【神威、消滅】

 バアルの体が光り出す。


 次第に猫の姿から人型の姿へ変わっていった。


(待てど待てど実装されなかったバアルが…!

 あの声優さんの声で…あの見た目!!ついに!!)


 青い髪、頭には王冠を被る美少女。

「私が人前に姿を現すのは珍しいぞ。

 小僧、お主がルシフェル様の主だからだ。

 ルシフェル様に感謝せいよ?」

 バアルは髪とローブをはためかせ手を腰に当てている。


「万歳!!」

 思わず心の声が漏れてしまった。


「なんだ?そんなに私に会いたかったのか?」

 バアルが俺に寄りかかり擦り寄ってくる。


(ぬぉぉぁぁぁぉぉぉ!我慢!我慢!俺!!)

 身悶えながらもグッと堪えた。

 ハッとして辺りを見渡すとアーサーの冷たい視線が刺さる。

(違うんだァァァァァ!)


「よ…よし!じゃぁ今回は力を貸してくれるんだよな?」

 俺は気を取り直し、マスティマを見据えた。


「奴は4大魔王の中でも戦闘に特化しているからな。

 小僧1人では手に余るだろう。」

 バアルはマスティマの方を振り向くと走り出した。


「という訳だ!マスティマよ!」


「何故お前が…!?」

 走って近ずいていくバアルを見てマスティマは慌てていた。


「なぁに…私の帝に手を出した愚か者に制裁を加えにな!」

 バアルは走って行った勢いで助走をつけてマスティマを殴り飛ばす。


(そうだよ…あれがバアルだよ…見た目とは裏腹に完全な肉弾戦…何度ボコボコにされたか…。)

 俺は過去のバアル戦を思い出していた。


「小僧なにしてる!早く手伝わんか!」


「おっ…おう!」

 レーヴァテインを握り締めるとマスティマに追撃を叩き込む。


「煩わしい!僕の邪魔をするなぁぁぁぁ!」

 マスティマの周りに重力場が発生した。


「またか…アンチ グラビティ!」

 バアルは発生した重力場をかき消した。

「オマケだ!"ヴァイス"!」

 バアルの拳に魔力が籠る。


「ちぃ!」

 マスティマは防御の体制をとった。


 バアルの連打がマスティマに打ち込まれ、マスティマの体が地面にめり込んでいく。



 俺はアーサーとメドラウドと一緒に呆然と見ていた。

「なぁ…俺達は必要なくないか?」


「そんな事はありません!きっと出番が来ます!大丈夫です!…大丈夫…。」

 アーサーはバアルの猛攻を見て慰める自信がなくなって行ったようだ。


 メドラウドは黙ってバアルの動きを観察していた。

(確かにバアルは強い…トリガーの世界でも最強ランクのボスだったしな…。

 でも、マスティマの動きに違和感がある…何かを企んでいる?)

「母上…物理のカウンタースキルって、トリガーではルシフェルの配下ボスは全て所持してましたよね?」

 メドラウドがアーサーに耳打ちする。


「ああ…一撃で倒されるダメージで無い限り、蓄積させてカウンターをは…なつ!?

 神威様!マスティマはカウンタースキルを溜めています!」

 アーサーはハッとして俺にすがってきた。


「確かに…マスティマがカウンタースキルを持っていてもおかしくは無いか…!

 バアル!一旦引け!カウンターがくる!」

 俺が叫ぶと、バアルは後退した。


 マスティマはめり込んだ地面から砂を払いながら立ち上がる。

「気づかれたか…まぁだいぶ溜まったよ。

 バアル…お前の力を返すよ!」

 口元を歪ませた。

「"カウンター フォース"!」

 マスティマから魔力の塊が放出され、バアルに向かっていく。


「これはまずいかな…。」

 バアルは顔を引きつらせる。



 俺はバアルを護るように魔力の塊とバアルの間に飛び込む。

「小僧!?」


 バアルが俺に手を伸ばしているが、俺は闇に飲まれた。



 ーーーーー



「小僧!?」

 バアルの目の前で神威が魔力の塊に飲まれ、爆発を起こした。


「神威様!!」

「神威!」

 アーサーとメドラウドも慌てて駆け寄るが爆風に押し返されて近ずけなかった。



「あはははは!これで解放者神威は消えた!もうこの世界は全て元通りだ!僕のオモチャは消えないんだ!!」

 マスティマは笑みを浮かべ喜んでいた。


 メドラウドは絶望の表情を浮かべるアーサーにかける言葉が見つからずただ見つめていた。


「小僧…私なんかを庇うから…!小僧がいなくなったら誰がこの世界に終わりを告げてやるのだ!!誰が私達にエンディングを見せてくれるのだ!!

 …誰がルシフェル様を解放するのだ!!」

 バアルは怒りに任せマスティマに殴り掛かった。


 しかし、先程の連打より単調な攻撃はマスティマには当たらなかった。


「ちくしょう…神威…母上のこんな姿を見せやがって…!うわぁぁぁぁ!!」

 メドラウドもクラレントを握り締めるとマスティマに斬りかかった。


 しかし、マスティマはメドラウドの剣を指先で摘み、そのままメドラウドごと地面に叩きつけた。

「がはっ!」


「マスティマ!!」

 バアルの蹴りをかわすと、足を掴みほおり投げた。


「バアルも型なしだね。そんなに解放者が大切だったの?じゃぁバアルも解放者の元に送ってあげるよ!」

 マスティマが手をかざすとバアルの体を闇が包み込んでいく。


「これしきの闇なんぞに私が飲まれるか!!」

 バアルの羽が白くかわる。

「"ホーリー サークル"!」

 周りに光が広がり闇をかき消していく。


「さすがバアル!光と闇の相反する属性を持つ魔神!」

 マスティマは目を見開き口を三日月型に歪めた。

「僕が求める最高のオモチャだよ…!」

 マスティマがバアルに向かって飛びかかる。


 バアルはかわし、殴り掛かるがマスティマに受け止められてしまう。


 マスティマは不敵な笑いを浮かべながらバアルに迫る。


 バアルが鋭い蹴りを放つがかわされ、マスティマの反撃がバアルの腹に刺さった。


「くっ…!」

 バアルは地面に叩きつけられながらも、回転し体制を立て直し、マスティマを睨んだ。


「でも流石のバアルもなんだか辛そうだね?

 メドラウド…もっと頑張んなよ。

 お前が頑張れば、バアルがもっと僕と踊ってくれるんだから!」

 マスティマはクラレントを杖に立ち上がろうとしているメドラウドに視線を向けた。


「よそ見とは余裕のある事だな!」

 バアルは拳に魔力を集め殴り掛かるがマスティマはそのまま拳を受けニヤリと笑う。

「カウンター フォース!」

 マスティマから放たれた魔力の塊がバアルを吹き飛ばした。



「あはははは!僕はこの世界で最強の魔王だ!バアルすらも敵ではなかった!ベリアルもアシエルも僕の敵ではない!」

 マスティマは地面に倒れるバアルを見つめて笑った。

「もう僕には帝なんて必要ない!ただの暇潰しだよ帝なんて…アヴァロンとの契約で人間を1人育てないといけないから育てたけど…。

 もう僕には必要ない!そのアヴァロンも姿を消して、解放者も、もう消えた!

 トルハンを殺し、雷の魔剣は回収するとしよう。

 ついでに、黒帝シャイネスの持つ黒の魔剣も嵐帝咲耶の嵐の魔剣も僕が貰い受けよう。」

 マスティマは空高く飛び上がると手をかざした。


「"ヘルファイア ウォール"!」

 倒れるバアル達の周りを黒い炎の壁が取り囲む。

「地獄の業火に焼かれ死ぬがいい。」

 マスティマが背を向け飛び立とうとすると何かがマスティマを貫いた。

「な…に?」

 マスティマが胸に開いた穴に触れるとドロリと血が噴き出した。

 振り向き、何かが飛んできた方向を見るとそこにはアーサーが立っていた。


「魔王マスティマ!お前は許さない!お前は私が殺してやる!」

 アーサーの瞳に殺意がこもる。


「光の女神の成れの果てが…!僕に傷をつけたな…!よくも!よくも!」

 マスティマは怒り、アーサーに向かって降下していく。



「母上…。」

 メドラウドはアーサーを寂しそうに見つめていた。

(やはり母上には神威しか見えていないんだな…。)


 マスティマはアーサーの目の前に降り立った。


「お前程度の女神崩れに僕が負ける訳がないだろう?」

 マスティマは余裕の笑みを浮かべながらアーサーに歩み寄って行った。


 アーサーはエクスカリバーを握り締めマスティマに斬りかかった。

「斬ってみせる!アーサーの名にかけて!!」



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