少年たちの成長物語を楽しめると思う。

 しかし、序章での村での虐殺や、恐らくそれに関係していくだろうと思われるイズメイルの過去が露わになるにつれて、今後、成長した二人が相討つのか、それとも他の道を選んでいくのか、気になる伏線が多くなってくる。少年期が終わり、青年期に移るにつれて、政治・神話・皇帝とその一族などが複雑に絡み合い、その渦中に主人公たちが放り込まれるのであろう。

 物語の最後に主人公たちが手を取って横に立っているのか、それとも剣を握り背中合わせに立っているのか、今後の展開が楽しみである。

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