メアリー・スー考、もしくはメタフィクション考

 メアリー・スーという人物が登場したのは、スタートレックの二次創作である『A Trekkie's Tale』に出てくるキャラクターがその初めとなります。以後は全能であり、完全な容姿や性格など読み手の理想や妄想をすべて体現した存在、もしくはバランスブレイカーとして言い換えられるようになりました。

 本作、『メアリー・スーの殺し方』は異世界からの転移者によって一度は完結した世界において、勇者を殺害し世界に混乱をもたらした「メアリー・スー」という存在を殺すため、「契約」の力を受け継いだ少年が立ち向かうお話です。ただし、少年がその契約の力をシスターから受け継いだ時の言葉は『悪魔よ、最後のお願いです。私の命と引き換えに、この少年に契約の力を与えて』でした。
 メアリー・スーも、契約の力も昨今の小説で多く見られるような全能に近い存在でありながら、他作品のように読者の願望を託すような存在ではありません。それどころか、このモノガタリにおいて非常に影のある、アイロニックな存在として描かれています。もともとメアリー・スーはスタートレックファンへの皮肉から生まれた経緯があることを踏まえると、メアリー・スーの創造者が押し付けた世界やモノガタリ(必然・運命)に対する人物たちの反撃がテーマなのかとも考えました。

 また、作中の人物のセリフである「生まれ落ちたキャラクターに罪はないってことは言っておきたいね。人から嫌われるキャラになったとしたら、それは作者の落ち度だ」やその他の言葉から、フィクションに上位(メタ)の存在や関わりを感じることができます。名短編である『メアリー・スーを殺して』では自作の中のメアリー・スーを肯定し、また否定することで作者が新しい世界に踏み出していく印象がありました。その対比として考えれば、本作がメアリースーをどのように殺すのか、またそれが作中の人物たちにどのように影響するのか、読み手である私たちが最後に受ける衝撃はどういうものなのか、興味が尽きません。

 作者の一水素さんは『世界の監視者』では俯瞰的な視点で物語を描かれています。この物語も登場人物の視点だけでなく、世界すらも点としてを広く見渡せば、きっとメアリー・スーの殺し方を読み解いていけるのかもしれません。
 是非、ご一読ください。

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