第38話 江口さん

 江口さんは、身の上ばなしをはじめた。とても退屈だからかいつまんで説明すると、江口さんは俺と同じで、童貞だということだ。魔法が使えない魔法使いとなり、誰の目にも見える妖精となり、最後に行き着いたのが賢者になること。


 永年の研究の末、異世界に行けば賢者になれると知り、こうしてここへやってきたのだという。なんという執念。俺は、未来の自分の姿を見ているようで、恐ろしかった。


「それじゃあ賢さんも、勇者くんの奴隷になろう!」


 放送禁止レベルの抱擁の末、俺は江口さんを奴隷にした。俺の言った3つの戒律は『俺の方に用があるとき以外は、全力で賢く姿を消せ!』『世のため人のため、俺のために賢く生きてはたらけ!』と、『俺の女には賢く手を出すな』。


 江口さんはその全てに『ケン』と言って答えた。こうしないと、賢者にはなれないんだと。


 QRコードはあいくる椎名が落書きした。そのせいで能力はかなり高い。と思いきや、かなり偏っていた。


「HPが7桁って……。枯れてるから持続力が違うのね!」

「能力項目は、耐える・守る・虚言・妄想……数値はどれも超一流!」

「賢者なのに、エロい童貞色が強く出過ぎてるんだよ……。」


 HPって、一体、なんなんだ? エロい童貞色って、俺にもあるのかな……。そんなことを思っていると、あいくる椎名が言った。


「あるよ!」


 やっ、やっぱり……。誤魔化すには、あいくる椎名は強敵過ぎる。


 この世界のQRコードは半端ない。人の経歴や能力を完璧に捉え数値化している。俺はしゅんっとなった。こんなことなら真っ黒にしておけばよかった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る