【魔王マスティマ】


 俺がドラゴンを目視できる所まで登ってきた時には、シャイネスとメドラウドは既に戦闘を開始していた。

「シャイネス!邪魔はするんじゃねぇぞ!」

「メドラウドこそ、足を引っ張るなよ!」



 俺は2人を眺めていると頬が綻ぶのが分かった。

「なんだかんだ仲が良いな。あの2人は。」


「さぁ!参りましょう御主人様!」

 ニアは背中から羽を生やし、剣を引き抜くとドラゴンに向かって行った。


「私が上空から羽を狙います!シャイネス殿とタニアは両側から挟んで!」


「俺はタニアじゃねぇ!メドラウドだ!」


「了解した!ニア殿!」


 3人はドラゴンにダメージを与えていく。



「さて…たまには全力で行ってみようか!」

 俺はレーヴァテインを引き抜き正面に構えた。


「トリガーで100体のドラゴンを狩ると得られるスキルだ!

 "龍狩り"発動!」

 体を紅い膜が覆う。


「3人とも、どいていろ!巻き添えを喰らいたくないなら!」


 俺が呼び掛けるとシャイネスとニアは笑みを浮かべ頷くとドラゴンから距離をとった。


 メドラウドは不服そうに俺の方を見たが、何かを感じ取ったのか慌てたように距離を置いた。


「さぁこいドラゴン!!俺が相手だ!!」

 ドラゴンは口を広げ鋭い牙を光らせながら俺に突進してきた。


 俺はレーヴァテインを振り上げドラゴンに飛びかかる。

「もう…偽らない!自分のまま、進む!周りに振り回されようと俺は俺だ!

 "龍狩り 一閃 天叢雲剣"!!」


 振り下ろした剣から虹色の光が迸る。

 ドラゴンに剣が触れると、硬い鱗の外皮を切り裂き、一刀の下にドラゴンを両断した。



 3人はその姿を眺めていた。

「流石は御主人様!」

 ニアは手を打ち鳴らし体をくねらせている。


「やはり…勝てないな…。」

 シャイネスは大剣を肩に担ぎ微笑んでいた。



「マジかよ…トリガーで対峙した事は無かったけど…ここまで…。

 アヴァロンに選ばれたのは伊達じゃないのか…。」

 メドラウドは呆然としていた。


 俺は3人を見渡すと自然と笑顔が溢れた。

「へへっ!」



 刹那、周りを取り巻く空気が変わった。

 肌がピリつくような殺気が体にまとわりつく。


(なんだ、この殺気は!?)

 背中に冷たい汗がつたう。

 レーヴァテインを握る手に力がこもる。

(この圧力は…本気のルシファー並だぞ!?

 そうなると俺でも勝てるかどうか…。)


 辺りを見渡すと空間の切れ目から殺気の持ち主が姿を現す。

「やあ。初めまして神威。シャイネスも初めましてだね。

 モルドレッド…メドラウドは何回か会っているね。」

 少年とも少女ともとれる容姿に似つかわしくない殺気を撒き散らしながら口元を歪ませた。


 メドラウドはクラレントを握り締め、額からは汗を流し明らかに動揺している。

「…ティマ…魔王マスティマ!何故お前がここに!!」


「なぁに、僕の誘いを断り、しかも僕の帝であるトルハンを可愛がってくれたメドラウドと、バアルの帝、黒帝シャイネス。そして、炎帝…いや…この世界の解放者、神威。

 目障りな奴らが集まってるみたいだからね。

 まとめて消してしまおうかなって思ってさ。」

 マスティマが手をかざすと赤黒い魔法陣が地面に浮き上がる。


「皆!速く魔法陣の上から避けろ!!」

 俺は叫び、近くにいたメドラウドを抱え魔法陣から飛び出た。


 魔法陣から黒い炎が立ち上がり揺らめく。

「"ヘルファイア サークル"」

 魔法陣から黒い火柱が上がる。


「シャイネス!ニア!!」

 辺りを見渡そうにも黒い炎に視界を遮られる。

「くそっ!邪魔な炎だな!!」


 メドラウドは唖然としながら座り込んでいる。

「メドラウド!しっかりしろ!」

 しかしメドラウドは座り込み動かない。

「円卓の騎士モルドレッドはその程度か!!

 アーサーが見たら嘆くぞ!!」


 俺はレーヴァテインを構えた。

「はァァァァァァァ!!」

 魔力を込めて横薙ぎに剣を振るうと黒い火柱は掻き消えた。


「ニア!シャイネス!」

 俺は未だ煙の立ちこめる中へ飛び込んで2人を探した。




「なんで…お前は動けるんだよ…力の差は歴然じゃないか…!ちくしょう…!ちくしょう!ちくしょう!俺だって!母上に認められたくて…強く…!」

 メドラウドは拳を強く握り締めた。



「ならば立ちなさい、モルドレッド!円卓の騎士モルドレッド!」


 メドラウドは声のした方を見ると、見覚えのある姿。

 メドラウドの瞳に光が灯った。


「母上!!」


「モルドレッド!アーサーの名において命ずる!立て!我等の敵は魔王マスティマだ!」

 金色の髪をなびかせてアーサーがエクスカリバーを引き抜く。

「確かに敵の力は強大だ…しかし、我等は負ける訳にはいかない!円卓の騎士で最も勇敢な騎士モルドレッドよ!私の剣となりマスティマを撃つぞ!」


 アーサーの鼓舞によりメドラウドに生気が戻る。

「はい!母上!」


「「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 アーサーとメドラウドは不敵な笑いをうかべるマスティマに斬りかかった。



 ーーーーー



「ニア!シャイネス!」

 立ちこめる煙を掻き分けながら2人の姿を探す。

「無事でいてくれ!」



 次第に煙が晴れてきたが姿は見当たらない。

「そんな…。」

 俺はその場に膝を着いた。

「俺が…もっとしっかりしてれば…!」

 何度も何度も地面を叩く。

 意味の無い行為だと分かっていても当たらずには居られなかった。



「案ずるな小僧!シャイネスもヴァンパイアの娘も無事だ!」

 俺はハッとした。


 俺の目の前に黒猫が現れる。

 バアルだ。


「2人とも無傷とは行かなかったけど無事だ。今は私の城に飛ばしてある。

 だからしっかりしろ小僧。

 見てみるがいい。

 マスティマと戦っているのは誰だと思う?」

 バアルの言葉に従いマスティマを見た。


 そこにはアーサーとメドラウドが背中を預け戦っていた。

「アーサー…目が覚めたのか!」


「小僧。今回は私も力を貸すぞ。

 マスティマめ…私のシャイネスにまで手を出しおって…流石に許せん!」

 バアルの足元から地面に亀裂が走る。


「ありがとう…バアル…。

 マスティマを倒すぞ!一先ずはそこからだ!!

 アーサー!メドラウド!左右に別れろ!正面は俺が叩く!」

 レーヴァテインを握りしめるとマスティマに斬りかかった。


「煩わしい…蝿が!僕に触れるな!」

 マスティマが手を空にかざすとマスティマの周りに重力場が発生した。


 アーサーとメドラウドはその場に膝を着く。


 するとバアルが悠然と歩いてきた。

「うむ…"アンチ グラビティ"!」

 バアルは周りの重力場をかき消す。

「マスティマよ。お前は人間の世界に出しゃばりすぎだぞ?」

 バアルが突然の猫パンチをマスティマに叩き込むとマスティマは吹き飛んでいく。


「…猫パンチ!?」

 俺はレーヴァテインを杖に立ち上がる。


「小僧…この世界が長すぎて鈍ったか?

 以前の小僧ならこれくらい吹き飛ばせたであろうに。

 …なんだ。その指輪のせいか。

 はやく外せい!」

 バアルは俺の腕に飛びかかると指輪を1つ引っこ抜いた。


 俺の指には、パトロクロスの指輪と偽りの弱者の指輪。

 そして"抑制の指輪"が今までは、はめられていた。


 しかしバアルによって抑制の指輪が外された。

 抑制の指輪は、偽りの弱者の指輪と違い、感知阻害だけでなく、実際に力を抑制する指輪である。

「忘れてた…つけてる事さえ忘れてた…。」

 俺は忘れていた。

 抑制の指輪の存在を。



 つまりずっと抑制されていたのだ。

「うわぁ…俺ださっ!」


 バアルは自慢気にニャアと鳴くと指輪を噛み砕いた。

「さぁ小僧!本来の力を見せてみよ!」


「神威様!私達はいつでもタイミングを合わせます!」

 アーサーはマスティマに攻撃を弾かれながらも隙を見て攻撃を叩き込んでいる。


 メドラウドは不服そうな顔をしながらもアーサーと連携のとれた動きで、立ち回っていた。


 俺は深く息を吸うとマスティマを見据えた。

「お前はアシエルの様に世界の事を考えて動いているわけじゃなさそうだな…。」


 マスティマは余裕の笑みを浮かべながらアーサーとメドラウドをいなしている。

「世界なんてどうでもいいよ。

 僕は今を楽しむだけさ。世界が終わろうと、続こうと興味はない。

 今が楽しければ未来なんていらないのさ!

 だけど、君達は僕が楽しむ為には邪魔なんだよ!だから…消えろ!!」

 マスティマから闇の魔力が迸るとアーサーとメドラウドは吹き飛ばされた。



「さて小僧。奴は本来の力の小僧でも持て余すかもしれんぞ?どうする?」

 バアルは俺の肩に乗ってきた。


「どうするも何も、マスティマを止めないと全滅だろ?だったら無理矢理にでも止めてやるさ!」

 俺がレーヴァテインを構えるとバアルはニャアと鳴き光出した。



「ならば、私も力を貸すぞ!」

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