夢果つる街

 綿密なディテールと重厚な描写に裏打ちされたスパイ小説。ミリタリー、冒険小説への深い素養を滲ませる文体が、まずは見事だと思います。その手の作品のファンならずとも、この硬質で殺伐とした空気感に圧倒されるはずです。

 いっぽうで図書館でのやり取りは、本好きならばつい頷きたくなるような優雅さに満ちています。本によって結ばれる友情、あるいはそれ以上の感情に、声援を送りたくなるのです――それがひとときの夢に過ぎないと、予告されているのだとしても。
 
 後半の展開は圧巻です。前半、静かに積み重ねてきたものが、そういう形で――と驚愕します。最後には乾いた詩情とでも言うべき哀切さが、胸に残ります。

 9000字に満たない短篇ですが、信じがたいほどにずっしりとした読後感です。これぞ物語の力、なのだと思います。