第27話 世代の風雲児

 晴美は高校生の頃に自分でデザインした服を作った。

 自身も高校生でありながら、流行とはまた違った異質な色合いの服だったが、街では注目の的になり、若者の間で噂になった。

 外を歩けば声を掛けられ、写真を取られる日々。

 雑誌が取り上げるのにさほど時間はかからなかった。

 大手アパレル会社にスカウトされ、ミソノ・ミハルブランドで発売。その年のヒットとなる。

 現役女子高生のデザインする服として話題を呼んだ。

 しかし所詮ブーム。

 派手な恰好は飽きられるのも早い。

 服のブームは本人が思うよりも早く過ぎ去ったが、下火になる前に下着デザインも始め、静かにブランドを続けた。

 カリスマ性を確立していた為、ミソノ・ミハルブランドはそれだけで十分な市場を確保できたし、モデルやインタビューを続けてそれなりに地位を保っていた。

 しかしそれでも世間での認知度は下がりつつある。

 世間は常に新しい物、話題性を求める上にミハル自身、デザインのパターンを出し尽くしていた。

 そんな中で若い世代からの新人発掘。

 実の所、そのデザインを晴美は悪くないと思っている。

 焦る中、晴美は自分のブランドが危い事を感じていた。

 そんな中、世間のブームに変化が訪れる。

 ブームには一定の周期がある。

 大体十数年で一周し、似たような物が流行ったりする。

 晴美、およびその関係者にはその理由は分からなかったが、世間の多くにはまた元の波が戻っているように感じられた。

 会社としてはこのチャンスを逃す手はない。

 新デザインを発表して新たなブームをけん引する。

 しかし晴美は数日行方知れず。

 いつ戻ってくるとも限らない晴美より、新人を二代目に仕立てて新たなカリスマを作り上げる方向で進める事にした。

 晴美が戻った時には既に企画は進んでおり、事実上のお払い箱。

 今までは行方をくらました後、なんだかんだで新しいデザインを持ち込んでいたが、今回はハーデス・ゲートに拉致されていたのだ。

 手土産のない晴美を会社は相手にしない。

 数日猶予をもらえれば――と交渉したが、既に進んでいるプロジェクトは簡単に変更できない。

 新たなカリスマの当選クジを引いたのは魁の姉――楓だが、そのデザインを晴美がした事にすればその間の繋ぎになる。

 ――実はそのデザインは元々晴美のもので、後輩にあげたのだが、それを応募したら採用された。しかしその後輩は後ろめたさから、晴美先輩のものである事を告白。

 そういうシナリオだ。

 会社としても無名の新人を売りだすよりも、カリスマを新たなブームに乗せる方がやりやすい。

 それが事実なら会社としても悪い話ではない。

 だが実際事実ではないし、当の楓にとってはあまりいい話ではない。

 そこは魁と蟇目による説得につぐ説得で、何とか了承に漕ぎ着けた。



 晴美と楓はデザイン事務所のあるビルのエントランスに降りる。

 どちらにとってもそれなりにストレスのある打ち合わせだった為、二人は同時に息を吐く。

 後は事実関係だけだが、二人の間に何があるのかなど事務所の介入する所ではない。

 楓自身がそう言い、その旨で契約を交わしてしまえば後の事は問題ではないのだった。

 新しいプロジェクトは大急ぎで進められていた為、楓自身にその報が入る前だった事も幸いした。

 舞い上がっていた所をどん底に叩き落とされるほどのショックはない。

 そしてそれは晴美にとっても同じ。

「私にだってカリスマとしてのプライドがある。これは借り。ちゃんと返すから安心して」

 楓もミソノブランドはよく知るものだし、憧れもあった。

 その先輩が正式にアシスタントとして抱え、教えてくれると言うのなら悪い話ではない。

 実際カリスマとして祭り上げられるのにプレッシャーを感じないわけではなかった。

 晴美という人間の事はよく知らないので、口約束だけでは心許ないのも事実だ。

 そこは蟇目と魁が信用できると押したのだが、どこまで本当か怪しい事に違いはない。

「これからよろしくね」

 晴美は握手を求め、楓はやや控えめながらもそれに応えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る