挑め! 告白クイズ

snowdrop

ホワイトデー

「挑め! 告白クイズ~っ」


 長髪をかきあげて眼鏡をかけ直す司会進行役の女子部員がタイトルを発表した。

 クイズ研究部の部室中央に並べた机を前に座るのは三人。

 会計、部長、書紀が強めに拍手する。

 三人の前には早押し機が用意されていた。


「彼女いない歴イコール年齢の男子諸君! アニメや漫画、ドラマで描かれる恋愛作品をみならって一発逆転、玉砕覚悟の告白をしても実ることはありません。年末ジャンボ宝くじ一等七億円を当てるくらい、万に一つの奇跡でも起きない限り無理です。告白とは採用面接であり、恋愛は就職活動と同じなのです」


 二〇〇〇万分の一の確率なんだ、と部長が笑いながら声を上げる。

 進行役の女子部員は目を細めて微笑んだ。


「確率が低くても買わなければ当たりません。というわけで今回は、告白に関するクイズを五問用意いたしました。もっとも正解数が多かった人が勝者となります。正解したら一ポイント、誤答すればその人のみ、その問題は答えられません」


 よろしいですか、書紀がスッと右手を軽くあげる。


「優勝したらモテまくりますか?」


 室内が静まり、三人の視線は進行役の女子部員に注がれる。


「保証はありません」と進行役がきっぱり答える。

「やっぱり? そうか……」


 書紀は、肩を落として笑ってみせた。

 知ってた、と会計が頷いてみせる。


「で、す、がっ」


 進行役の女子部員は、語気を強め、言葉を続ける。


「このクイズをする前と後では、告白に関する認識が変わっているはずです。クイズに傾向と対策があるように、告白にもあるのです」


 進行役の言葉に、なるほど、と三人はうなずいてボタンチェック済みの早押し機のボタンに指を乗せた。


「問題。誰かに『付き合ってください』と告白するのは『御社で働かせてください』とアピールをするのと同じであり、告白される側は恋愛プロジェクトを進めていく上で恋人にふさわしいかを選ぶ面接官ですが、書類選考の課題として就職面接時に提出を求められる」


 問題文の途中で、部長が早押しボタンを押した。

 早押し機の赤ランプが点灯している。


「エントリーシート」

「正解です」


 ピポピポピポーンと音が鳴った。


「問題文を最後まで読み上げます。書類選考の課題として就職面接時に提出を求められる、志望動機や自己PR、学生時代に頑張ったことなどを記載する採用書類はなんでしょうか、という問題でした」

「就職面接時に提出するとなると、履歴書とエントリーシートの二つが浮かび、二分の一の確率ならばと押しました」


 書紀と会計は小さく手を叩き、早押しボタンに指をかけた。


「問題。告白される側は『自分のニーズを埋めてくれる人に来て欲しい』と考えているため、恋愛プロジェクトに採用されるには、どのタイミングで告白するかが重要ではなく、『相手のニーズと欲しい人材はなにか』をリサーチし、『ニーズに自分の魅力をどうマッチさせるか』が重要となるのですが、聞き手に情報を提示して理解を得るため」


 速攻でボタンを押し、赤いランプが点灯しのは会計の早押し機だ。


「プレゼンテーション」

「正解です」


 ピポピポピポーンと高らかに音が鳴った。

 にやり、と歯を見せて会計は微笑んだ。


「問題文の続きを読みます。『ニーズに自分の魅力をどうマッチさせるか』が重要となるのですが、聞き手に情報を提示して理解を得るための情報伝達手段の一種はなんでしょうか、という問題でした」

「世の中に存在するすべてのコミュニケーションがプレゼンとも言えるから、告白もそうなんだ」

 

 なるほどね、と納得する会計。

 部長と書紀もうなずいている。


「告白する側がすべきことは、リサーチとプレゼンの二つしかありません。いかに相手を知り、相手を考え、相手にとってのメリットを伝えることができるかが重要なのです。そこで次の問題」


 進行役の言葉の後、三人は真剣な眼差しで早押しボタンに指をのせた。


「三択問題です。恋愛におけるニーズの洗い出しにおいて恋愛トークはかかせません。つぎのうち、有効でない恋愛トークのテーマはどれでしょうか。A:過去にどんな人と付き合ったのか? B:なぜその人と別れることになったのか? C:どのような親や家庭環境で育ってきたのか?」


 三人は一斉に早押しボタンを押した。

 赤いランプが点灯しのは、部長の早押し機だった。


「Cのどのような親や家庭環境で育ってきたのか?」

「正解です」


 ピポピポピポーンと音が鳴り響く。

 一瞬大きく見開いて、部長は笑顔を見せた。


「ご存知でしたか」

「三択問題の場合、正解となる答えをAにするのに躊躇う傾向があるので、BとCのいずれかだろうとヤマを貼り、Bは有効そうだと思いましたのでCと答えました」


 称賛の拍手を送る会計と書紀も、そうだよね、という顔をしていた。


「知識として知っていてほしかったですけれど、正解です」


 進行役は小さく息を吐く。


「大事なのは『相手が過去にどういう恋愛をしてきて、どういうところでつまずいたのか?』のテーマで恋愛トークをすることが大切です。なぜなら、その事を聞いておけば、同じことをしなければ単純に選ばれる可能性が高まるからです。更に付け加えるなら、自分がどういう行動をとれば相手が求めているような人間になれるのか、まで逆算できます」


 確かに、と部長は声を張り上げた。


「みなさんには、告白が採用試験だとわかって頂けたと思います。つぎに大切なのが告白するときの『心構え』です。この心構え次第で、告白のタイミングや成功した後の付き合う長さまでも変わってくるのです。そこでつぎの問題です」


 進行役の言葉に、三人はすかさず早押しボタンに指を乗せた。


「三択問題です。採用されることばかり考えて入社後について思い至らない人が採用されないように、付き合った先にどういう信頼関係を築いていくかを考えずに告白してもうまくいきません。それでも男性から女性への告白するタイミングは早いほうがいいとされますが、ベストなタイミングはいつがよいでしょうか。A:出会って一日。B:出会って一カ月から三カ月以内。C:出会って一年以内」


 またも三人は、一斉に早押しボタンを押した。

 赤いランプが点灯しのは、書紀の早押し機だった。


「Bの出会って一カ月から三カ月」

「正解です」


 ピポピポピポーン、と鳴り響く正解音。

 いひひひ、と書紀は笑顔を見せた。


「ご存知でしたか」

「三択問題の場合、正解となる答えをAにするのに躊躇う傾向があるので、BとCのいずれかだろうとヤマを貼り、なんとなく聞いたことがあったのでBと答えました」


 だよね、という顔をして会計と部長は称賛の拍手を送る。


「知識として知っておいてほしかったですね。なるべく早くというのは恋愛市場において、自分よりも魅力的な人材は大勢いるため、油断していると取られかねません。ある恋愛心理研究では、男子が自分の気持ちに気づき、覚悟を決めて告白するまでにはおよそ九カ月から十二カ月かかるというデータがありますが、遅すぎです」


 遅すぎです、と進行役は強い口調を発した。

 三人は肩をびくっと震わせた。

 しかも進行役の彼女にジッと見つめられる。

 

「いいですか、気になる子に具体的なアクションを起こさずにいると、興味がないんだと思われて恋愛対象から外される可能性が一気に高まります。いくら女子が、恋愛に発展しそうだからアプローチしてこないかなと期待していても、男子が『この子はなんか話しやすいなぁ』と喜んでいるだけで何もしないから、恋にも発展しない恋愛未遂のすれ違いが起きてしまうのです」


 人生における悲劇ですね、と部長は口を開いた。


「さすが部長、そうなんですっ。ここでポイントの確認です。部長二ポイント。会計一ポイント、書紀一ポイント。つぎが最後の問題です」


 進行役の言葉に、三人は前のめりの姿勢で早押しボタンに指を乗せた。


「三択問題です。ライバルがたくさんいる恋愛市場において採用する側がみているのは採用後の良い働きですが、告白する前でも後でも、どのような人が選ばれるでしょうか。A:一生懸命な人。B:イケメン。C:優しい人」


 みたび三人は、一斉に早押しボタンを押した。

 赤いランプが点灯しのは、書紀の早押し機だった。


「Cの優しい人」


 ブブー、と音が響く。

 優しい人がいいって聞くのに、と書紀は思わず声を漏らす。

 次に早押し機の赤いランプが点灯したのは、会計。


「じゃあ、Bのイケメン」


 ブブー、と不正解。

 三択の法則が、と会計は天井を見上げた。

 余裕を持って早押し機のボタンを、部長は押した。


「Aの一生懸命な人」

「正解です」


 ピポピポピポーンと高らかに鳴り響いた。

 よっしゃー、と部長は笑顔で右腕を突き上げた。


「結果、勝者は部長となりました。ご存知でしたか」

「正直、棚ぼたです。どの選択肢もあり得ると思えるものばかりで、解答に迷っていたのですが、二人の誤答がいいアシストになりました。考えてみれば当たり前ですね。いい加減な人を好きにはならないし、付き合って酷い相手とわかれば別れたくなる。優しさは優しさで大切だけど、何事にも一生懸命取り組む人でなければ一緒にいたいとは思えないでしょう。それでイケメンなら文句もないでしょうけど」


 なるほどね、とうなずきつつ、書紀と会計は手を叩く。

 進行役の女子部員は、眼鏡を外しながら三人が座る席の前へと歩み寄っていく。

 

「これでみなさんには告白するための事前準備と心構えの大切さなど、わかって頂けたと思います。ですが、告白を成功させるためには環境や季節、時間、場所、告白してはいけない時期を避けるなど、気をつけることは他にもあります。大事なのは、相手の立場に立ったタイミングで告白するということです。ちなみに女子からの告白タイミングは出会って一年以内なので」


 わたしと付き合ってください、進行役の女子部員は部長に頭を下げて、右手を差し出す。


「これ、バレンタインデーのお返しね」


 部長は彼女に、アルフォートの箱をだまって手渡した。

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