エピローグ1

 マホメドはそれ以来姿を見せていない。

 ハーデス・ゲートのホームページも閉鎖され、一抹の不安は残るものの、事態は一応収拾へと向かっている。

 マホメドが諦めたとも思えないが、捕まえて警察に引き渡せばいいものでもないので、今の所どうする事も出来ない。

 どうするべきかと言うのなら、弥一郎の方が近々の問題だ。

 魁の母桃子は、戸籍上魁一郎が生きていたという事にするつもりのようだが、それほど簡単な事ではないようだ。

 白羽もあれから変異する事は無い。

 証による下準備もなく即席に変えた為か、一時的なものだったようだ。

 晴美も変異種の力を失ったと言っていたが、それはおそらく嘘だろう。

 白羽も以来、心の修業を積むと言って弥一郎のもとへ通い詰めている。

 あの戦いの時、魁は攻撃を防いでしまったので、約束通り勝負は白羽の勝ちだ。

 弥一郎は白羽にも稽古をつけなくてはならない。

 白羽は今更ながら魁とほとんど歳が変わらない事に驚いたようだったが、そこは昔の記憶。

 魁とも手合わせをしているが、サクラはまんじりとしない思いのようだ。

 燐花もマホメドのもとへ戻る気はないようで、なんだかんだで誠司が面倒を見ているようだ。

 魁達から見れば世界は大きく変わってしまったが、少なくとも周りにいる者達の間柄は変わっていない。

 この平穏がいつまで続くか分からないが、今日も魁達は、有事に備えて己の技を磨いている。

 魁はサクラ達と共にいつものように学校を終えて帰路に着く。

 その中で、ムードメーカーの優美が子供の様に泣き声を上げていた。

「柚木さんどうしたんです?」

「プリズン・キュアハートのDVD探してたら、最終回のネタバレを見ちゃったらしくて……」

 ああ……、と納得する魁に真一は苦笑いを返し、噎び泣く優美を宥める。

 魁はいつも寡黙だが、ここのところはサクラも大人しい。

 いつもなら優美と他愛もない話に華を咲かせているのだが、時折塞ぎ込むように静かになる。

 魁はその様子を横目で見ていたが、真っ直ぐに前を見て口を開いた。

「探して。連れ戻しましょう」

 ん? と真一と優美も魁の言葉に会話を止める。

「黒川くん。どんな思惑があるかは分かりませんが、きっと戻りたがっていると思います」

 真一と優美は露骨に「えー」という顔をする。

「裏切者よアイツ。人類の敵に回ったのよ」

 と優美は怒りを露わにする。

 あの後姿を消し、以降行方は分からないが、現れない以上もう元の生活に戻るつもりはないのだと思っている。

 マホメドについたのなら、優美の言う通り、人の幸せに仇なすのかもしれない。

「私は、それはないと思います」

 なんでよー、という顔の皆に、

「マホメドは私達が邪魔だったはずです。でも配下の変異種は、私の家にもサクラさんの所にも現れませんでした。それは黒川くんが明かさなかったからですよ」

 うーん、と優美は額に指を当てて考える。

「彼は私達の敵になったわけではないのだと思います」

「まあ、彼は人の思惑通りに動かない、捻くれた所もありましたから」

 真一は苦笑いするが、サクラが突然声を上げた。

「うん。探そう」

 え!? と真一と優美は意外そうにサクラを見る。

「ちゃんと面と向かって。別れたよ! って言ってやらなきゃ」

 怒ったような顔でさっさと行ってしまうサクラを魁は「いや、そういう事ではなくて……」と追うが、サクラはもう聞いていないようにぶつくさと悪態をつく。

 真一と優美は呆気にとられた様に互いに顔を見合わせていたが、やがてたははと苦笑いして二人の後を追った。

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