第39話 正奴隷

 だがあいくる椎名のあるよは、別の事象に対するものだった。


「ほら、見て! 他にも本が! きっと他に誰かが来るのよ!」


 俺たちは一斉にあいくる椎名が指差す本棚を見た。すると、そこにはたしかにあった。4冊目の本!


「……最強勇者は、4人のお供を連れてやってくる……。」

「……古い伝承の通りってことね……。」


 カホウとルチアが呟いた。俺は、その本のタイトルを読み上げた。


「『亡国の正奴隷王女』……。これって、まさかっ!」

「……そっ、そんな……。私が、コイツの奴隷だなんて……。」


 ヘタレ込んで女の子座りをしたのは、カホウではなく、ルチアだった。


「……なんて、残酷な運命なの……。」


 カホウが他人事のように、それを庇うでもなく慮るでもなく、淡々と言った。


「どゆこと? 亡国の正奴隷王女って、ルチアなの? カホウじゃないの?」


 俺がそのことに気付くまで、数秒を要した。カホウが詳しく説明してくれた。ブランド王国の血を継いでいるのはルチアであること。そのブランド王国は昨日滅亡したこと。カホウの苗字はブランドだけど、赤の他人であること。カホウとルチアは2時間前に知り合ったばかりだということ。


「……勇者様……どうか……せめて……私を、正奴隷に任じてください……。」

「せっ、性奴隷だって!」


 性奴隷。それって、性奴隷ってことだろう! つまり俺のおもちゃになるってこと? いっ、良いよっ! 全然、構わないよ! むしろ大歓迎!


「勇者くん、なんか勘違いしてるよねっ!」

「えっ? どうして? ルチアが俺のおもちゃになるってことだろう?」

「違うよ。メイド教本によると、正奴隷というのは、正奴隷のことだよ」

「はぁっ? 正奴隷って何? 副奴隷もいるってこと?」

「えっと……。」


 あいくる椎名は物凄い勢いでメイド教本を読み進めた。そして、あるページでピタリと止まった。


「あっ、いるいる! 忍者と賢者は副奴隷なんだって!」

「えっ? そうなの?」

「うん。メイドは勇者様の正奴隷だって、良かったぁ」

「ねぇ、あいくる椎名、今の、もう1回言って!」

「はい。良かったぁ」

「いやいや、その前に言ったことだよ!」

「はい。うん」


 俺は諦めた。もう1度聞きたかったなぁ。『正奴隷』ってパワーワード。


「亡国の正奴隷王女も、当然勇者様の正奴隷!」


 なっ、なぬっ! あいくる椎名、今なんて言った! もう1回言って! 俺はそう思っていたけど、それは不要だった。


「亡国の正奴隷王女も勇者様の正奴隷。亡国の正奴隷王女も勇者様の正奴隷!」


 大事なことのようだ。あいくる椎名は3回繰り返した。テストに出そう。

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