5:「覚醒の時」

「よし、これでこいつの動きは封じられたぞ……」



 今、モンスターの身体は黒い光でがんじがらめになっている。

 地に伏す形で動きを封じられているモンスターは、暴れさえするものの、それ以上の行動はとれない。

 勝つ事はできないが、負ける事もないのだ。


 しかし、呪いという能力は相手にだけでなく、自分にも干渉する。

 反動が来るのだ。



「うああぁぁぁぁッッ!?」



 想像を絶する激痛だった。

 脳天からつま先まで電流が走りぬける感覚。

 それに加え、頭を割るような激しい頭痛。


 意識を保つのも難しいつらさに、俺は膝をつく。



「だから嫌だった……くううッ!」



 呪いを使えば反動が来る。

 これは、街を出る前に父さんに教えてもらった。

 だけど、まさかこれほどとは思いもしなかった。



「くそっ、呪いで動きを封じている間に逃げたかったのに!」



 相手の動きを封じて、自分も身動きが取れなくなる。

 本末転倒だ。

 このままでは、いずれ意識もなくなるだろう。



 そもそも、これといった得意武器がないのに、反動がくる意味が分からない。

 不遇冒険職すぎて、泣きたい。

 せめて反動さえなければ――。


 いや、それさえも自分の力にするのだ。

 相手に呪いをかけ、さらに自分を強化。

 これこそ不遇冒険職を脱却する手段。


 これしかない。



「呪いを力にっ、変えてくれぇぇぇぇぇぇ!!」



 無謀と勇敢は違う。


 しかし、奇跡が起きる事で、無謀は勇敢になるのだ。

 絶望した今こそ、逆転の力を。

 それを得るための奇跡を俺は起こしてやる。



「…………ぁっ」



 だが、意識が落ちる方が早かったらしい。

 視界が黒に染まる。

 あらゆる感覚が遠のいて行く。


 そんな絶体絶命の状態で、不思議な声が脳内をちらつく。



「どうしても、モンスターを倒さなきゃ……」



「そうしたいのは山々だけど、無理そうだ。ごめん」



 情けない。

 ……なんで自分に謝ってるんだよ俺。



「俺は、冒険者になって父さんと母さんを超えるんだ……」



「あぁ、そうだったよな。でももう諦めてくれ。無理だ。呪術師なんて冒険職な以上、そんな夢は持ってても叶うはずないんだから」



 こんなこと言わせないでくれよ。

 夢を見させてくれてもいいじゃんかよ。



「かっこよかったなぁ、父さんの剣。いつか俺も……」



「そもそも剣系統でさえなかったよな、俺の冒険職」



 期待してたのに。

 本当は諦めたくなんて……ないのに。



「いつかおっきなギルドをつくって、びっくりさせてやるんだ……」



「もうやめてくれ、つらいんだ!幻想ばっか抱いたってどうなるんだよ!」



 俺もつらいし悲しいんだよっ!

 どうにかしてほしいさ!

 それでも、無理だって決まってるんだよ。

 


「運命ってのは、残酷だよな……」



 どうせなら、生まれたときからわかっていてほしいものだ。

 どれだけ期待させて、絶望させればいいんだ。

 その落差を、神様ってやつは楽しんでるのか?


 努力だって、才能あってのものだろ。



「でも、その運命を変えられるとしたら?」



「――は?」



 なんにも考えずに答えてたけど、さっきから誰が俺に話しかけてるんだ?

 それに、こんな悪趣味な質問……。


 あ。

 そうか。

 これは、俺の願いが届いたのか?


 この際もう何でもいいから、俺は真面目に答えよう。



「変えたい。呪術師なんて不遇職、俺が最強にしてやる!」



 そして視界には、光が満ち溢れた。

 同時に、頭の中に響く声。




 ―――――スキル、【リバース】を取得しました。


 効果により、使用開始から一定時間、指定した存在にかかる全ての効果を反転させます。




 

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