6:「スキル【リバース】の力」


「なんだよ、リバースって?」



 スキルというものがあるというのは知ってるけど、具体的にどういったものなのかはわからない。

 ただ、そのスキルを取得したのと同時に、その説明も頭に流れ込んできたのだ。



「試すほか……ないだろっ!」



 だけど、どうすれば使用できるのか。

 とりあえず心の中で念じてみることにする。


 (【リバース】、今すぐ発動してくれ!)



「……だめか」



 全力で念じてみたんだけどなあ。

 じゃあ次。



「【リバース】!」



 今度は口に出してみる。

 すると、頭の中に先程と同じ声がこだまする。






  ―――――スキル【リバース】を使用しますか?






「してください。早く!」



 早口で俺は意思を伝える。

 だって、さっきから身体に激痛が走り続けている状態なのだから。

 一刻も早く解放されたい。






  ―――――【リバース】によって指定する対象は―――――、






「もちろん俺っ!」






  ―――――スキル【リバース】発動。


       対象、レイ・アルクール。


       能力低下効果――――検知。

 

      

       これより一分間、レイ・アルクールにかかる全ての効果を反転させます。






「おおっ、身体が軽くなった!?」



 それはスキル発動直後からだ。

 驚くほど身体が軽い。

 これは呪いによって身体の自由が奪われていたからではないか、と俺は思う。



「これならいける!」



 俺は落とした剣をひろい、再度モンスターの方へ向き直る。

 まだモンスターは地面に縛り付けられている。



「ふうぅ……」



 深呼吸。

 身体を落ち着かせながら、駆けだす。



「時間は一分しかないんだ。この時間が切れるまでになんとか……!」



 俺は大きく飛び上がり、手始めにモンスターの胴体に剣を叩きこむ。

 ズブッ、と剣が肉のなかに沈み込む感覚。

 あまり好きではないけど、この場合試し斬りは成功ということで良いのだろう。



「剣が利くぞ。なら、このまま一気に!」



 何度も何度も執拗に剣を振り、振り、振り!

 モンスターの太い首をなんとか切断する事に成功。



「こいつ、もう動かないよな?」



 呪いを解くが、もう動く気配はない。

 つまり、モンスターを倒す事が出来たのだ。



「よかったあーー!」



 一時はどうなるかと思った。

 死にそうな時だってあった。

 それでも俺は、自分の力でモンスターを倒したんだ。


 それを認識すると、なんだかどっと疲れが増した。

 身体から力を抜き、草の上に倒れ込む。



「皆、どんな顔をするかな?」



 まだ日の高い空を見ながら、そんなことを考える。

 呪術師という最弱な冒険職の俺が、一人でモンスターを倒せるわけないって思ってるだろうから、おどろくだろうなあーー。



「……もうちょっと、試してみたいな」



 時間はまだある。

 できれば、スキルをちゃんと使いこなせるようにしておきたい。



 ……しばらくぼうっとしていると、いつの間にか身体の疲れにも慣れてきた。



「よしっ、いくか」



 俺は立ち上がり、剣に付いた血をはらって鞘に納める。

 それと、ピクリともしないモンスターの首を持って、次のモンスターを探しに歩き出す。






― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―






 それからは、呪いで相手の動きを封じ込め、スキルを使う。

 このパターンの繰り返しだった。


 もう何度モンスターを倒しただろうか。

 倒すたびに少しだけ素材をはぎ取り、自然に返す。

 素材を入れるポーチも、そろそろ満杯に近い。


 それでも、俺が手に持つモンスターの首の血の匂いに連れて、モンスターは次々とやって来ていた。

 


「はあっ!」



 一撃で済むよう、毎回首に狙いを定めて剣を振る。

 今相手にしているのは兎型のモンスターで、耳が異常に大きかった。

 その大きな耳で羽ばたきながら逃げ回るので、呪いをかけようにも触れる事が出来ない。


 仕方なく剣を振りまわしているが、さて。



「どうやって倒すか……」



 正直、もう引き上げても良いのだ。

 日はすっかり傾き、暗いとまではいかないが、時刻はおやつ時。

 俺にとっても、そろそろおなかが空いてきた頃合いでもある。



「だから、これで最後にしたいけど――」



 手に持ったモンスターの首も、もうほとんど血の匂いはしなくなっていた。

 鼻を近づければするだろうけど、中の血が全部出切ったんだと思う。


 兎型モンスターの動きを読みつつ、また剣を振る。



「やっ、はっ、おおぉっ!」



 しかし空振る。



「うーん、このままだとらちが明かないな」



 やっぱり呪いをかけなきゃお話にならないようだ。

 だけど、呪いは相手に直接触れなければかける事は出来ない。



「直接触れるなんて無理……いや、待てよ?」



 あえて兎型モンスターに攻撃させて、その隙に触れる事は出来ないだろうか。

 それに、手だと中々難しいだろうから、剣を介して。



「……いけるんじゃないか!?」



 ということで、俺はあえて兎型モンスターに背を見せ、逃げるふりをする。

 すると、兎型モンスターは予想通り、俺の方へ攻撃をしに近寄ってくる。


 距離が完全に詰まるまで、後、三、二、一――――!



「今だ!」



 振りぬき様に、横なぎに剣を振るう。

 さすがの素早さを誇るモンスターも、いきなりの攻撃はかわしきれないようだ。

 胸に傷跡をつくると、地面によろよろと落下する。



「そして、【リバース】!」



 スキルを使って無事に止めをさし、また素材をはぎとる。



「それにしても、疲れたー。今日はここら辺にして、そろそろ帰るか」



 どうやら、呪いやスキルを使うと集中力がどっともってかれるらしく、もう歩くのさえだるい。

 でも、父さんに冒険者になることを認めてもらわなきゃならないからなあ。



「次からは、スキルを乱発しないようにしないと……」



 と教訓を得つつも、ようやく俺は街への帰路につくことにしたのだった。

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