色鮮やかな虚空は何人の眼にも映らず
第26話 空鼬
「お断りよ!」
御園ミハル、こと晴美は話を最後まで聞く事もなく即答する。
「なんで私がそんな事すんのよ」
取り付く島もなく立ち去ろうとする晴美の後を、魁と真一が追い、その後ろを興味無さそうに蟇目が付いて歩く。
晴美もハーデス・ゲートの言う「終焉を越える時」は人柱として使われていたが、その後は普段の生活に戻っていた。
もっとも皆と同じくその前後の事は曖昧でよく覚えていない。
世間的には数週間行方不明だったが、雑誌社などは彼女がヘソを曲げて行方を眩ます事はよくある事であまり気にされなかった。
御園ミハルのプライベートについては公開されていないが、前に見かけた街で不自然なまでに素性を隠したような恰好は返って目立つ。
多少時間はかかったが、見つけ出すのにはさほど苦労はしなかった。
「何か勘違いしてるようだけど。私そんなんじゃないから。フツーの人間だから」
しつこいと警察を呼ぶ、と言い捨てて早足に立ち去る。
「だから言ったろう。女ってのは追うもんじゃねぇ」
「蟇目さんなら慣れてるんじゃないんですか? 何とか説得してくださいよ」
「いいか。モテる男ってのはな。落ちる女しか口説かねぇ。落とせそうな女を見る目がある奴がモテるんだ」
「ミハルさんはどうです?」
「ありゃダメだ」
蟇目は声を落とす。
「蟇目さんもハーデス・ゲートに思う所あるんでしょ? このままみすみすチャンスを逃していいんですか?」
蟇目は少し考え込み、やれやれという素振りで晴美の背中に声をかける。
「よーし分かった。手を貸してくれたらお前の言う事を何でも聞いてやろう」
晴美は足を止めて少し振り返る。
「こいつがな」
蟇目は魁の頭を掴んで差し出す。
なあ? と聞く蟇目に魁もよく分からないまま返事をする。
晴美は訝し気に目を細めると、そのまま背中を向けて歩き出した。
「わーかった。手伝ってくれたら、下着のデザインの権利を全部やる」
晴美は足を止める。
そのまましばらく考え込むように動かなかったが、やがてゆっくりと振り向き、明らかな疑いの目を向けた。
蟇目は不敵に笑って魁の肩を叩く。
「お前んとこの下着をデザインしたって新人。コイツの姉ちゃんなんだ」
晴美はやや驚いた顔をしたが、ゆっくりと何かを含んだ笑みに変わっていった。
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