【叛逆の騎士 モルドレッド】

 メドラウドは剣を正面に掲げた。

「"解放"!」

 メドラウドが持つ銀色の剣が光を放つ。


 光が収まり、メドラウドは剣を構えた。

「見た目じゃ分からねぇだろうけどよ、性能は段違いだそ!」


 メドラウドの構える剣を見て俺は驚いた。

(あれは…魔剣"クラレント"!って事はメドラウドってモルドレッド!?

 クラレントはアーサーのエクスカリバーの次に強い専用武器だったけど、モルドレッドの実装時にアーサーとモルドレッドの共通武器になった…。

 確か、アーサーの父の儀礼用の剣としてアーサーが受け継いだけど、モルドレッドが盗んでカムランの戦いで使った剣だよな。

 じゃあメドラウドってモルドレッドの別名か!まじかァ…知らなかった…。)



 メドラウドはニヤリと笑った。

「神威はもう俺が何者か分かったようだな。

 俺の母上はお前に殺されたようなモノだからな…!」

 メドラウドの瞳に殺気が籠る。


 シャイネスは不思議そうな顔をしているが、メドラウドを見据えた。

「貴女と神威殿の間にどんな経緯があるかは知らないが、今の相手は私だ!!」

 シャイネスは大剣を振り下ろす。


「だから、もう飽きたよ…でも本気のシャイネスはまだ見れていないな!」

 シャイネスの攻撃より速く、メドラウドの蹴りがシャイネスの傷口に入る。


(まだ甘さが捨てきれないのか…。あの時のゴーレム戦で吹っ切れたと思ったのにな…。)

 俺が止めに入ろうとするのを手を突き出しシャイネスは牽制した。


「大丈夫…神威殿。私はもう迷わない!メドラウド!

 アノニマス首領として貴女を捕縛します!」

 シャイネスから闇の魔力が溢れる。


「やっとヤル気になったかよ。

 んじゃ、ここからは何でもありの殺し合いだ!!」

 メドラウドの姿が揺らめく。


「モルドラと同じスキルか…!」

 シャイネスは大剣を構え意識を集中する。

「そこだっ!」

 身の丈もある大剣とは思えない速さでシャイネスは大剣を振り下ろした。


「危ねぇ危ねぇ!」

 シャイネスが振り下ろした先でメドラウドは身を翻し、かわしていた。

「なら…!」

 メドラウドの姿が再び揺らめいた。


「何度も同じ技が…!?」


 シャイネスは目を見開いた。


 メドラウドの姿が2人になっていたからだ。

『おもしれぇスキルだろ?モルドラの幻影歩行の上位スキル"幻影廻廊"だ。

 俺の幻に刻まれろ!!』


 2人になったメドラウドがシャイネスに猛攻をしかける。


「これしき!舐めるな!!」

 シャイネスが大剣を地面に叩きつけるとシャイネスの周りの地面に亀裂が走りメドラウド達はバランスを崩している。

「ダークネス ワルツ!」

 シャイネスは軽々と大剣を振りかぶり流れるように剣撃を繰り出す。



 メドラウドは舌打ちをしながら後方へ退避して避け、幻影は切り裂かれて消えた。


「流石は黒帝シャイネスか…本気になったら強いな。

 だけどよ、俺だって伊達に裏社会を牛耳っていた訳じゃない所を見せてやるよ!」

 メドラウドは深く息を吸い込むと大きく踏み込み、剣を振り下ろした。


 シャイネスは大剣で防ごうとしたが何かに気づき慌てて避けた。


 メドラウドの振り下ろした剣が地面に刺さるとシャイネスの居た場所は切り裂かれ大地に割れ目が出来ていた。


「よく気がついたな!このスキルは俺の魔力を剣に込めて斬る単純なスキルだけれど、斬れない物はない!」

 メドラウドは再び剣に魔力を注いだ。

「はァァァァ!」

 メドラウドの剣が再び振り下ろされた。


 シャイネスは大剣を構えた。


(あれを受ける気か!?俺でも喰らえば不可侵領域を超えられるぞ!?)


 シャイネスは大剣を振りかぶる。

「虚空の闇よ!全てを飲み込め!"ダークネス ヴォイド"!」

 シャイネスが振り下ろした大剣から闇の波動が放たれ、メドラウドの剣閃を飲み込みながらメドラウドに向かっていく。


「そんな技ありかよ!面白いな!"インフェルノ シールド"!」

 蒼白い炎の盾がメドラウドを護り、闇の波動は炎の盾を飲み込むと消滅した。


(炎のスキルか…俺とは相性が悪いかも…。)



「ははは!飽きたとか言って悪かったなぁ!

 やっぱり楽しいなぁ!」

 メドラウドとシャイネスの剣がぶつかり合う。



(…俺はいつまで空気なんだろう…。)

 忘れられている気がして少し寂しい。


「御主人様は、暇なのですか?」


「そうだな…見届け人って訳でもないんだが、次はお前だってメドラウドに釘を刺されってるからな。」

 腕を組み項垂れる。


「そうなのですね…。」


(!!!???)

「うぉぉぉぉ!?」

 俺はあまりに驚いて思わず声を出してしまった。


 ニアが仮面をずらしながら見上げニヤニヤしている。

「初めて、御主人様のそんな姿を見ました!なんだか嬉しいですね!」

 ニアは体をくねらせながらほくそ笑む。


(びっくりした…。)

「な…何をしてるんだ?」

 思わず声が裏返る。


「御主人様に会いに宿へ行ったら、依頼でギルドへ行ったと聞いたのでギルドに向かったら、ギルドマスターからの極秘任務と言われたのでグラリエスの小僧を問い詰め、偽装の任務をメドラウドに脅されて発行したと白状したので、少しシバいてから来ました!」

 牙が見える程の万遍の笑みで自慢げにしている。


(うわぁ………。)

「そ…そうか…。」

 顔が引き攣りそうなのが自分でも感じ取れた。


「ところで御主人様…。」

 ニアは谷底から上を見上げた。

「先程から谷の上空を旋回するドラゴンが居るのですが…どうさします?」


 俺も上を見上げるが見当たらない。

「ヴァンパイアって視力も良いんだな…倒せるか?」

 俺がニアに問い掛けるとニアは首を横に振る。


「ドラゴン種はモンスターの中でも最高位に位置します。

 いくらヴァンパイアと言えど、単騎では厳しいかと…恐らく、力だけで言えばドラゴンは魔王にも匹敵しますよ!」

 ニアが声を張り上げるとメドラウドとシャイネスの動きが止まる。


「ドラゴン…だと?」

 メドラウドの目が血走っている。


 シャイネスの視線は空へ向く。


 俺は小声でニアにたずねた。

「なぁ…なんであんなにドラゴンに反応するんだ?」


 ニアは驚いた様に声を張り上げた。

「え!?御主人様は剣士なのにドラゴンに挑みたいとは思わないのですか!?

 剣士にとってドラゴンに挑むのは剣士の矜恃なのですよ!

 それにドラゴンの中には体内で精製されるドラゴストーンと言われる魔導石を精製する個体もいて、その魔導石から造られるドラゴイーターと呼ばれる剣は属性こそ無いですが、ありとあらゆる物を紙のように切り裂く鋭利さを持つと言われているのです!」

 興奮気味にニアは語っている。


「そうか…。」

 俺は少し押されながら空を見上げた。

(ドラゴンならトリガーで散々倒したからなぁ…。でも、ゲームに居なかった個体なら気になるな…!

 それにドラゴイーター…無属性の剣…まさか都市伝説程度だったけど、6本目の無の魔剣なのか?…久々にゾクゾクしているな。

 ゲームで新モンスターや新マップが実装された時もワクワクが止まらなかったしな!)

 自分でも口元が緩んでいるのが分かった。


「御主人様?なんだかイキイキした顔をしてますよ!今の感じが本来の御主人様なのですね!」

 ニアはなにやら嬉しそうだ。


(シャイネスにもニアにも、俺が作っているのはバレてるのか…て事はルシファーやアーサー、他の姫達にもバレてるのだろうな…。)

「ははっ…なんだか恥ずかしいな…今更、素になるのも…。」

 俺は頭を掻きながらニアを見た。


「やはり本来の御主人様の方が素敵ですよ♪︎」

 ニアは仮面を外し微笑んだ。


「イチャついてる所悪いんだけどよ!あのドラゴンは俺が貰うぜ?」

 メドラウドは真っ先に駆け出した。


「神威殿!私にも本来の神威殿で接して下さい!

 メドラウド!独り占めはさせん!」

 シャイネスも顔を赤らめながら、メドラウドを追い掛けて行った。



「さて…俺達はどうする?」

 俺がニアに問い掛けるとニアは仮面を被りながら口を開いた。


「もちろん行きましょう!御主人様の強さをあの2人に見せつけてやりましょう!」

 ニアは俺の手を取り駆け出した。



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