10:「父の動向」

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アルフレッド視点






「よし、あいつの帰ってくる前に――」



 あれから全速力で街まで戻ってきたアルフレッドは、息つく間もなく自分のギルドハウスに行こうと足を動かし続けていた。

 まずは人通りの多い街の北部を目指し、南端にある街の入り口からずっと上がっていく。


 その途中で通った街の中央の大広場には、色々な場所から集まった商人たちが珍しい品を並べていた。

 商人たちの数はいつもの倍かそれ以上。

 これから二週間ほど後に、年に一度だけ三日間にわたって開かれる大会があるので、それを狙っているのだろう。


 そして走り続けるアルフレッドは、思い出したように急に足を止める。



「そういえば、ギルドに戻ってる場合じゃないんだった」



 これからレイが帰ってくるまでに家に戻り、妻と話をしなければならないというのに、彼にそんな時間はない。

 それに、ギルドハウスにいる間にレイが帰ってきたら大変だ。



「まいったな。いつもの癖が……」



 幸い、アルフレッドの家があるのは街の北部だ。

 今いるのも北部なので、そんなに距離はない。



「ま、帰ってきてもまずはギルドの方に向かうだろうし、このぐらいの時間ロスなら気にしなくていいんだろうけどな」



 とはいっても、念には念を入れておかなければいざという時の対処に苦しむ事になる。



「うおおぉぉぉぉっ!」



 優れた身体能力で、弾丸のごとく街を駆け抜けていくアルフレッドだった。






 そうして、汗だくになりながらようやく家に付いたアルフレッドは、玄関のドアを開けて自分の妻の名前を叫ぶ。



「ただいま、リーシャ!」



 少しして家の中から出てきたのは、金髪の女性だ。

 胸元まである髪の毛を後ろに束ね、体系は細身。

 しかしながら出てるところは出ていて、一言で言うなら美女。

 その言葉がふさわしい。



 そんな彼女は、アルフレッドを見て持っているタオルを投げつけた。



「水浴びして、汗を流すんでしょ?早くいかないと日が暮れるわ」



 リーシャは、優しく微笑んでそれだけいうと、きびすを返して家の中に戻っていく。

 


「助かる。けど、今は違うんだ。話を聞いてくれリーシャ」


「ん、どうしたの?」


「俺は何日か家に戻らない事にした。とりあえず今日は帰ってこれないだろう。でも、必ず帰ってくる」


「どこにいくの?レイだっているのよ?」


「わかってる。どちらかというと、今回はレイのために出かけるんだが……」


「ふぅん、大体わかったわ。じゃあ、気をつけていってらっしゃい」



 あっさりと了承したリーシャは、急な事であるのにもかかわらず、全く動じる様子はなかった。

 アルフレッドはそっと彼女を抱きしめ、耳元で呟く。



「ありがとう。でも、タオルは帰ってきたらもらう。だから、今は返しておく」



 そうしてリーシャにタオルを渡すなり、いそいそとアルフレッドは走り去ってしまった。



「まったくもう、あの人は……」



 やれやれとため息をつくリーシャ。

 しかしその顔にはどことなく嬉しさのようなものも垣間見えた。



「――言い忘れてたけど、レイには俺が帰ってきた事をいわないでおいてくれ。勘違いされても困るから」


「でも、あなたが帰ってこないってのをいつ私が聞いたことにすれば……」


「あーーっ、ええと、なんとか誤魔化してくれ!それじゃあ!」



 戻ってくるなりすぐにまた姿を消してしまったアルフレッドに、リーシャは嫌な顔一つせずに一言。



「子供なんだから」



 うっすら頬を赤く染めて、さらに彼女は小さくつぶやく。

 しかしその声は、誰の耳にも届く事はなかった。

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