6話 神。

 この感覚はなんなのだろうか。ゆらゆらと海中に漂っているかのような感覚だ。


 とても心地がいい。



「ふーん、キミはやっぱりその選択をするんだね」



 意識に直接語りかけて来るような声が聞こえた。



 ーーなんだ、お前は。何を言っている。



「僕はキミの神だよ」



 ーーは、わけがわからん。



「折角、キミが死ぬ未来をを避けてやったというのに。世界はやはり強大だな。ゆがみを直そうとしてくる」



 ーーいったい、なんの話だ。



「いいよ、教えてあげる」


 

 そして私を担当する神とやらを自称するが、語り始めた。



「僕はキミを担当する神。キミは僕に守られて今まで生きてきた。キミはね、1年前の今日、12月25日に交通事故で死ぬはずだったんだ」



 ーーどういうことだ。



「キミが守ろうとしたあの子、だるまのあの子さ。今まさにキミが助けたあの子。本来ならキミが死ぬはずだった去年の12月25日に、キミが助かった代わりに死んだんだ」



 ーーは。



「そう、さっき起きたことは、本来起きるはずだったことが起きただけさ。キミのスマホをトリガーに、世界がキミを過去へと押し戻したんだ」



 ーーおい。



「なんだい」



 ーーお前は、私を守る為にあの子を殺したというのか。



「そうだよ」



 ーー何様だお前。



「神様だよ。キミ担当のね。なにか気にさわったかい?」


 

 ーー腐れ外道げどうのようだな貴様。



「え、なんでさ、僕はキミを生かそうとしただけなんだよ。担当の神として当然じゃないか」



 ーーふざけるな、あるべき運命をじ曲げていいはずがない。



「はあ? なに一丁前いっちょうまえに語っちゃってんの。キミは神もなにもくせに。なに運命とか言っちゃってんの。なんなの。僕は助けてやっただけなのに」



 ーーああ、そうだ、私は基本、神も悪魔も魔法も信じない。だが、は信じている。



「何言ってんだか、こっちが聞きたいよ。オマエも他と同じ人間なら、せいぜい生にしがみ付いて僕をあがめてればいいだろ。ありがたく思えよ」



 ーー思わん。



「……テメェ、僕は神様だぞ!! オマエを助けた! 神だ! 今すぐにオマエを冥界めいかいへ連れていって、二度と出れないようにすることもできるんだぞ!」



 ーーいいだろう、好きにするがいい。それであの子が生きる世界が守られるならいい。



「クソが!! テメェ自分で何言ってんのかわかってるのか? ああもう、いい! さっさと俺を肯定しろ! 早く、早く!!!」



 ーーしてやるもんか、悪魔め。あのおっさん達の方が遥かに紳士だった。



「ねえ、頼むよ、き、キミが肯定してくれないとさ、僕が、き、きき消えちゃうんだよ世界を変えちゃった罰でさ、ね、ね、僕も悪気があったわけじゃないんだ、だからさ」



 知ったことか。私は貴様をーー。



「ダメ、ダメダメやめてやめてやめて」




 ーー




「あっ、あれおかしいななんでなんでなんでなんでなななななななんああんああああああああああ?」



 ーーピシッ。



 どこかで何かがひび割れたかのような音がした。



 ーーピシピシピシッ。




 ……プツッーー。

 



 〜 〜 〜




 ーーあれ、ここどこ、わたしは……?



「お、目覚めたかい、嬢ちゃん」



 ーー??



「なあに、心配するこたぁない。悪い神はあのがやっつけてくれたさ」



 ーーにいちゃん?



「そうだ。嬢ちゃん、俺のこと覚えてるかい? あのバーに来てた客だ。スィズだ」


 

 ーーあ、あ、あのこわいひと……。



「ガハハ、そうだな、嬢ちゃんにとっちゃ怖い人同然だな」


 

 ーーだいがくせーは? だいがくせーはどこなの。



「お、そうだったそうだった。あの人間の兄ちゃんのことだが、無事、過去に戻って世界を修正してくれたさ。嬢ちゃんを救ってな」



 ーーどうゆうことなの、だいがくせー、わたしをすくったの?



「ああそうだ、全くなゴミ人間かと思ったが、そうじゃあなかったようだな。世界のおきてに従い過去に戻って、嬢ちゃんを救ったのさ。今、ここは二つの世界線が交差するだ」



 ーーねえ、だいがくせーはどうなるの。



「あー、まあなんだ、あいつは死ぬことになるな。だが、これは正しい運命なんだ。嬢ちゃんがあんずることはねぇさ」



 ーーやだ。



「ああん? どうした嬢ちゃん。何か気に食わないか」



 ーーだいがくせー死ぬのやだ。だいがくせーはやさしいんだ。だいがくせーが死ぬなら、わたしがまもる。



「……嬢ちゃん……でもな、こりゃ世界の法則なんだ。そいつを歪ませた悪い奴がいなけりゃ、今の嬢ちゃんも存在してねぇし、兄ちゃんとも話してないんだぞ。それに……母ちゃんとも離れ離れにならないで済むんだぞ、これで」



 ーーいやだ、わたし、だいがくせー死なせたくない。やだよ、やだよ。



「はぁ……やっとここまで来たってのに……わかった。まずは俺の話を聞け」



 ーー……うん。



「俺はお前を担当する神だ。いや、だった。だが、一年前のあの日、兄ちゃんの担当神がをして、嬢ちゃんを殺してしまった……。世界は掟に従い、嬢ちゃんを暫定神ざんていしんとして1年後の同じ日、今日の12月25日に召喚したんだ。世界の歪みを修復させる為にな」



 ーーうん。



「嬢ちゃんを死なせちまったおかげで、俺は謹慎処分きんしんしょぶんになって悪魔区分の仲間入り。修復が始まるまでの1年を悶々もんもんとして過ごしてきた。そして、やっと辿たどり着いた今日の12月25日、出会ったあの兄ちゃん、あいつは神を信じず現実を見ない、あの腐れ外道神と同じ臭いがしたんだが……。そうではなかったようだな」



 ーーだいがくせーは、やさしいよ。



「ああ、そうだな……。で、嬢ちゃんは兄ちゃんを死なせたくはないんだな?」



 ーーうん、死なせたくない。わたしが、いちねんまえに死んじゃったってゆうのも、じじつ。



「…………」



 ーーでも、そのおかげで、やさしいだいがくせーに会えた。あんなたのしい気持ちになったのは、はじめてだったかも。



「……嬢ちゃん」



 ーーうん。



「兄ちゃんを救いたいのか」



 ーーうん。



「……そうか、わかった」



 ーーわたし、だいがくせーといっしょにいたい。



「……わかった。嬢ちゃん、1つだけ道がある。教える前に言っておくが、嬢ちゃんは



 ーーわかった。



「じゃあ、まずはーー」


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