第39話 壬生の狼
深夜の公園に苦しそうな声を上げながら走る影が二つ。
すでに走るというより早歩き程度だったが、当人達は必死だった。
真一は盆を抱え、背にはリュックを背負っている。
発煙筒はまだ残っていたが、もう投げる力はなかった。
それを追うマホメドも元々走りにくい格好の上にヤギの被り物は呼吸がしにくい。
角の重心が悪くガッチリ固定してある為、脱ぐにはそれなりに手間がかかる。
それに今脱いだら発煙筒にやられるかもしれない。
何より真一は追いつけそうで追いつけない、微妙な距離で逃げている為、いっそ脱いでしまおうかと踏ん切りもつかないままここまで追ってしまった。
時間にすれば数分に過ぎない。
だが真一はついに足をもつれさせて倒れ込む。
ぜいぜいと息を切らしながら追いついたマホメドは浦木の脳を取り上げ、倒れている真一の背を蹴る。
思い知らせてやりたい所だったが、疲労の上リュックもあって多少小突いた程度にしかならなかった。
こんな奴は放っておこうと言わんばかりにマホメドは踵を返す。
少し息を整えたマホメドは「チン」と金属がぶつかったような音を聞いた。
続いて足音と人の気配。
マホメドは盆の操作器を握って気配に備える。
「ふむ。魁一郎は、よい友を持った立派な息子を育てたな」
そこに居たのは白い軍服に鞘付の刀を持った初老の男。
マホメドは訝し気に見ていたが、男は何をするでもなくすたすたと歩き去って行った。
それをマホメドは不審気に見送ったが、まあどうでもいいと戦いの場に戻ろうとした所でヤギの頭がパカッと割れる。
突然開けた視界に何が起きたのか理解が追い付かなかったが、続いて盆も真っ二つに割れた。
マホメドはしばらくの間、呆然と半分に割れた脳の断面を眺めていた。
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